異界獣ー品川へ
ボクは大神の秘密を考えると全然眠れなかったが気が付くといびきをかいてアオイとアカネの睡眠を邪魔していたようだった。
「ひなた!ひなた朝だよ」
アカネにゆすられて目を覚ました。
「まだ日が昇ってないよ、もうちょっと寝かせて」
布団を深くかぶってボクは再び目を閉じたがはっと思いだして飛び起きた。
「そうだ、品川へ行くだ」
アオイもアカネも身支度を整えていた。
「あたま、寝ぐせついてるよ」
アオイがブラシを投げてきた。歯を磨き顔を手早く洗うと食堂へ向かった。ヤジロウ一人ご飯を食べている。
「おはよ、ひなた、寝ぐせついてるよ」
あんたに言われなくてもわかっている。毎朝この髪とは格闘しているんだよ、ちょっとやそっとではどうにかならないの!
「大神は?」
アカネはヤジロウが一人でご飯を食べていたので聞くと
「輝也はもう食べ終わって自転車や装備のチェックをして外で体操しているよ」
いつもながらのマイペース、慌てたりするのかな大神は
「おはよう、よく眠れた」
「ハイ快適に眠ることができました」
ヤジロウが立ち上がると敬礼して答えた。ほんとお調子者だな。
「リサ先輩、ご飯をお昼用に分けさせてもらってもよろしいですか」
アオイとアカネのパパはうちの旅館の板長っで元さんと呼ばれているが超一流の料理人だ。その娘二人も父親からいろいろと手ほどきを受けていた。ボクも二人が作った物を食べたことがあるがさすがの腕前だった。
「お昼用にするのいい考えね。いらっしゃい調理室で一緒に頼んであげるわ」
アオイとアカネはリサ先輩に連れられて行った。戻ってくると山ほど塩結びを握ってきたのだった。
「わお、いっぱい作ったねでも、あなたたちのおにぎりは美味しいもんね」
「一個食べてもいい」
「ヤジロウ、昼まで我慢しなよ」
「だって二人が握ったと思うと早く食べたいよ」
無視してボクたちは大神のところへ向かって行った。
「おはよう大神」
というとかすかな声で返事をしただけ、朝は元気よくおはようだよ。
「それが私たちのBMX、いかしてるじゃん、乗りゴゴチよさそう」
とアカネはいうとさっそくまたがって器用に曲乗りをした。バイクのエンジン音がするとリサ先輩がバイクにまたがりやって来た。
「えー出前のバイクじゃないですか」
アカネがいった、色は自衛隊のオリーブドラブだが何とパパの愛車と一緒のスーパーカブだった。でも先輩が乗ると妙にかっこがいいもんだ。
「ハーレーもあったけど自転車と一緒でしょ。私はこれがいいと思ったの」
颯爽とハレーにまたがる先輩もかっこいいに違いないけどこれがベストなチョイスだと思う。
「出発するよ」
大神は言うと走り出してしまった。
「道、わかるの」
「地図は暗記した」
ほんと抜かりないというかかわいげが一切ない。
「西に向かうなら中原街道がいいと思うんだけど」
「いや東海道五十三次の課題があるから喜多屋そうだろ」
思考回路が並ではない。ここへきてまだ修学旅行気分なんだ。というわけで品川を目指すボクたちだった。
途中道路が寸断されていたり瓦礫がふさいだりしていたが自転車を巧みに操って進んでいった。驚いたのはヤジロウが巧みに車を操って大神について行っていることだった。オリンピックを見てフリースタイルに興味を持って小学校の頃から練習していたんだって意外な一面を見てしまった。
リサ先輩はどうかというと出前バイクをトレールバイクのように扱ってついてきていた。アオイが言うにはかなり改造されたバイクだそうだ。
「そこで身を隠して止まって待って居ろ」
大神が自転車を止めて命令口調で叫んだ。どうしたんだろう?リサ先輩はいうことを聞かないでバイクを降りて大神の方へ走って行った。
ボクはわが目を疑った。前方から巨大なカマキリが一匹歩いて来た、あれは何なの!
リサ先輩の右手には拳銃が握られている。大神は歪んだガードレールをつかむと引き抜いた。いや引き抜いたというよりにぎった部分から切り取った。竹刀のように構えると大カマキリに突入していった。
ボクたちは声も出すことができない。
降りかかるカマキリの鎌を紙一重で避けてガードレールを頭目掛けて叩きつけた。グシャリとめり込むと大カマキリは活動を停止した。
「私の出番なしか」
銃を収めるリサ先輩、ボクは駈け寄ると
「あの化け物は一体何なんです」
「異界獣と我々は呼んでいるわ、この大震災が起こる少し前から報道管制が引かれているけど何体か表れ始めたの」
「異界獣!?」
そんな話は聞いたことがなかったしそれを倒してしまう大神、頭がパンクしそうだった。