ナイスタイミング
魔人バグログは岩石の塊のような魔人だ。装甲が固く手足を打ち砕いても周りの妖魔を取り込んで修復してしまう厄介なやつだ。周りには先ほど倒したオーガやゴブリンの魔石が転がっている。倒す手段は核になるバグログ本体の魔石をいち早く砕くことだ。
「いつもの作戦で行くよ」
ゲームでの攻略作戦を選択した。輝也には今川隊の負傷者の手当てを頼んだ。
「レディーゴー!」
ボクたちは三方向からの攻撃準備に散った。右左の背後からアオイ、アカネ、僕は正面に位置して核の気配を探る。大抵は胸の中心心臓のあたりだ。
背後からの呪文攻撃で注意を反らす。?両肩にも何か気配を感じていたがセオリー通り心臓に狙いを定めた。二人が両手を砕いた。今だ!まっ直線に突っ込んで少し飛び上がり
「獣王百裂波!」
両手で無数の正拳を打ち込んでやった。胸にはぽっかりと穴が開き核を打ち砕いた。
「踏破完了」
仰向けに倒れたバグログを前に両手をパンパンと打ち鳴らして親指を立てた。
「おかしいわ、ひなた離れて」
アオイの声にボクはうしろに飛び退いた。バグログの体から二匹のケルべロスが飛び出してきた。冥界の番犬、首が三つある犬の怪物だ。あの気配はこれだったのか。最初から埋め込まれていたんだ。
「ちょいイレギュラーだね」
一匹がボクに襲いかかてきた。もう一匹はアオイとアカネが二人で応戦していた。苦戦と言えば苦戦中だ。意外な敵に困惑したがケルベロスは単独で倒したこともある。
「虎流爪痕漸!」
とびかかるケロべロスの腹の下に潜りぬけながら引っ掻いてやった。唸り声をあげケルベロスははらわたを垂れ流して横たわった。もう一体も三つ首を一個残してアオイとアカネによって打倒されていた。
「ちょっと焦ったね」
「ゲームとは違うね」
「ひなたもアカネもこれからは注意しないとね。これが実戦」
これで終わったと、あとははっちゃんで名古屋に行くだけだと思った瞬間である。もし僕の背中に毛が生えていたなら逆立っていただろう。飛び切りの悪寒が走った。
どーんと空からあのドラゴノイドが落ちてきた。ボクたちは疲れ果てアオイもアカネも魔力残量はゼロに近かった。最悪の再会だ。ボクは急いで右手に白虎鉄貫を装備した。
こんな時こその奥の手、ミザルの登場を願った。キッキッとブレーキの音、ボクの左背後には自転車でやって来たヤジロウがいた。ボクはほっとしたがドラゴノイドも動いた。
ヤジロウ目掛けて槍を投げつけていたのだ。一直線に飛んでくる槍に飛びつき左手で握って受け止め倒れこんだ。大丈夫なはず、メダルがボクの目の前にころころと転がってきた。受け止めた槍の先端から血がポタリと落ちた。いやな予感と共にヤジロウを見た。
お腹に手を当てて血に染まった両手を見ていた。
「なんだこれ?」と言いヤジロウは崩れ落ちた。
「ヤジロウ―!!」
ボクは這いよりヤジロウのお腹を押さえたが血が噴き出して真っ赤に僕の手を染める。アオイも飛びよって回復呪文を掛けようとするが涙があふれ取り乱している。
「ヤジロウさんしっかりしてお願い、目を開けて」
ボクは槍を握り力いっぱいドラゴノイド目掛けて投げつけたが、それをいとも簡単に受け止めくるくると回しながらこっちにゆっくりやって来た。
ヤジロウが死んじゃうよ。どうしてどうして、涙で目がにじんでヤジロウの姿も見えない。誰か誰か助けて助けてお願い!心から願った。体中の力が抜け絶望してしまった。
後ろから高鳴る心臓の鼓動の如く重い振動音がドッドッドッと聞こえる。これはあの希望の音・・・これは空耳?いや違う。ボクの前にバイクが止まった。
バイクから降りた真っ黒なレーシングスーツの人物は詠唱を始めた。
治癒を賜る精霊のその御心で苦しむものを救いたまへ
