アンニュイなオレの仲間たち 3
「ンモーーーーッ!!」
出て来たのはオレたちの目的。ミノタウロス。
オレもそこそこデカイ方だが、ミノタウロスはそんなオレより、横も縦も一回り以上でけえ。
ボロボロだがこれまたデカイ大斧で武装してるし、こいつの相手は骨が折れそうだ。
ミシェリアは起き上がると、すぐさま召喚契約の魔法陣でミノタウロスを覆った。
あの中で召喚術者は対象と交渉して、うまくいけば召喚契約成立だ。
おとなしく召喚契約が成立してくれりゃ、こっちも楽で――、
「ンモアァーーーー!!!」
・・・ミノタウロスは激ギレして魔法陣をぶち破った。
ま、こうなるだろうとは思ったが、やっぱり交渉決裂か。
交渉は言葉じゃなくお互いの意識、テレパシーみたいな方法で行う。
だからどんな交渉したのかは本人同士にしかわからねえが、オレの時は一方的に「あたしの奴隷になれ。断るなら殺す」だった。
これを交渉と言っていいのかは知らねえが、少なくともしょっぱなからこんなこと言われて快諾する奴なんていねえ。
オレもさすがにブチギレて戦いそうになったが、召喚奴隷になった奴らと戦いたくねえから、早々にギブアップしたけどな。
「てめえら!! 出来るだけ傷つけねえように痛めつけろ!!」
「グラグギッシャギ!!(簡単に言ってくれるぜ!!)」
フォーテルとニャン吉が先行してミノタウロスに牽制をしかけ、そのままミノタウロスの周りでヒット&ウェイを繰り返し、
「ブフーーーッ!!」
ミノタウロスの注意がフォーテルとニャン吉に向いてる隙に、オレが槍を構えて突撃。
「モオオォォーーーーッ!!」
オレの接近に気付いたミノタウロスは、大斧でオレを迎え撃つ。が、それもこっちの計算のうち。
後詰にレオンが飛び出し、ミノタウロスの腹を噛み――、
「ンモーーーッ!!」
「!?」
後一歩のところでミノタウロスが大斧をブン回したせいで、折角の連携が途切れて、オレらは一旦ミノタウロスから離れるハメになっちまった。
「ちっ。途中までは上手く行ってたが、そう簡単にはいかねえか」
「どうするにゃ?」
「フォーテルとニャン吉で先制してかき回し、わしとリザドで攻撃する基本戦術は問題ないはずじゃ」
「ああ。ここは無理に戦術を変えず、このまま追い詰めていこう」
「あいよ!!」
「わかったにゃ!!」
そうしてオレらは気を取り直して戦い始めたんだが、ミノタウロスも必死で抵抗してくる。
まあ当然と言えば当然だ。
負けりゃ死ぬか人種に服従かのどっちかだからな。
とは言えオレらも手を抜けねえ。
そんなことをしたらミシェリアに何されるかわかったもんじゃねえし、下手すりゃミノタウロスに殺されちまう。
だからオレらも必死で戦ってるんだが、しばらく戦ってもミノタウロスを追い詰めきれず、こっちもだいぶ疲れが溜まってきた。
つっても、ミノタウロスを殺すだけならもっと楽にヤレる。
確かにミノタウロスは強えが、向こうが1体に対してこっちは4体いるんだ。
だが相手はこっちを殺す気だが、こっちは相手を殺さないように気を遣いながら戦わなきゃならねえ。
しかも出来るだけ傷をつけずに、だ。
召喚奴隷にしたからって、それまでにつけた傷や怪我が治るわけじゃねえからな。
傷だらけだったらまともに役に立たねえし、最悪、召喚奴隷にした直後に死んじまう。
そんなだから、どうしても攻撃の手が緩くなって、そこから反撃されちまう。
「いつまでてこずってんだてめえら!! もっとマジメにやりやがれ!!」
こっちだって必死で戦ってるってのに、あいつはいつも勝手なことばっかりだ。
文句言ったところで通じねえし、仮に通じたとしても無視だろうから言わねえけどよ。
「しかしまあ、オレやレオンはまだ平気だとしても、ずっと動き回ってるフォーテルとニャン吉の動きが段々鈍くなってきてるな」
お互いに疲れてきてるが、オレらが優勢なのは間違いない。
けど後一押しが足りねえ。
ミノタウロスを殺さないように、かつ出来るだけ傷つけねえでミノタウロスの動きを止めなきゃならねえんだが・・・このままじゃちょっちキツイな。
「リザド」
どうしたものかと思ってるところに、攻撃の手を緩めないまま、レオンがオレの近くに移動してきた。
「このままではいずれこちらに被害が出てしまうじゃろう。こうなれば、ミノタウロスの腕や足を使えなくさせるしかあるまい」
