◎プロローグ
鬼門関外は遠いという事なかれ
ビルは斜めに崩れ道路には大きな亀裂が走る。空からはどこかで火災が起こったのか灰が雪のように降り注いでいた。学校の授業で平成に起こった震災の恐ろしさは知ったつもりでいたのは気のせいだった。この情景がリアルなのだとボクは知った。
なぜこんなことが起こっているのか調べようにもスマホはまったく起動せず、周りの大人たちも逃げ惑うばかりで何も教えてくれない。僕たち五人は土地勘のない銀座で孤立無援となってしまった。
ところでこんな状況下なのだから手短に自分たちのことを話すけどボクはひなた、来年の三月で十五歳になる女子中学生だ。隣にいる女の子は双子の姉妹でアオイとアカネ、生まれたときからの付き合いだ。あたふたとそこらをうろうろしているのが喜多屋、ボクたちより背が低いがクラスメイトでこれといった特徴のない顔をしているが陸上部では結構活躍をしているらしい。最後に落下してきた大きな瓦礫の上に登って辺りを観察しているのが大神、めったにしゃべらないが少女と見間違えるほどのとびきりの美少年だ。
「大神!何か見えるの」
大声でボクが叫ぶと数メートルはある瓦礫の山を獣のように足場とも言えない突起を飛び跳ね下りて来た。
「公園か何か避難場所があるんだろう。みんな同じ方向に歩いている。俺たちも一緒に移動したほうがいいだろう」
「輝也の言うとおりだ。早く僕たちも避難しないといけないよ」
「ヤジロウさんもそう申しております、大神さん、誘導してくださる」
アオイはいつでも沈着冷静で姉のアカネとは反対の性格でいつも頼りになる。喜多屋が真っ先に大神に寄り添って行く。ヤジロウとは喜多屋ジローのことである。日和見な性格で右へ左と揺れ動くヤジロベエの意味でそう呼ばれているがチョイスはおおまかだけど正しいところが多い。
避難場所へ向かうがあたりの店舗を見ると電気も止まっているようであった。スマホも全く電波を拾わないどころか起動していない。何も情報が得られないまま日比谷公園にたどり着いた。
「誰に聞いて何も情報がないみたいだよ誘導している区役所の人も防災無線もつながらないんだって」
喜多屋はあっちこっち動き回っては戻り報告をしてくる。意外と役に立つところもあるもんだとボクは見直していた。
余震が起こるとあちらこちらで悲鳴が上がっている。頻繁に地震は続いている。
「一度ホテルに戻ってみんなや先生と合流したほうがいいんじゃない」
「無駄だと思うよヤジロウ、きっと向こうも混乱してどうにもならないよ」
アカネが言うことにボクも同感だ。今はきっと誰も戻ってきていないと断言できる。
「原因はわからないがそこらの車やこういう時に飛び回っいるヘリコプターさえ動いていない。通信も遮断、自らの判断を優先した方がよさそうだ」
珍しく大神がしゃべっている。このことの方が異常事態だと思ってしまう。
「大神はどうしたらいいと思うの」
ボクの問いに
「もうかれこれ一時間以上たっている。救援活動が遅すぎる、これはおそらくかなりの広範囲で同じことが起こっていると見るのが妥当だ。俺たちは自力で家に帰ることが必要だと思う」
「えっえぇ!神戸までだよ。無理に決まってるわ」
大神の言葉にボクは驚いた、500キロ以上の距離だ。それを交通機関も使わずに移動できるわけがない。
「ひなた、私たちは物心つくころからサバイバル訓練を受けていたじゃない。きっとこんな時の為だと旦那さんや女将にそれに晴兄から受けてたんじゃない」
そうだボクたち三人は小さい頃からパパやママと晴兄から遊びを覚える前から修行のようなことをしていた。それが普通のことのように
「そうだね、いっちょ実戦と行こうじゃないの大神もヤジロウも」
「ひなた、なに言っているかわかる!?何の援助もなしにできるはずないよ」
「つべこべ言うな喜多屋、津波の危険性もある移動するぞ」
この場所での情報収集は無意味だと悟った大神は立ち上がり東京湾から逃れるように北を目指し始めた。喜多屋も仕方なくあとを追って行った。変な話だがボクはなぜかワクワクしていた。眠っていた血が目覚めたかのようにアオイやアカネたちも気のせいか笑っていた。
果たして五人は無事に郷里までたどり着けるのか、何か訳ありな美少年大神は何者なのでありましょう。
お楽しみに次回、謎の震災と共に解き明かせれていくのでしょうか。




