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アオイとアカネとヤジロウと

 よーしまずはお風呂の準備だ。裏庭に回ると薪がうず高く積まれていた。これは割らないとリサ先輩と一緒にお風呂用と厨房用の薪割をすることにした。

 でも(なた)が一つしかなかったのでボクは先輩にそれを渡した。

(なた)は一つしかないのひなたちゃん、でも必要なさそうね」

 ボクが手刀で薪を真っ二つにしていくのを見て納得していた。

「ひなたちゃんは空手でも習っているの、すごいわね」

 これも我が家の修業のおかげだ。ママが先生でアオイもアカネも同じことができる。たっぷりの薪が出来たのでお風呂を沸かし始めた。

「さあどっちが先に入るかじゃんけんしようか」

「僕より先にひなたたちからお先にどうぞ。汗びっしょりだよ」

「いいのヤジロウ、じゃあ女の子から先ね。覗いちゃだめだよ」

 ヤジロウはとぼけて口笛を吹いているがそのつもりだったな。

「ひなたたちの入ったお湯に浸かれるなんて幸せだな。輝也もそうだろ」

 げっ変態かよ。やっぱり先に入ってもらおうかな。

「喜多屋は面白いな。そんなふうにいつもポジティブ思考になれるなんて羨ましいな」

 大神がヤジロウをほめている。不思議なこともあるものだ。どう考えて君がうらやましがられる方なんだよ。


「やっぱお風呂はいいな」

 ぶくぶくと湯船に沈みしみじみ幸せの瞬間を味わっていた。

「ほんと気持ちいいね」

 隣でははちきれんばかりの胸もあらわなリサ先輩も幸せをうな顔だ。

「ねえどんなものを作るの夕食」

「そうね携帯食の缶詰をアレンジするわ」

「楽しみね。あなたたち三人もこれからが楽しみね。どんな風になるのかしら」


「ああ~さっぱりした。あれ?ヤジロウは大神」

「出て行ったよ。なんでも近くで畑を見たから分けてもらえないか頼みに行った」

 ボクも大神を見習ってヤジロウの評価を見直そうかなでもエッチすぎ。

「こんなにたくさん、ほら」

 戻ってきたヤジロウは両手に大根やナスなど野菜を抱えていた。

「ヤジロウ君、ありがとう、美味しいもの作るから」

 アオイが言うと

「アオイの笑顔が僕のご褒美だよ」

 それはイケメンが言ってこその言葉だ。似合ってないよ。

「早く大神とお風呂してきなよ。冷めちゃうよ」

「はいはい、ママみたいなこと言うなよ。輝也行こう」

 大神は少し躊躇していた。

「入らないの大神も汗かいているだろ」

「そうだよ。隊舎の時は一人部屋で水風呂してたろ。はだか同士男の付き合いと行こうぜ。もしかしてほんとは女の子だったりして」

 ヤジロウの言うのもわかる。じつは男装の麗人てなわけはないか。大神はヤジロウのあとをついて風呂場へ向かって行った。


 ご飯の炊けるいい匂いがしてきた。

「ああさっぱりした。体の疲れもとれるね。んっひなた?何輝夜見ているのちゃんとついてたよ。僕より立派なのが」

「バカ!そんなの聞いてないよ。さっさと座りなさい。ご飯できてるよ」

 まったくデリカシーのかけらもないやつだ。アオイとアカネは料理を運んできた。

「ヤジロウ君の調達した焼きナスの煮びたし、鯖缶と大根の炊いたんにほうれんそうの胡麻和え、和尚さんもたくさん食べてください」

 せっかくだから泊めてもらっているので和尚さんもご一緒してもらっていた。

「これは美味しいのう、久しぶりに食事を摂ったという感じだよ。御泊めしたのも仏のお導きじゃのう」

「お口にあって光栄です。ヤジロウさんはどう」

「こっちがアオイの作った茄子だね。とっても美味しいよ」

「どうしてそっちがアオイの作ったほうだとわかるの」

「アオイって感じがするから、こっちの大根はアカネだろ」

「よくわからないけどあってるわ。不思議な舌ね」

 僕にはどっちも美味しくてそんな違いは分からなかったがヤジロウはアオイとアカネが髪を染める前からちゃんと区別できていた。どこが違うんだろう。


「明日の旅程を発表しまーす。戸塚~平塚~大磯~小田原と一気に進んじゃいます」

 ご飯を食べながらヤジロウは明日のことを話した。たしかに今のペースはちょっとスローかなと思っていたところだった。

「ヤジロウ、望むところだ権太坂どっちが先に登りきるか賭けようか焼きそばパン」

 アカネ焼きそばパンは無理だと思うよ。

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