アンニュイなオレの仲間たち 6
強制契約執行。
反抗的な召喚奴隷に、強制的に言うことを聞かせる、召喚術者の最終手段。
これを受けた召喚奴隷の意識はなくなり、召喚術者の命令どおりに動く人形になる。
ああなったらもう、意識も疲れも痛みもなく、戦いが終わって意識が戻った時、気が付いたら傷だらけだったとか、腕がなくなってたとかも珍しくない。
最悪、意識のないうちに死んでることだってある。
だから召喚奴隷は、例え気に入らない命令だったとしても、自分の意思で動けるうちに、召喚術者の命令を果たすにはどうすればいいかを考えて行動する。
あんな風になって、使い捨ての駒のように殺されるよりは、はるかにマシだから・・・。
「ンモオオアアアア!!!」
狂ったように、いや、狂って戦うミノの周りから、巻き添えを恐れて味方も離れて行く。
「クソッ! このままじゃ孤立無援でやられちまう! オレらでフォローするぞ!」
「うむ!」
「わかったにゃ!!」
「仕方ない」
「おし行くぞ!!」
理性を失って暴れ狂ってるミノを助けることに誰1体反対する奴はなく、オレらは絶対にミノを助けると決めて援護に向かうのだった。
・・・約1時間後・・・
「・・・ふぅ。なんとか無事に終わったか」
油断するとオレらまで理性がないミノに攻撃されるから、そこに気をつけながら援護するのは思いのほか大変だった。
だが、なんとかオレらもミノも死なず、全員無事で戦いにも勝利した。
不幸中の幸いだったのは、ミシェリアがミノを援護するのを禁止しなかったことだ。
もしミシェリアがミノを見捨てようと援護を許さなかったら、ミノは敵に囲まれ死んでたはずだからな。
「・・・オレサマは、どうなっちまったんだ・・・ありゃなんだったんだ・・・?」
戦いが終わって、ミシェリアの強制契約執行の呪縛が解けたミノは、まるで悪夢から醒めたように呆然としてる。
オレも別の召喚術者の召喚奴隷だった時に、1度だけ強制契約執行を受けたことがあるが、その時のことははっきりとは覚えてない。
ただ、操られてる時にわずかに残ってた意識が、その時のことをおぼろげに、まるで悪夢のように覚えてた。
おそらく今のミノも同じような感じのはずだ。
「お前はミシェリアの命令を聞かなかったから、強制契約執行をくらったんだ」
「強制契約執行だと?」
その効果と、それを受けたミノがどうなってたかを説明してやると、さすがのミノもショックを隠しきれずにいるようだ。
「だから言っただろ? 命令を聞けって」
「俺たちとて喜んでミシェリアの命令を聞いてるわけじゃない。しかし命令を聞かなければ、ついさっきのお前と同じような目に遭うんだ」
「てめえら何ボサっとしてやがる!! 戦いは終わったんだからさっさと戻って来い!!」
ミシェリアのところに戻ったら、問答無用で帰還用の召喚転送をくらうから、オレらは戦いが終わったその場所で喋ってた。
そんないつまでも戻ってこないオレらに、ミシェリアはイライラしてるらしい。
「とにかく、ミシェリアの命令には逆らうなってことを言いたかっただけだ。んじゃ行こうぜ。これ以上ミシェリアの機嫌を損ねてもいいことはなにもねえからな」
「すでに機嫌が悪くなってる気もするがのう」
「ど~してすぐ戻ってこないにゃ!! って怒りそうにゃ」
「アッハハ! そりゃ言えてるぜ!」
戻ったらミシェリアになんて言われるかを考えながら歩き出すが、ミノだけはその場に立ち止まったままだ。
「どうした? 早く行かねえと、まためんどくさいことになるぞ?」
「・・・あ~。いや、なんだ・・・」
ミノは歯切れ悪い声で、言いずらそうに顔をそむけた。
「・・・さっきは、その・・・悪かったな」
「さっき?」
「お前らのことを、ニンゲンに媚びるとか言っちまってよ・・・」
「ああ、そのことか。別に気にしてねえよ」
「お前らも、あのクソ・・・いや、ミシェリアの命令を聞かねえと、ああされるんだろ?」
「まあな」
「・・・お前が言ってた、召喚術者恨んで召喚奴隷恨まずの意味が、やっとオレサマにも分かったんだ。召喚奴隷になっちまった以上、こっちがどう思ってようが、召喚術者の命令にゃ逆らえねえってな・・・」
「そういうこった。お互い不幸な境遇同士、仲良くやってこうぜ」
「・・・ああ。よろしく頼むわ」
「こっちこそよろしくにゃ!!」
誰よりも召喚奴隷同士の仲を心配してたニャン吉が、満面の笑みでミノに飛びついた。
「これでやっと、本格的に新しい戦術を考えられそうだな」
「改めてよろしくのう。ところで、わしらは固有名をつけ呼び合っておるんじゃが、おぬしはどうする?」
「ちなみにオレはリザド。お前にくっついてるのがニャン吉。早速新しい戦術を考えてるのがフォーテル。で、そっちがレオンだが、別にイヤだったらイヤでいいぜ?」
「今さらお前らのやりかたにあ~だこ~だは言わねえよ。好きに呼んでくれ」
「じゃあじゃあ、ミノちゃんでいいにゃ?」
「・・・ちゃん付けは止めろ」
「いい加減にしろてめえら戻って来いっつってんだろ!!! 全員まとめて強制契約執行くらいてえのか!?」
・・・やれやれ。せっかく円満な空気だったってのに、ミシェリアが血管がブチ切れそうな声で怒声を飛ばしてきやがった。
「へいへい。いま戻りますよ」
ニャン吉じゃないが、何はともあれミノと和解出来てよかった。
数少ない仲間だってのに、ギスギスしたままじゃ何かとやりにくいからな。
確かニンゲンのことわざで「雨降って地固まる」って言葉があったはずだが、多分こんな感じのことを言うんだろうな。
後はミシェリアがオレらを解放するまで、協力して生き延びるだけだ。