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乱破

「そんなに怯えなくても大丈夫さ、おいらはツキノワってんだ。あんたたちは僧侶に巫女って変な取り合わせだな。ここで逢い引きでもしてたのかい。それなら邪魔して悪かったな」

「ち、違うわよ。雨宿りしていただけよ。変なこと言わないでよ」

 僕はこの少年が悪いやつじゃないと直感で分かった。ひなたは最初の言葉に腹を立てて心の声に耳を貸していなかったが実際この二人は駆け落ち中だった。弥治郎は旅に出ていて偶然にその姿を見つけ辛抱たまらずにつれ出してしまったのだった。あてのない愛の逃避行中だ。

「僕たちは幼馴染で生まれ故郷迄帰る途中なんです。ところであなたはこのあたりのお方なんでしょうか」

「おいらか、違うんだ遠いところからやってきて、今はある方に仕えて極秘の任務中なんだ」

 極秘の任務ってそれは口に出しちゃ駄目だろう。でもこの子なら

「何か手伝えることはありませんか、お金も底をついて何か稼がないといけないんです」

「それは大変だな。おいらじゃ何もできないがおいちゃんなら何か考えがあるかもよ」

「おいちゃん?まだ誰か一緒にいるんですか」

「ここで待ち合わせしてるんだ。雨が止めば来るとおもんだけどな」

 ひなたは心の声と対話中のようだ。ボクたちの話も上の空で聞いている。


 ボクはこの角をはやした変なガキも気にはなっていたがひなと心の中で対話していた。遠い土地に売られて辛く寂しかった時に神社に参詣に来た弥治郎を見つけて懐かしくなり追いかけて行ったら、愛を打ち明けられて逃避行の旅に出たなんて、あんたたち無計画すぎるよ。ボクもよく言われるけどこれは一大事だよ。おまけに契りを簡単に結んじゃうなんて信じられないよ。

「ひなた、ツキノワが相談に乗ってくれるってよ」

「えっ何が何を?」

「彼のおじさんがもしかしたら僕たちを何とかしてくれるってことだよ」

「おいちゃんは愛想がなくぶっきらぼうで単細胞だけど困った人には必ず手を差し伸べるお人好しなんだよ」

「誰が愛想なしの単細胞でお人好しだ。ツキノワ」

 突然声がした。気が付けば雨も止んでいた。物音をたてずにお堂に入ってきた男はツキノワの頭をごつんと殴った。

「いて、おいちゃん、痛いよ」

「何を赤の他人にぺらぺらしゃべっているんだ。警戒が足りんぞ」

「オオガミのおいちゃん、この二人を助けてやってよ。困ってんだって」

 僕はこの男を理事長の話したオオガミのイメージと重ね合わしていた。なんだかこの人があのオオガミだとひなたの兄ちゃんに気概が少し似ているからそう思った。

「お願いします。助けてくださいオオガミさん何か手伝えることを教えてください」

 ヤジロウが土下座をしているけど、このおじさん。困った人は放っとけないなんて晴兄みたいだった。

「そんなことを言われてもな。わしらも金は持っておらんしな。!?それがしその錫杖(しゃくじょう)は」

 僕の横にあった弥治郎のものだろう錫杖にオオガミは興味を持った。

「これですか?これでも売れということですか」

「いや。それがしは水無瀬のものなのか」

「そうですがそれで何か?この錫杖は高価なものなですか。どこかに売れば高値が付くんですか。それなら僕それで構わないです」

「何かおかしいな?それがしそのしゃべり方この時代のものではないな。ハルアキのようじゃな」

 ボクは驚いた。こんなところで晴兄の名前が出るなんてとっさに

「お兄ちゃんを知っているんですか。ボク妹のひなたです」

 オオガミは大きく目を開け驚いていた。

「ハルアキの妹だって、本当か」

 ツキノワも驚いていたので僕は意を決して事の次第を話すことにした。

「じつはドーマハルト号の茶室で変なお香の匂いを嗅いだとたんこんなことになっちゃんです。信じてもらえます。僕も訳が解からないんですけど」

「ドーマハルト号だって、ハルアキもいるのか、いやそれより俺はオオガミ、君たちは」

「僕たちは喜多屋ジローでひなた、この体の人は水無瀬弥治郎でこの子はひなでどうも須久那坊(すくなぼう)の娘さんみたいなんです」

須久那坊(すくなぼう)・・それは晴人の旅館の名じゃないか、不思議な縁だな。俺たちは伊賀の乱破(らっぱ)者で藤吉郎様の命で墨俣城(すのまたじょう)に巣食う銀羽(ぎんぱ)教の動向を探っている。もしその錫杖を使えるようなら、手伝えることもあるぞ」

 乱破(らっぱ)者だって忍者じゃん、僕は心の声と相談した。錫杖のことをだ。この錫杖には不思議な力が宿っているそうで三度打ち鳴らすと戦闘服にチェンジ出来て真言を唱えると二匹の鬼を使役できるそうだ。かっこいい設定じゃないか僕は興奮した。


「ちょっと試してみますね」

 ボクは何のことかわからないまま、ヤジロウを見ていると錫杖を握り床に三度打ち鳴らした。とたんキラキラとヤジロウが輝きだすとボロボロに着崩れていた法衣が新品に手足には手甲脚絆(てっこうきゃはん)が装備され何とヘルメットにブーツを履いていた。決めポースのヤジロウに

「それなの聞いてないよ」

 ヤジロウの周りに蝙蝠が羽ばたいていた。

「弥治郎の旦那、なんかいつもと姿が違うんでやんすがどうしたでがんす」

「なにこれ?蝙蝠君、それもオプション装備」

「ん?誰でやんすか、あんたどのは」

「僕はジロー、未来の国からやって来た・・・んだけど、この人の子孫だと思うよ」

「そうでやんすか、あっしはバットリ、その法衣の取り扱い説明妖怪ざんす」

「取説かよろしく頼むよ。いろいろ教えてね」

「どうやら、使いこなせるかどうかは分からないが俺たちともに任務を遂行できそうだな。それでそっちのひなたはどうなんだ」

 聞いてきたがボクには怪力があるんだよ。そのはずだけど、お堂にあった大きな仏像を持ち上げてみることにした。驚くなよ。

「ねえちゃん、何してるの?」

 ツキノワが聞くがどうもおかしい持ち前の怪力はどうやらこの時代には来ていなかったようだ。

「すみません、何もできませんでした」

 ヤジロウが大笑いしていた。この野郎、かっとしたボクは何気に炎弾(ボイデ)の呪文をつぶやいた。炎がヤジロウに直撃してしまった。

「大丈夫!ヤジロウ」

「なんともないみたいだ。この法衣のおかげかなでもひなたも呪文打てたじゃん」


 ボクは今まで何度も練習しても発動しなかった呪文に驚いていた。


「どうも、行けるみたいです。よろしく願いまーす」


 ひなたは元気よく言ったけど、よかったこれで二人とも職にありつけたようだ。


「ところで藤吉郎様っていってたけども木下さん?」


「そうじゃ知っているのか」


 なんと豊臣秀吉じゃないか、ということは織田信長と繋がっているじゃないか。僕は少し希望の光が見えた気がしたがこの時はまだ天下人になる前だ。蘭奢待(らんじゃたい)はまだ授かっていないことにも気が付いて光は消えてしまった。

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