旅の協力者
大神のおかげでボクらは寝床と晩飯を確保することができた。突然の事態にそんなことまで気が回っていなかったが考えてみれば食事の確保や寝床の準備なんて微塵も考えていなかった。この駐屯所で働く自衛官の居住区である隊舎に案内された。スーツ姿の自衛官、三上尉官がボクたちの面倒を見てくれている。
「君たちは今夜はこの二つの部屋を使ってください。食事までしばらく時間がありますので風呂は部屋のものを使っていただいて結構ですが今はお湯が出ませんので地下にある大浴場にお湯が張ってありますので階段で降りて使用してください。食事は19:00に大食堂へ来てください」
やった―お風呂にありつける。ボクはこれでも温泉旅館の娘だ。一日暇があれば何回でも入浴してもいいくらいお風呂好きなんだ。
「さっそくお風呂に行こうよ」
「ひなた、ホテルに着替え置いて来てあるよ、どうする」
「仕方ないでしょう、湯に浸かれるだけでも疲れが取れますわ、我慢しましょ」
ボクたちは部屋にあったバスタオルとハンドタオルを持つと階段を下っていった。
「うわーっ、生き返る~やっぱお風呂はいいよね~」
湯船に沈んでいくボクは何も考えていなかった。
「ひなた、はしゃぎすぎ私たちだけとは思わなかったけど誰か来たら静かにしなよ」
「!誰か入ってくるわ」
入口がガラガラと開くと一人のショートヘアで背は180センチ以上もあるスタイル抜群の女性が入ってきた。ボクも家の事情で多くの大人の女性の裸は見たがベストスリーに入る。こんなきれいな人がどこも隠さずに目の前に現れたとその迫力にタジタジとなった。自衛官なのモデルと見まがうよ。その美女がかけ湯をしてボクの隣に座った。
「あなたたちが例の中学生ね。私は鬼無瀬リサ一佐、あとで正式に辞令が降りるけどあなたたちと行動します」
またまたボクは驚いた。こんなきれいな人がボクたちと一緒に神戸まで帰るの?ヤジロウは喜ぶだろうけどなぜまたただの中学生と命令とはいえ一緒に旅をとまた疑問が増えた。
「あのー鬼無瀬さん」
「リサと呼んでいいよ。あんまり遠慮しないで先輩なんだから」
「先輩って?」
「私もアルテミス学園の出身なのよ。第六期生よ。歳がばれちゃうね」
入ってすぐに渡されたシートにすべて素性を書き込んでいた。ボクたちは十一期生だから20歳だ。もっと大人に見えるのはクールで知的な眼差しのせいだ。何もかも見透かされているようで恥ずかしい。
「先輩はどうしてボクたちと行動するんですか」
「それは知らされていないの、しいて言えば命令だからかな」
「リサ先輩だけなんですか」
「アカネさんだっけ、その通りですよ」
「一緒に歩いてなんでしょうか」
「いえ君たちは自転車が支給されよアオイさん。私はそれをバイクで追走する」
自転車だって延々と歩いて行かなくていいってことラッキー
「自動車も何もかも動かないって聞いていますけどバイクは動くんですか」
アオイはこれまでの情報から疑問を口に出した。
「今起こっている現象は電子機器に重大な被害を与えているの、電車や航空機もコンピュータで動いているでしょ、車も今は排ガス規制ですべて電子制御だからよ。インジェクターを電子制御して燃料噴射しているけど昔ながらのエンジンはキャブレターというもので燃料を混同してエンジンに送り込んでいるの。その昔のバイクがここの倉庫にあってそれならエンジンがかかるの」
エンジンがどうやって動いているなんてボクは知らないけどアオイが理解してそうだからボクが考えなくてもいいや。
「ボクたちのこと全部頭に入っているんですか」
「スリーサイズまでシートは暗記したよあとはこうしてしゃべって分析させてもらっている」
ボクは思わず胸を隠したがムッとした。からかわれたんだスリーサイズなんて書いていないしこっちは十五歳これからまだまだ大きくなるよアラフィフながら美魔女と呼ばれているママの子だから
「あとは食事しながらお話ししましょう」
と言うとリサ先輩はさっと体を洗い上がって行ってしまった。残されたボクらはお互いの体を見つめ合っていた。脱衣所には僕たちの下着が用意されていた。
この後の食堂では思った通りヤジロウはリサ先輩にまとわりついていたが大神はまったく目も合わせないし姿を見ることもなく食事をしていた。
「無口なのね大神君はこのチームのリーダーなんだよね」
リーダーなんて決めていなかったけどそう言われればそうなんだろうと思っていたのに
「喜多屋が班長だ」
なんてことを言うのほんとにそれでいいの
「リサ先輩、僕に任せてください。僕はリサ先輩に何をすればいいんでしょうか」
恥ずかしいくらいにバカなやつ目線は先輩の胸に集中している。
「そうなのえらいのね。何かあったらお願いね」
いいようにあしらわれているがヤジロウの扱い方としてはベストだろう。
「津波はほとんどなかったんだろ、明日夜明けとともに品川に向けて出発でいいんだな」
食事を摂り終えた大神が先輩を見ずに言った。
「そうね喜多屋君もそれでいいわよね」
「もちろん!みんなよく寝ておくんだよ」
やれやれそれでも旅がいよいよ始まる。