詠唱しながら真っ黒なヘルメットを外してハンドルに掛ける。こちらを振り向き
全治癒
白い光がヤジロウを包む。あのバイク、この声・・・
「お兄ちゃん~!!!」
抱き着くと涙と鼻水が噴き出してきた。
「ひなた、安心しなジローは大丈夫だ」
ぽんぽんと頭を叩くとくるりと向き直りドラゴノイドを睨んだ。
「ヨシュアの民か、なぜ妹をいじめる!」
「あの腰抜け国王のことか、あんな奴より魔王様の為働くことを選んだだけだ」
「こんな子供たちに手をかけて面白いのか!それじゃ遠慮なくやらせてもらうよ」
晴兄は目にも止まらぬ速さで奴に近づくとボクの獣王百裂波の何倍ものパンチを打ち放った。顔の形も変形して後ろに吹っ飛んでいった。どんなもんだいボクのお兄ちゃんは
ドラゴノイドは立ち上がると血の混じった唾を吐いて
「俺を怒らせやがって、目にもの見せてやる」
気が大きく膨らんでいくと体がどんどん大きくなっていって巨大な龍へと変身を遂げた。もはや怪獣だった。
晴兄はそんなことを全然気にもせず、右足を前にぐっと身をかがめていた。右足を中心に魔法陣が展開されていくと龍に向かってジャンプした。晴明電光キックだ。
どてっぱらにキックが当たると雷鳴のような大きな轟音だ鳴り響きドラゴノイドは吹っ飛んで高速下の畑に落ちていった。
晴兄は何事もなかったような顔でこちらに向かって歩いて来た。ボクが抱き着く前にアカネが首にしがみついた。
「晴兄、晴兄・・・」
アカネも泣いている鼻水は無しで
「アカネも頑張ったな」
頭を撫ぜていた。抱き着くアカネを抱えたまま
「ひなたもよくやった。頑張ったなえらいぞ。アオイもだ」
「見ていらしたんですか晴明兄さま」
「いやこの情景を見ればわかるよ君たちの活躍が目に浮かぶ。ジロー君がここにいるのは驚いたけどそれに君もひなたの同級生か怖い思いをさせてすまないな。この子たちは特別なんだ」
輝也にも声をかけていた。
「晴明さん、お会いしたかったです。どうしてここに?」
「あれ鬼無瀬さんもどうしてここに?私は北海道から実家に帰る途中だったんだよ。前方に妖魔の気配を感じて急いだんだけどもっと早く来ていれば怖い思いをこの子たちにさせずに済んだんだけど」
「私は御堂幕僚長から彼女らを神戸に連れ帰る任務を仰せつかりました。でも彼女たちに助けてもらってばかりですみません」
「へー自衛隊員になったのか、ひなたの面倒をどうもありがとう」
右手を出して握手しようとするとその手にアカネがしがみついた。まったくアカネは何を張り合ってんだ。リサ先輩にやきもち焼いて子供かよ。
「ちょっとアカネごめんよ」
手を振りほどくと握手をしたがリサ先輩の目が乙女の目になっているじゃん何々モテモテじゃん晴兄、アカネがむくれている。
「ヤジロウさんが目を覚ましたわ」
晴兄は今度はヤジロウに近寄って
「ジロー君もごめんね。怖かっただろ」
「ひなたの兄ちゃんが助けてくれたの、やっぱすごいよね。優作みたいだ。僕もあの時『なんじゃこりゃ』って言った方がよかったのかな」
いきなりわけのわからんことを言いだした。でも無事のようだいつものヤジロウだ。
「松田優作かふっふっ、いいね君はそのくらいの余裕があればこれからも大丈夫だな」
晴兄は笑っていた。
「鬼無瀬さん、この後はどうやって移動を」
「あの八式特殊輸送車で新幹線軌道を走り進みます」
「わかった。では私はここで別れてバイクで戻るよ」
「えー晴兄は付いて来てくれないの」
「ひなたなら心配はいらない、でもその鉄貫は左手に装着しなくっちゃ。利き腕が効けばジロー君を助けられただろ。攻撃よりも防御に使いなさい。それじゃ家で待っているよ」
と言い残してバイクは走り出してしまった。




