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蠱惑

「よし、弥治郎にひなたここから先はカゲロウの指図に従うんだぞ」

 ボクたちは長良川沿いの敵の集会所となっている墨俣城(すのまたじょう)の手前でオオガミとツキノワと別れた。何かあれば合図で二人は駆けつけてくれるそうだ。入場に特に手続きもなくどんどんと周辺の農民たちが城に入っていく、その中に混じって問題なく城の中に入り込めたのだった。

「何人くらいいるんだろうね」

「さあ、3,40人はいるんじゃないかな。ひなたも情報収集してみて」

 僕は辺りの人に今日行われる集会のことをそれとなく聞き込みをしてみた。どうも小牧の城にいる城主がこの貧困の原因で、それを銀羽教の教えを信じれば飢えも年貢の取り立ても解決できると村々を周り流布しているんだそうだ。

「やじろう、どうもこの宗教は怪しいよ。ベゼル様を信じれば病気はたちどころに治り、見えなくなった目も立ちどころに光が差すなんてインチキ臭いよ」

「どうも農民を先導して小牧城の城主に一揆を討ちかけようとしているみたいだ」

「二人ともそろそろ集会が始まるわよ。こっちに固まって座りましょう」

 僕たちは出口に近い場所を選んで固まって座り何かの場合すぐ逃げ出せるように待機した。

「カゲロウさん、小牧城の城主さんてどんな人?とっても悪い城主でそこに一揆の仕掛けるつもりだよ」

「信長様だ。狙われているのは早雲斎(そううんさい)の協力を断ったからだろう。腹いせに農民を使って領地を斎藤龍興(さいとうたつおき)に奪わせるつもりだ」

「信長さんがピンチなんだ。ひなた、この時代のこと知ってる」

「聞くだけ無駄だよ日本史なんてさっぱりだよ。それがどうしたって言うの」

「僕もうろ覚えなんだけど斎藤氏ってたしか信長が一度負けた相手だったと思うよ」

「大変じゃん、そんなやつの味方をしているの銀羽教は」

「しっ、静かに」


「よくぞ皆さんこの素晴らしき集会にようこそ、わが名は法蓮坊(ほうれんぼう)偉大なる御子ベルゼブ様に仕える使徒である。皆を苦しめる。魔王信長を討つためによくぞお集まりになられた」

 小太りで脂ぎった顔、生理的に気に食わないやつだ。法蓮坊(ほうれんぼう)の前に突然炎が立ち上り民衆にどよめきが起こった。

「私の目を見ろ、そしてベゼルと唱え祈りなさい」

 法蓮坊(ほうれんぼう)の目が怪しく光り始めた。

「目を閉じなさい二人とも見ちゃダメ!」

 カゲロウがボクとヤジロウの頭を地面に押さえつけた。法蓮坊(ほうれんぼう)は何かを唱えだしたがやばいと思い耳も塞いだ。

「もう大丈夫よ。頭を上げなさい、そろそろ終わるわよ」

 壇上を見ると法蓮坊(ほうれんぼう)の代わりにネズミのような顔をした男が立っていた。

「さあ皆の者、出口に置かれている数珠(ロザリオ)を一つづ取り首にかけ明朝、再びここへ参るがよい決起の時だ」

 人々は順番に並ぶように数珠を手に取り城から出て行った。もちろん首にはすぐに掛けなかったがボクたちも一個づつ手に取り城を後にした。


「なんなんだったの、あの法蓮坊(ほうれんぼう)ってやつの目」

「あれは蠱惑(こわく)の呪法、かかれば自我の意識を奪われる。あなたたち大丈夫」

 僕は頭がふらふらとしている理由がわかった。目をそらすことはできたけど呪文は耳の奥に染みわたってきていた。

「あたまがボーとしてるけどなんとか、しかし恐ろしい相手だね。妖術も使うんだ」

「ボクは耳を塞いでいたから、ふらふらしないけど吐き気が少しするよ。カゲロウさんは平気なの」

「私は訓練しているから何ともないわ。でも少し侮っていたわね。まさか洗脳して一揆をさせようとするなんて、お堂に戻りましょう」

 ふらふらしているヤジロウを僕は背負ってカゲロウについて行った。

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