「いいのか? そんなことしたら後でミシェリアがキレんじゃねえの?」
「だとしても仕方あるまい。仲間が傷つけられるよりはマシじゃ」
そう言われてオレも、はっとなった。
確かにレオンの言う通りだ。
「・・・わかった。それじゃどうする? 何かいい作戦あるか?」
「そんなものは必要なかろう。今まで傷をつけまいと一歩引いてた攻撃を、一歩踏み込んで攻撃すればいいだけじゃ」
「おし! そうと決まれば次のチャンスにやるか!」
そして、そのチャンスはすぐに来た。
今も頑張ってくれてるフォーテルとニャン吉のお陰で、足にきたミノタウロスが体勢を崩して膝をついたのだ。
「今だ!! 行くぜレオン!!」
ミノタウロスが体勢を立て直す前にオレはその太い腕に槍を突き刺し、レオンはミノタウロスの足に牙を食い込ませた。
「ンモーッ!!!」
もちろん致命傷にはしてないが、それでも激痛に泡吹いて叫んでる。
「なにしてる!?」
「傷つけたらダメにゃ!」
フォーテルとニャン吉の驚いた声が聞こえたが、その反応は予想済みだ。
オレは槍を引き抜き、そのままミノタウロスの首に槍を突きつける。
さすがのミノタウロスも、これ以上の抵抗は無理と諦めたのか、悔しそうに鼻息荒くしながらもおとなしくなった。
ただ予想外だったのは、動けなくなったミノタウロスに近付くミシェリアが「召喚奴隷にする奴を傷つけてどうすんだ!!」ってキレると思ったのに何も言わなかったことだ。
まあ、こうでもしないとミノタウロスをおとなしくさせれないと、見ててわかったんだろう。
オレとレオンで動きを封じてるミノタウロスの前に立ったミシェリアは、睨み付けてくるミノタウロスを逆に見下しながら、さっきと同じ召喚契約の魔法陣でミノタウロスを覆った。
召喚契約は相手をどれだけ痛めつけようが、相手が従う意思を持たないと成立しない。
当然ほとんどの奴が従う意思なんて持たねえから、根気よく何度も叩き伏せて従わせるのがセオリーなんだが、ミシェリアはそういうタイプじゃねえ。
だから今度はさっきと違って、交渉というか、たぶん脅迫するつもりだ。
以前フォーテルに聞いた話しだが、ミシェリアに襲われたフォーテルは、傷つきながらも最後まで召喚奴隷になることを拒んだ。死んでも召喚奴隷なんぞにならないと。
するとミシェリアは、こう言ってきたらしい。
まずは腕を潰す。次に足。次に・・・ってな感じで続き、一思いに殺されるのならまだしも、数々の拷問と屈辱、最後はその死すらも辱められることに耐えられず、フォーテルはミシェリアの召喚奴隷になったと。
ミノタウロス相手にどんな脅迫してるのかはわからねえが、もしここで召喚奴隷になるのを拒否しようものなら、ミシェリアは容赦なく言ったことを実行に移し、それでも断るなら殺し、また別の奴を探すはずだ。
「・・・さて、どうなるだろうな。拷問なんて見たくねえが・・・」
「ドキドキにゃ・・・」
「すんなりと上手くいってほしいものじゃが、はてさて」
「・・・・・・・・・」
自分の時のことを思い出してるのか、フォーテルの表情は厳しい。
やがて、交渉か脅迫が始まって数分後。
ミノタウロスはがっくりと力を失うように項垂れると、ミノタウロスの体に召喚奴隷の刻印が刻まれた。 つまり、ミノタウロスがミシェリアに従うことを認め、召喚奴隷になったってことだ。
ちなみにオレらの体にも、ミシェリアの召喚奴隷である証の、同じ刻印が刻まれてる。
「すぐにてめえを使うことになるからさっさと傷を治しておけ。傷だらけで役に立たねえ奴なんていらねえからな」
・・・いつものことだが、ヒデェ言い草だ。
普段なら怒り狂うようなことも、今はミノタウロスも体をプルプルさせて怒りを耐えてる。
しかもその傷はオレとレオンがつけたものだから、オレも余計に心苦しい。
「・・・あ~。まあ、さっきは怪我させて悪かったな。これからよろしく頼むぜ」 「・・・・・・・・・」
・・・案の定、ミノタウロスはオレらを睨んでる。
いや、確かに言ったオレすら白々しいと思ってるけどさ。
「そう睨むなって。お前の気持ちも言いたいこともわかる。人種の手先になったクソが白々しく何言ってやがるって思ってんだろ? けどお前もそのうちわかるよ。召喚術者恨んで召喚奴隷恨まず、ってな」
そうして、傷負いのミノタウロスをその場に残し、オレらは森の外までミシェリアを護衛して、その日は解散となった。