因果律って?なあに
宝蔵院重工研究所の屋上は社員用の保養所となっていた。ビルの屋上には日本庭園に和風の宿泊施設が設置されていたのだ。研究所の入り口とは別のエレベータで直接入ることができた。ボクは胸が高まってきた。そんな演出で社員たちに喜んでもらおうとしていたのだった。
「僕も卒業して駅伝に出た後はここで働かせてもらおうかな。理事長のコネでいけるよね」
ヤジロウの夢の続きがそれなんだ。あまり夢について深く考えなくていいのかもしれない。従業員はいないのですべてセルフで使ってくれとのこと。気を使わなくていいのはいいことだ。家のお手伝いするようなもんだから。施設マニュアルと従業員マニュアルを理事長からもらっていたのでさっそくお湯を張ろうとアオイとアカネを連れてお風呂のバックヤードへ向かって行った。
「ここで沸かしたお湯を湯船に送るのか。熱いお湯が沸いているわけじゃないんだ」
ボクの旅館とはだいぶ仕組みが違っていてマニュアルを読もうとしていたら
「僕がお湯にするから任せておいて」
アカネはいうとタンクを開けて右腕を突っ込んで呪文を使った。便利だな魔法が使えるとと少しうらやましかった。湯船の方へ行って確認をすると温かいお湯が張られていた。富士山に向かう一面は大きな一枚ガラスで夕日に染まる富士山が見えた。
「リアル銭湯絵だな」
しばらく見惚れていたのだが
「先に入らせてもらいましょ。ひなたも早く服を脱いできなさい。温度調整は私がするから」
少し熱いかなと思っていたがアオイが呪文で調整してくれる。
「はーい、リサ先輩呼んでくる」
ロビーでヤジロウたちと話している先輩に
「お風呂先にいただきましょ。ヤジロウたちはそのあとでよ」
先輩の手を引き風呂場に向かって行った。脱衣場には浴衣をオアイが用意してくれていた。さすが気が利く。急いで服を脱いで湯気の立ち込める浴室に入ると
「ひなたも先輩も下着、ここで洗うから持って入るんだよ」
そうだ替えがなかった。
ボクは体と下着を洗い大きな浴槽へと身を沈めていった。
「いいお湯だな~まさか温泉に入れるなんて、ヤジロウじゃないけどこの会社マジでいいな。先輩のスベスベの肌にぴったりな泉質だよ」
リサ先輩は目を閉じて岩にもたれてため息をついて、
「疲れもいっぺんに吹き飛んじゃうわ、今日は心身ともにどっと疲労したから」
「ですよね~リサ先輩は理事長の話、どう思いました」
「何もかも予想を超えていたわ、本当にあなたの家族はすごいことしていたのね。ひなたこそ大丈夫、ショッキングなことばっかりだったけど」
「不思議とそんなこともしそうなパパとママたちだなと素直に思っちゃた。アオイとアカネは」
「私も大神君のことも想定の範囲内かな」
「アオイもそう思うんだ僕もこのくらいのことあってもいいかな」
「たくましい子供たちね。因果律の中にあなたたちも取り込まれたのよ」
「インガリツって何?」
ボクは漢字が思い浮かばなかったし難しい言葉だなと聞いた。先輩は湯気に曇るガラスに指で因果律と書いた。
「これから起こることは、必ずある原因によって起こり、原因なしには何ごとも起こらないということかな」
さっぱりわからないがアオイはわかったようだ。
「あなたたち家族はなすべきことがあるってこと、宿命よこの世界を守ることが」
ヒーローものが大好きなパパや晴兄が言いそうなセリフ。ぷっと笑ってしまった。久しぶりの温泉で長湯をしてしまった。ステキな富士山の風景はヤジロウたちにはお預けだ。
浴衣に着替えたが下着は乾燥機に入ったままで少しおしとやかにしないといけない。ヤジロウたちがお風呂から出てくるまでには渇いているだろう。
「ヤジロウ、タッチ交代、ゆっくり疲れが取れるようにお風呂に入りな」
ヤジロウは赤い顔をしてオオガミとお風呂に行った。ん?もしかして下着はいてないのばれてる。ボクたちは晩御飯の用意を始めた。
「先輩は何が食べたいですか?いろいろ食材があるのでリクエストに応えますよ。アオイとアカネが」
「あなたたちにお任せするわ。何でもおいしそうで楽しみよ」
ボクは何が食べたいかなぁ、これからの旅先ではこんな恵まれた環境はなさそうなのであれこれ思い浮かべていると
「お家のご飯見たいなものにしましょ。アカネ作ろう」
「いいね。お願いね」
あんなにお肉を食べたはずなのにお腹が鳴った。
ヤジロウたちが戻ってきたがヤジロウはなぜか腰を引き屈み込む姿勢で両手で股間を隠していた。
「どうしたんだよヤジロウ、いいお湯だったろ、背筋を伸ばしなよ」
「ちょっと事情があって勘弁してよ」
「なに事情って」
ヤジロウは恥ずかしそうに
「輝也が女の子だったて聞いただろ、お風呂で輝也の裸を見ているうちに女の子に見えて・・・元気になっちゃただけだよ。笑うなよ」
?どういうこと、先輩が耳打ちしてその理由を教えてくれた。こっちの顔が真っ赤になった。
「バカ!」とだけ言ってやった。




