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富士の見える温泉

「理事長!私は何も知らされず、任務ということでここまで参りましたがぜひその十五年前の事件のことを話していただけませんか」

 リサ先輩も何も知らずにここまで来ていたのか。ボクもパパとママが関係していると聞いて知りたくなっていたのだ。

「パパとママがそれと晴兄(はるにい)がどうしたのか知りたい」

 理事長はボクたちを見回して

「仕方ない長くなるぞ」

 と前置きをしてボクの生まれる前、パパが一度死んでしまったところから話し始めた。ボクは涙が止まらなくなりパパとママに無性に逢いたくなっていた。


「ねえ、それって本当の話なの晴海姉ちゃんや永晴おじさんに百花おばさんも関係していたってこと、僕は部外者だろ思って聞いていたら途中からとんでもないことになっていて、おじいちゃん一言も話してくれてなかった」

 ボクもヤジロウの親戚まで巻き込まれていたとはここに集められたボクたちみんな関わっていただなんてどうすればいいかわからなくなってしまった。


 話を聞き終わったころには日も傾き西日が理事長の顔に射していた。リサ先輩はカーテンを閉めると

「御堂幕僚長もそんな経験をしておられたのですね。お話の中にオオガミ、カグヤという名が出て参りましたが、彼はその縁石に連なる人物なんでしょうか」

 そうボクもその名が出るたびにちらちらと大神輝夜を見ていたがどうにも繋がらない。

「ばらしてもいいかなカグヤ」

「僕から話します」

 みんなの目が大神に釘付けになった。

「ちょっと待って、トイレにってもいいさっきから我慢してたんだ」

 ヤジロウはそういうとトイレに走って行った。ボクも尿意をもよおし

「ごめん、ボクも」

 トイレに向かうとアオイとアカネもついて来た。ハンカチで手を拭きながら戻ってきたヤジロウとすれ違うと

「なんだひなたたちは連れションか、早く戻って来いよ」

 デリカシーの無いことを言って部屋に戻っていた。ボクは二人を待って部屋に戻っていこうとしたが

「ひなた、わたしたち姉妹はあまり関係なさそうだけど気持ちは一緒だよ」

 アオイも頷いていた。

「ありがとうアカネ、アオイ心強いよ」

 ドアを開けると大神は立ち上がってスクリーンの前にいた。

「君たちと旅をして僕は楽しかったよ。この話を聞いて関係が壊れても僕は後悔はしない。いい思い出をありがとう」

「なにお別れの挨拶してるんだよ輝也、水臭いぜ。ボクはこれからも友達さ」

 ヤジロウは臭いセリフを言っていた。何を大神は話すのか、それでボクとの関係が壊れることはないと思っていた。

「僕は理事長が語った中のカグヤだ。晴海を助け一度は死んでその記憶を受け継いだクローン体なんだ」

「えっ?女の子だろカグヤって子は」

「クローンのもとはオオガミと呼ばれた男で今回のクローニングはオリジナルにより近い形で再生されたからだ。実年齢も君たちと同じで間違いはない」

「クローンだから何だっていうんだよ。それなら問題ないよ輝也、苦労したんだな」

「バカなダジャレなんか言ってヤジロウ。それで大神、これからもよろしくな。ため口でいいんだよな」

 そこにいるのがボクと何も変わらない人間だと安心した。理事長みたいなアンドロイドだったら微妙だったけど。

「よかったなカグヤ、いい仲間たちじゃないかね。今日は時間も遅い皆さんここに宿泊して行ってください。絶景の露天風呂がありますから旅の疲れを十分に取って明日に備えてください」

「露天風呂だって、温泉なんですか」

「ええ湯の花沢温泉から湯を引いて富士山が見えるいい湯だと思いますよ」

 ボクは飛び上がって喜んだ。こんなヘビーな話を聞いた後のお風呂はスッキリするだろうなと思った。

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