転校生と修学旅行
ボクがなぜ東京にいるのかを少し言っておこうかな。ボクの通うアルテミス学園中等部は港町の人工島にある。タータンチェックがおしゃれでかわいい制服で寮もあるがボクはアオイとアカネと一緒に電車で通っている。学食のメニューが豊富で安くて美味しいことがお気に入りだ。
夏休みが終わり新学期が始まった。今月のメインイベントは二年生なのに修学旅行だ。三年生になると受験のためカリキュラムがハードになるからだ。
「あれ?どうしてアカネの横に机があるの」
ボクたち三人は並んで教室の一番後窓際からボク、アオイ、アカネと並んでいるがその横に真新しい机が置かれてあった。
「転校生でも来るんじゃないかしら」
「アオイ、本当!どんな子だろう、女の子かな」
「私は男の子だと思うな。焼きそばパン賭ける?」
アカネの勘はおおよそ当たっていることが多い、こう言った賭けはいつも焼きそばパンを掠め取られている。
「賭けないよ。どうせ朝どこかで見たんでしょ」
アカネはちぇっと舌打ちをする。
「ボクもアオイの分析にのるからこの賭はなし。イケメンかな」
担任は歴史の綿貫先生、突き出た腹からみんなでタヌキと呼んでいるが顔もそっくりだ。
「おはよう、今日は転入生を紹介しようみんな仲良くするんだぞ。おおがみかぐや君だ」
教室の外で待つ彼を呼んでホワイトボードに大神輝也と書いた。クラスのみんな特に女どもは目をビー玉のように輝かせてざわざわと騒いでいた。ボクもアオイやアカネと品評会を始めていた。
「こら!静かにしなさい、特に後ろの信号機トリオ、大神君が話せないじゃないか、では自己紹介をしなさい」
信号機トリオとはタヌキが付けたボクたち三人のことだ。ボクは金髪、アオイとアカネはブルーにレッドだからだ。まったくセンスの無いダサダサなネーミングだ。ママのセンスとどっこいどっこい、シグナルガールズとでも呼んでほしいよ。
転校生が喋りだそうとすると水を打ったように教室は静かになった。
「大神輝也です。よろしく」
軽く頭を下げる。低音だがよく通るヴィオラのような声、深い紫色のサラサラな髪、かすかに翠の宝石のような瞳、一瞬女の子のようにも見える。ボクは美少年という奴を初めて生で見た。
「輝也くんは何処から転校してきたの」
一番前の席のヤジロウが声を上げるが
「こらこら、喜多屋くんあとにしなさい。大神君、一番後ろの空いている机、そこが君の席だ座りなさい」
さっそく喜多屋のやじろべえが傾いたがタヌキに遮られてしまった。大神は音もなくすーっと移動するとカバンを静かに置き椅子に座った。
「私はアカネ、よろしくね」
大神を下からのぞき込み好奇心旺盛なアカネはさっそく声をかけたが軽く会釈でいなされた。アカネは少しむくれると椅子に座り直しボクとアオイに小さな声で
「愛想のない子ね」
「今日から新学期だ。もうすぐ旅行があるそれまで浮かれすぎないように勉学に励むようにそれと大神君だが信号機トリオの班に入るから八雲さん、あとで打ち合わせしなさい」
というと職員室へ戻っていった。クラスがざわざわとしだしたのは言うまでもない。女子たちが大神の席に群がり質問攻めを始めたが口に鍵でもついているように一言もしゃべらない、涼しい顔で教科書に目を通す様子にすごすごと席に戻っていったのだが
「一緒の班の喜多屋ジロー、なんでも僕に聞いてね。あとで学校を案内してあげるよ」
握手を求めると素直に大神はその手を取って
「ありがとう、よろしく頼むよ」
なぜかヤジロウだけは最初から受け入れていたのだった。あとで少し仲良くなってから聞くとなんとなくだと答えた。笑える。
ヤジロウは大神とボクらを誘い学食でパンを買ってこの学校の特等席の芝生で修学旅行の打ち合わせを始めた。
「学食での一番人気の焼きそばパン、輝也美味しいんだぞ最後にマヨビーム!」
ヤジロウは学食から持ち出したからしマヨネーズをボトルから焼きそばの上にたっぷりとかけた。
「それ持ち出しちゃだめって言われてるでしょ。まったくでもボクにも貸して、あっ自己紹介忘れてたボクは八雲ひなただよ」
ヤジロウから奪い取ったからしマヨを少しかけた焼きそばパンにかぶりついた。
「私は牛頭アカネ、大神は転校して来て早々に修学旅行だけど、学校からはちゃんと聞いてるの」
「知らなかったら私に聞いてね。牛頭アオイ。アカネの双子の妹」
二人はマヨビームなしのパンをかじる。
「今月の15日、中秋旅行のことは聞いている。東京へ行くんだね」
「中秋旅行?ボク初めて聞いたよ」
「ひなた、この学園の名アルテミスは月の女神さまのことよ。それで観月の旅を生徒たちと一緒にしようという目的なのそれがいつ間にか修学旅行なんて言われるようになったの」
「さすがアオイちゃん、僕も知らなかったよ。タヌキも言ってたけど輝也は僕たち四人と一緒に行動する班になったんだよ」
「このクラス34人だったでしょ。最初はボクたち三人でよかったんだけど班分けにあっちに行ったりこっちに行ったりふらふらとしてるうちにヤジロウは一人あぶれて泣いているところを仕方なくボクが拾ってあげたんだ」
「酷いなひなた、保育園からの友達なのに」
そう彼もこの学園の中の唯一の幼馴染なんだ。
「旅程は二泊三日、初日は全員であの夢の国行って、二日目は班ごとに校外学習してその夜はまた全員でスカイツリーからお月見、最終日、はとバスで都内観光ってな感じでボクたちの班はヤジロウが考えるって言ったわよね。いいプラン考えたの」
ヤジロウは旅のしおりと手書きで書いた紙を広げた。
「ばっちだよ、校外学習の研究テーマは東海道五十三次を調べるだよ」
得意げなヤジロウに
「ボクは興味ないよ。東海道五十三次なんて」
「わたしも渋谷や新宿でお洋服見たな」
ボクもアカネもあまり気に乗らなかったがアオイは
「いい案じゃない、研究発表もしやすそうだし広重の版画と今の風景はどうっておもしろそうじゃない」
「意見が分かれたけど恨みっこなしで輝也に決めてもらおうよ」
「いいわよ。大神はどう思う」
四人の視線が大神に注がれた。
「プランBがそんなことなら喜多屋の案で僕はいいよ」
ガッツポーズをするヤジロウ、そんなことでボクらはパパおススメの銀座の洋食屋さんでお昼を食べて日本橋へ向かっている途中に大震災に巻き込まれちゃったてわけなんだ。