アンニュイなオレの日常 3
「ウガアアアア!!!」
「オオオオオ!!!」
「シャーーーッ!!!」
戦いが始まって1時間以上。
個体としてはさして強くもないオレらは、連携をとって戦うのが基本だ。
今回も事前に打ち合わせしていた作戦の通り、ニャン吉とフォーテルが敵に突っ込み、引っ掻き回したところでオレがトドメを刺し、取り逃した奴をレオンがしとめる。
この連携が今回はかなりハマっていて、オレらは敵陣へと攻め入り次々と戦功を上げていた。
そんなオレらの活躍もあって、戦況はかなり優勢に傾いてるようなんだが・・・。
「ふにゃぁ・・・ふにゃぁ・・・。そろそろ疲れてきたにゃぁ・・・」
戦況は確かに優勢だが、さすがにみんなにも疲労の色が――、
「何やってんだ動きが鈍くなってんぞ!! このまま一気に攻めきれ!!」
「・・・・・・・・・」
召喚術者にも色んなヤツがいる。
それこそ性格や目的なんかは当然そうだが、それだけでなく、戦い方に関してもだ。
召喚術者の戦い方は、大きく分けて2つ。
召喚奴隷だけに戦わせて、自分は安全な場所に離れて戦わないタイプ。
死ぬ可能性は低いが、離れてるせいで細かい指示が出せないって欠点もある。
方針転換とかする場合、いちいち召喚奴隷を呼ぶか、近づかなきゃならん。
もうひとつは、召喚術者本人も召喚奴隷と一緒に、っつうか、召喚奴隷を盾にして戦うタイプ。
死ぬ可能性は高いが、臨機応変に動ける。
んで、ミシェリアは後者なんだが、オレらが必死に動き回って戦ってるのに対して、こいつはクロスボウって飛び道具でトドメを刺したりしてるだけたから、疲れの差がエグい。
そもそも道具としか見てないオレらの疲労なんぞ考慮するはずもなく、ここが勝機だと察すると一気に攻めるように命令して来た。
「お前な、オレらだって疲れて――」
「お前さんの気持ちもわかるが、ここで攻め切れば無駄な犠牲を出さずにわしらの勝ちじゃ。ここが正念場ぞ」
命令には逆らえないし言葉も通じないが、それでも文句の1つも言おうとすると、レオンがフォローするように言葉を続けてきた。
あんな奴の何処が良いのか知らないが、レオンはほとんどの場合ミシェリアの味方だ。
詳しく聞いたことはねえけど、ミシェリアとはかなり長い付き合いらしく、傲慢で口が悪いミシェリアが何か言っても、こうしていつもフォローするのがレオンだ。
しかも信じられないことに、召喚契約の呪いとかじゃなく、レオン自身の意思で――、
「リザド!!」
「!?」
疲れのせいもあってぼ~っとしてたのか、フォーテルの声で気付いた時には、既にグリフォンの鋭い爪がオレに迫ってきていた。
「くっ!!」
咄嗟に持っていた槍を盾にして直撃は避けるが、それでも避け切れなかった爪がオレの鱗を浅く切り裂く。
そこへレオンのフォローが入って、なんとか体勢を整えたオレはすぐにグリフォンの体に槍を突き刺すと、グリフォンは一気に後退して行った。
「あ、あっぶねぇ~・・・」
「やはり疲れが出てるようじゃな。リザドの負担が減るような連携に変えるか?」
「あ、いや、大丈夫だ。助かったぜレオン。ありがとな」
確かに疲れちゃいるが、レオンとミシェリアの関係について考えててぼ~っとしてた。なんてことは言えるはずもない。
それに、このグリフォンも、きっと誰かに無理やり召喚奴隷にさせられ戦わされてるのかと考えると・・・。
いや、考えるべきじゃないな。
戦場じゃ、割り切らなければこっちがやられるだけだ。
「うしっ! 気合入れ直していくぜ!」
その後はオレも戦いに集中し、みんな疲れてる体にムチ打って、力を振り絞りながら戦い続けた。
そしてだいぶ形勢が有利になり、あと少しで勝てるだろうとなった時のことだった。
「ギャオオオオン!!!」
「!?」
突如戦場に響いた、大地が震えるような雄叫び。
その声を聞いた途端、ものすげえ嫌な予感と同時にオレの全身から冷や汗が噴き出した。
「い、今の声は・・・」
振り返ったオレの目に飛び込んできた光景。
それは体長10m近くで、圧倒的な存在感を放つ・・・ドラゴンの姿だった。
「ド、ドラゴンちゃんにゃ・・・」
「・・・あ、アハハ。こ、今回は心強い味方が出て来たな。な?」
「・・・そう思いたい気持ちも分かるが、あのドラゴンがいるのは敵陣。つまり、残念だがドラゴンは敵側の召喚奴隷だな」
「・・・味方だと思いたかった・・・」
ドラゴンといえば、生物界のヒエラルキーの上位に位置する存在だ。
せめてこっちにも、ドラゴンとは言わないが、それに対抗出来るだけの奴がいてくれれば良かったんだが・・・。
「ド、ド、ドラゴンだーーっ!!!」
「逃げろーーっ!!!」
召喚されたドラゴンは敵陣に攻め入ってた連中をなぎ払い、劣勢だった戦況を一気に覆し始めた。
「・・・こりゃダメだな」
尻尾巻いて逃げるのは悔しいが、戦場の鉄則その1
「勝てない相手からは逃げる!」だ。
そう思ったのはオレだけじゃなく、この状況を見て味方側の連中も撤退を始めてる。
「ドラゴンも無敵なわけじゃない。有効な作戦と必要な戦力があれば撃退も可能だろうが・・・現状では難しいな」
冷静に状況を分析するフォーテルだが、結論はオレと全く同じ。
つまり「逃げ」だ。
「早く逃げにゃいと危ないにゃ! 早く逃げるにゃ!」
「そういえば向こうに深い森があると情報収集してた時に聞いた。そっちへ逃げよう」
「っていうか何処のバカ召喚術者だよこんなところにドラゴン召喚したのは! ここはそんな重要な戦場じゃねえんだろ!? 空気読めよ!」
うむ。我ながら素晴らしい負け犬、いや、負けトカゲの遠吠えだ。
「さて、遠吠えも済んだし、オレらも撤退を――」
振り返りながらそう言い掛けて・・・オレは見てしまった。
不敵な笑みを浮かべ、ギラギラした目でドラゴンを見てるミシェリアを・・・。