アンニュイなオレの日常
「・・・はぁ」
戦場とは打って変わった静かな湖畔に佇み、オレは湖が反射するオレ自身の姿「リザードマン」を見ながら憂鬱な溜息をついた。
「・・・疲れた・・・」
・・・そう、オレは疲れていた。
先日の戦いもそうだが、オレと召喚契約をした、あの女召喚術者。
名前は・・・なんつったっけな?。
ああ、そうそう。確かミシェリアっつったっけか。
ミシェリアは傭兵稼業で生計を立てているらしく、オレは色んな戦場で呼び出されては戦わされている。
オレが寝てようがメシ食ってようが風呂トイレ入ってようが仲間と語らってようが、こっちの都合は関係なし。何の遠慮も容赦もなく召喚。
たまに「いやいやよりによってこのタイミングかよ!?」ってな感じで、まるで何処かから見てて、イヤガラセなんじゃねえかと思うくらいの時すらある。
そうやって無理やり呼んで戦わせておきながら、戦いが終わって用がなくなったら「ご苦労さん」の一言もなく、元いた場所にポイッだ。
「・・・ぶっちゃけ、やってらんねぇよ・・・」
こちとら命を懸けて戦ってるってのに、どんだけ戦っても、どんだけ傷だらけになろうとも、何の見返りもないときたもんだ。
そんなんでやる気が出るほどオレはドMじゃねえ。
しかもドラゴンみたいに強い奴とか、特殊な能力があるような奴。
他にはカッコイイ奴とか、可愛かったり綺麗な奴だったりは永久就職で大事にされるみたいだが、オレみたいに何の取り得もないのは、そういう奴らと契約するまでのツナギか、もしくはただの捨て駒だ。
「ま、そのお陰で、ある程度経ったら召喚契約を破棄されて自由になれるんだけどさ・・・」
自由になったらなったで、また別の召喚術者に召喚契約されるの繰り返しなんだけどな・・・。
現にオレが召喚奴隷になった召喚術者は、ミシェリアで9人目だ。
つっても、召喚奴隷になんぞなりたくてなってるわけじゃねえ。
召喚術者たちは、自分の召喚奴隷に命令してオレと戦わせる。
だが召喚奴隷たちは、望んでオレと戦ってるわけじゃねえ 。
そんな、召喚術者の命令で仕方なくオレと戦わされる奴らを殺せるほど、オレは残虐にはなれねえ。
じゃあどうすんだって言うと、さして抵抗せずに殺されるか服従するかを選ばされ、死にたくねえ俺は服従するしかないってわけで今に至るってわけだ。
それでも最初から相手がこっちを殺す気なら、こっちも死に物狂いで戦うけどな。オレだって死にたくねえし。
・・・ま、オレも含めて「リザードマン」は元々それほど強くないから、まともに戦っても勝てるかどうかわからねえんだけどさ・・・。
まあそれはしょうがねぇとしても、1番厄介なのは、リザードマンは多少力をつけてきた召喚術者にとって、丁度いい相手だと人種どもに思われてるらしい。
だから自由になったとしても、すぐに次の召喚術者が襲ってきやがる。その繰り返しだ。
はっきり言って迷惑この上ない。
だからもっと人種が来ないような場所に引っ越したいが、他の場所は他の場所で違う連中の縄張りになってるし、1匹でウロウロしてたら、それこそフルボッコにされちまう。
だから結局同じ場所にいるしかねえんだが・・・いやマジで、何処の誰が作ったのか知らねえが、やっかいな術を作ってくれたもんさ。
しかもご丁寧に、召喚術者には絶対に反逆出来ない呪い付きときたもんだ。
サービス満点で感動の嵐。涙が止まらん。
そんなわけで今のオレはミシェリアが死ぬか、ミシェリアがオレとの契約を破棄するまで、あいつの命令に従い続けるしかねえんだけど・・・。
「・・・はぁ・・・」
現状を再認識したせいで、なんだか余計に疲れてきたぜ・・・。
今日はもうメシ食って寝ちまおう。
オレはさっき捕ったばかりの魚を――、
「って、おいおい・・・勘弁してくれよ・・・」
オレの足元に現れる、幾何学模様の魔法陣。
召喚術者が召喚奴隷を、つまりオレを召喚するための召喚魔法陣だ。
「これからメシ食って寝ようと思ってたのに・・・やれやれ・・・」
文句を言ったところで、召喚契約の呪いはどうしようもない。
オレは諦めの溜息をつくと、近くに置いてあった槍を持ち、魚を口に放り込んで魔法陣へと吸い込まれていくのだった・・・。