三猿
眠れなかったてのは嘘だ。朝はいつものようにアカネに大いびきを笑われ、アオイからはヘアブラシを渡された。
「昨日ヤジロウがヴァイオリン弾いた夢見たんだけど」
「何寝ぼけてんのすごい演奏したじゃない。まじで覚えてないの」
あれはボクの夢じゃなかった。
「やっぱそうなんだ。ヤジロウが男前に見えてたのが夢なのかな」
「ひなた、ヤジロウさんは元からかっこいいよ」
アオイがそんなことを言ったらアカネも
「整った顔立ちだから真顔になるとまあまあいけてるよ。前から」
うーん、ボクはヤジロウのどこを見ていたんだろう?不思議だなあ。
「おはよーひなた~寝ぐせついているよ」
いつもヤジロウだ。変わりないよ。アオイとアカネが朝ごはんをこしらえ朝ごはんを食べていた時のことだ大神が
「そうだ、喜多屋、これ渡しておくよ」
何もない空間に手を突っ込むとビロードのスマホくらいの箱を取り出した。
「ちょっと待って!どこから出したの」
「ああこれは空間収納という呪文だよ。知らなかった?」
知らないも何も初めて見たよ。だけどアオイは
「旦那様に今度教えてもらう予定の術ですわ。輝也さん教えてもらえる」
パパからよく呪文を教えてもらっているアオイは知っていた。
「じゃあご飯のあとで、それよりこれを」
ヤジロウは渡された箱を開けてみた。
「!これは何?金メダル?」
そのメダルを指でつまみ裏表をかわるがわる見つめていた。
「輝也、これ何?なんかの景品」
ボクも一枚指でつまみ眺めていた。メダルにはお猿さんが描かれていた。アカネも手に取りアオイに渡した。
「昨日の理事長の話を聞いて喜多屋が水無瀬家に連なるものだとわかったからこれを渡したんだ」
三枚のメダルは全部お猿さんだがそれぞれ目を押さえたり口を押さえたり耳を塞いだりしていた。
「大神君、それは何なの異世界から持ってきたもの?理事長には見せたの」
「鬼無瀬一佐、調べてもらいましたが今は使えないとのことでした。異世界で預かった際に水無瀬家のものに渡せと言伝られていました。それで喜多屋へ」
水無瀬家と言えば満腹寺のことだ。園長先生はそこの娘だからで息子のヤジロウはその資格があると言うことか。でも何に使うんだろう。そうだ思い出したが柄は違うが晴兄が同じものを持っている。
「輝也、これ何か使い道があるの?」
ヤジロウは服の裾でゴシゴシ拭いてからケースに戻した。
「僕にもわからないが君が持つべきものなんだろう。大事にしてくれ、いずれ何かがわかるだろう」
大神にもわからないことがあるんだ。
「今日の旅程を発表するよ。八式もあるからどんどん進んで静岡県を横断して島田宿まで、もうすぐ神戸まで半分の距離だ。ガンガン行こうぜ」
ボクは名古屋くらいが半分の場所だと思っていたが静岡県は広いんだなと感じた。食器を片付けて出発の用意をしようとしていたがふと見ると大神がアオイのリュックを持ちながら話をしながら呪文を唱えたりしていた。
「みんな喜んで、ご飯の心配がなくなったよ」
アオイは弾む声で叫んでいた。
「アオイどゆこと?」ボクは聞いた。
リュックを広げるとしまいかけのお櫃をそこに放り込んだがリュックの形は変わらない。
「収納魔法を会得したのよ。この中では食材も傷まないし鮮度を保持しながらいくらでも運べるの」
ということはここにある美味しい素材をいくらでも持って歩けるってこと。
「やったじゃん、アオイに負担はないの」
「ぜんぜん、輝也が言うには収納魔法の素質があるって、ヤジロウさんのヴァイオリンも私が持つわ」
「お肉とかでべちょべちょにならない」
「大丈夫よ区画把握すればすぐに取り出せるから」
アオイはすごいどんどん先を越されちゃうなうらやましい。ヤジロウも喜んでいるし
「では理事長に挨拶して出発しましょう」
挨拶をすませて、はっちゃん(ボクが名付けた八式特殊輸送車の愛称だ)に乗り込んで行った。




