異世界からの使者
ご飯も炊きあがり食事の準備が整った。アカネは手際よく肉を焼き砂糖と醤油で味を調えだした。牛脂の焼けるいい匂いが広がり幸せも部屋中に満たされた。
「昼間からすき焼なんて贅沢だな」
卵をかき混ぜながらヤジロウは肉の行方を追っていた。
「もういいよヤジロウ、お野菜も食べるんだよ」
「お母さんみたいだなアカネは、わかってますよーだ。輝也も早く食べようぜ。ひなたに全部食べられる前に」
「そんなに食べないよ。大神、理事長と何を話してたのボクに教えてよ」
大神は目を反らして無言で野菜を食べていた。
「輝夜、何とか言えば。理事長さん内緒の話なの」
ヤジロウは食事を摂らずに後ろで座っている理事長に聞いてみた。
「そうだねこれまで一緒に旅をしてきてカグヤの不思議な力も見てきたことだし私から話してあげるとするか。いいねカグヤ」
大神は仕方ないといった顔でコクリと頷いた。
「彼はこの世界の住人ではない。異界獣の居た世界から来た人間なんだ」
ボクらの箸が止まった。
「異界人ってことですか。輝也ホントなの!かっこいいよな!」
ボクはズッコケた。ヤジロウはなんでもポジティブシンキングだなぁ。大神も苦笑いだ。
「理事長!それは事実なんですよね。侵略をしている異世界側の人間なんですか」
リサ先輩が言ったことが事実なのなら、この異常事態は異世界からの侵略ということなのだ。
「食事のあとミーティングをしようと思っていたのですが、しばらく答えは待ってもらいましょうか。気になさらずに食事を続けてください」
そんなことを言われても食べた気がしないが、食事をしながら話す話でもなさそうだ。みんなは無言で急いですき焼を食べ始めた。
「ご馳走様でした!」
ボクは一番に食べ終わるとテーブルを片付け始めた。それぞれ食べ終わると続けて食器をキッチンまで運びこれまた無言で洗い物を始めた。
「よろしいですか。場所を移動してミーティングをしましょう」
と理事長は言うとボクたちをセキュリティーエリアまで誘導した。すき焼の残り香の中で話す話でもなさそうだ。それぞれのIDカードで入室すると巨大モニターに地図が映し出された。
「これはわが社の衛星が写したあの地震が起こってすぐの映像だ」
ボクは何か違和感を覚えたがアオイは
「この大陸は何でしょうか」
太平洋沖に本州を逆さまにしたような陸地が浮かんでいた。
「ユートガルト大陸、異世界にあった土地です。異世界ゲートが一斉に開き転送されてきたのです。そのため大きな地震が伴っていたのです」
この先何が起こっても驚かないと誓っていたがそれは無理そうだ。まだまだ驚くことが続きそうだった。アオイだけは冷静で質問係を務めていた。
「理事長はどうしてあの大陸の名前までご存じなですか。それに大神君はあそこから来たとおっしゃられていましたがていましたが敵側の人間なんですか」
「そんなことあるはずないじゃん!輝也は僕たちの友達だよ。ねえなんとか言って」
ヤジロウは輝也をかばっていた。
「カグヤ君はこっち側の人間で私の昔から友人でもある。安心しなさい。この危機にわざわざ向こうから来てくれたんだよ」
「ピンチで現れるヒーローじゃん!輝也!やっぱかっこいいな」
「喜多屋くん、そんなものじゃないよ。ただみんなの補助をするためやってきただけだよ」
「そんなご謙遜を変身したりするんでしょ」
そんなお約束のヒーロー像を夢見ているヤジロウだった。
「彼の言う通り補助役だと思ってください。何とかこの侵略の理由を探り和平の使者の立場なんです」
「侵略者がどんな人なのかご存じなですか?理事長は」
「おそらく私だ」
??!何を言っているんだよ理事長はボクはやっと声が出た。
「どういうこと」
「少し順を追って話さないといけないですね。私は宝蔵院天鼓のコピーなんです。すべての記憶を持ったアンドロイドです」
理事長の顔が二つに割れると機械の顔があらわれた。これには何度目だろう驚いた。ボクだけではないけど、元の顔に戻った理事長は
「十五年前のある事件、これは話すと途方もなく長そうなので端折りますがひなたさん、あなたのご両親とお兄様も関係しておりまして私のオリジナル宝蔵院天鼓は行方をくらまし魔界の王となっていたのです。そして侵略を始めたのです」
ボクの両親や晴兄までが関係者!
「大神は知っていたの」
「晴明は私の親友だ。君の両親も大切な仲間だ」
てことは大神は見た目の年齢じゃないってこと・・・




