プロローグ 前編
「やっぱ凄いなこの人達の動きは。俺もいつかこの人達みたいな動きが出来るようになりたいな」
零夜はそんな事を呟きながらベッドの上に寝っ転がっていた。
そんな零夜が手にしている携帯の画面には軽装姿の少年少女達が壁から壁に、建物から建物に飛び移る動画が流れていた。
動画に映っている少年少女達が行っているこの動作はフランス発祥の走る・跳ぶ・登るといった移動をすることで心身の鍛錬を行うパルクールというスポーツだ。
零夜自身も中学生の頃からパルクールを習っており、高校2年生ながらもパルクールの全国大会で何度も入賞するほどの実力者だった。
そんな零夜は現在この家で一人暮らしをしていた。
高校2年生ながらも零夜が一人暮らしをしている理由は、零夜には両親や祖父母、兄弟といった身近な身内が一人も居ないからだった。
その為生活費は高校に通いながら週3で家の近くにあるコンビニでのアルバイト代や年に数回開催されるパルクールの大会での入賞金などで稼いでいた。
風を通しを良くするために少しだけ開けられている窓からは付近に住む子ども達の楽しそうな声が聞こえてきた。
「もうこんな時間か、そろそろ夕飯でも食べるかな」
零夜は見ていたパルクールの動画を一時停止し、壁に掛けられている掛け時計を見て時間を確認した後、イヤホンを耳から外して夕飯を作るために部屋を出て階段を降りて行き1階にあるキッチンに向かった。
「さてと、今日は好物のオムライスでも作るかな」
そんな事を呟きながら冷蔵庫を開けて中を見てみると、オムライスを作る上で最も重要な食材である卵が1つも入っていなかった。更に冷蔵庫の中には卵どころか料理に使えそうな食材はほとんど入っていなかった。
「おいおい、卵どころか料理に使えそうな食材がほとんどないじゃん。出前を頼むと余計高く着きそうだし、近くのコンビニに卵や料理に使えそうな食材を買いに行くか」
零夜は冷蔵庫の中を確認した後、一度部屋に戻り机の上に置いてある携帯と財布を手に取り、そのまま玄関に向かいオムライスに必要な卵や料理に使えそうな食材を買いに行く為に近くのコンビニに向かった。
家の外に出ると既に21時を回っているにも関わず、小学生ぐらいの少年少女達が笑い声を上げながら道路を走り回っていた。
「こんな遅い時間まで子ども達だけで遊んでるのは流石に危ないだろ」
零夜は自分の横を大声で走って通り過ぎて行く子ども達の姿を見ながらそんな事を呟いていた。
子ども達の後ろ姿を見ながら歩いていると、目的地であるコンビニの看板が見えて来た。
「なぁ、あのトラック何か変じゃないか?」
「気の所為じゃないの?」
「いやいや、気の所為じゃないだろ。明らかにトラックの様子がおかしいだろう」
もう少しで目的地であるコンビニに到着しそうな時、零夜の直ぐ後ろを歩いていた若いカップルの話し声が聞こえてきた。
彼氏が指摘しているトラックはコンビニの前にある信号に差し掛かろとしており、彼氏が指摘している通りそのトラックの様子は確かに不自然なようにも見えた。
「確かに何処かトラックの様子が変だな。どうもふらついているように見える」
彼女の方は彼氏が指摘した内容を聴きながらもトラックの様子に気付いていなかったが、そんな話を聞いていた零夜はトラックの様子がおかしいことに気付いていた。
「おい、あのトラック赤信号なのに全然減速しないぞ!!」
「あのままじゃ、子ども達が危ないわ!!」
トラックは赤信号に差し掛かろとしているのにも関わらず減速する様子を見せず、それどころか更に加速して行き横断歩道を渡っているあの子ども達に突っ込もうとしていた。
「おいおいまじかよ。あのまま放っておいたら絶対にあの子達に突っ込むよなあのトラック。仕方ないここは覚悟を決めないとな」
今にも横断歩道を渡っている子ども達に突っ込もうとしていたトラックをカップルと共に目撃した零夜は一度深呼吸した後覚悟を決め横断歩道を渡っている子ども達に向かって勢い良く走り出して行った。
「危ない!!」
「うわぁ!?」
そう叫びながら横断歩道を渡ろうとしている少年を反対側の道路に突き飛ばした。
突き飛ばされた少年は驚きの声を上げながら反対側の道路に倒れ込んだ。
「おい、誰かその子達を安全な場所まで連れて行ってくれ!!このまま此処に居たらその子達が危ない!!」
突き飛ばされた少年は反対側の大人達や友人達の手を借りて何とか起き上がった。少年は勢い良く地面に倒れ込んだものの特に大きな怪我は見られなかった。
一連の言動を見ていた大人達はすぐさま零夜に詰め寄ろうとしたが、横から突っ込んで来ようとしているトラックを見て事の重大さに気付き零夜の指示に従い子ども達を連れて安全な場所に向かって行った。
「これであの子達は大丈夫だな」
零夜はそんな事を呟きながら起き上がった。
そして横を見てみると、横断歩道に突っ込もうとしていたトラックがすぐ横まで迫っていた。
「まじかよ」
すぐ横まで迫ってくるトラックを見ながらそう呟いた。
そしてトラックは減速や急停止することなく、物凄いスピードで零夜に衝突した。
トラックに衝突された零夜は一度空中に飛び上がり、そのまま勢い良くアスファルトに叩き付けられたのだった。
「おい、さっきの子がトラックに轢かれたぞ!!」
「早く救急車を呼ぶんだ!!」
「(あ〜あ、俺このまま死ぬのかな。まだやりたい事とかいっぱいあったんだけどなぁ)」
零夜は周囲のそんな声を聞きながら静かに意識を失った。