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ゼロの秘宝 スグリ戦

作者: ふくつー

筆が乗って3時間でできてました


林間学校でキタカミの里よりオーガポンを味方に引き入れて後、ラプタは全てのジム巡りを完了し、ペパーとの宝探しは一旦の区切りを迎え、ボタンの無自覚な宝を指摘した。


一年はある短くも思える大冒険に一旦幕を下ろすように四天王とチャンピオンを下すと、その先で待っていたネモと凄まじい戦闘の後、パルデアの真の頂点に到達した。


名声冷めやらぬまま、ラプタは自分が強いと本当に思ったネモとボタン引き連れて旅をずっと支えてくれたペパーとミライドンの里帰りに赴いた。


結果で言えば本当に辛かった。いつも頼り甲斐のあるペパーが凹んだ姿を見て、胸が引き裂かれそうな程苦しかった。

だけど…ペパーには沢山の友達がいる。


「スグリ…ポケモンはなに?」


ラプタは怒りを孕むような声音でそう言った。林間学校で垢抜けに笑うゼイユの辛そうな顔をここにきた何度見ただろうか。…確かにこのブルーベリー学園は実力ばかりが評価されるような無機質に思える学校だった。


ストイックな生徒たちに囲まれて誰よりも育ったであろうスグリ、けれど周囲をあんなにも遠ざけるスグリを見たくはなかった。だからこそ何度でも問う。

トレーナーとポケモンの関係をスグリ、君はどう感じたの?


「俺の為のもの」


「なんもわからなかったんだね」


それでも学校のみんなは楽しそうに嬉しそうに自分のポケモンを自慢する。強くしたポケモンを持て囃す。共通してみんなの心の中に、確かな強い思いが向けられていた。

無機質な学校だ、そう思ったけれどそこに気づく度にラプタはこの学校が好きになった。自分と一緒だ。

ネモとポケモン達との高め合う姿を思い出し、ペパーとマフティフの友情という関係を思い出し、ボタンの推し活を思い出し、心の底から優しい気持ちに溢れる一年を過ごした。


スグリにもその姿があった。


「は?まさかラプタ、お前も皆みたいな事言うの!?」


「皆って?ねースグリ、皆がどーしたの?君は皆を見てたの?」


「何言って…」


ラプタやスグリの周りには観客が続々と来ていた。視線は憧れに満ちていた。

方やパルデアのチャンピオンとして留学してきて異例のブルーベリー四天王を悉く倒した挑戦者

方やこの学校の全ての人間を下した王様

この戦いは真の頂上決戦だと固唾を飲んで見ていた。


「スグリ。私たちのポケモンは強いよ。でもこれからどっちが強いのか証明するの。勝負って残酷だよね、でもさ、戦わせる度に思うよ、誰かが相手でもその相手の顔が見えなくなるんだよ。その度に私は思う。私の友達は凄いんだって君のポケモンは凄いんだって。スグリ、君はどう思うかな?答えは聞かないよ。皆が欠伸しちゃうもんね。」


スグリはゾクリと何かに締め付けられたような気がしながらモンスターボールを二つ掴んだ。観客の目は真剣そのものだった。ラプタは感じ取った。


(皆、君に期待してるんだね。スグリ、でもそんな期待どうでもいい。私たちはトレーナーでアイドルではないもんね。精一杯戦って精一杯楽しもう!)


そしてスグリも何かを感じ取っていた。重圧、葛藤、羨望と嫉妬。その全てをスグリは気づいてはいないだろう。

彼はもう自分の世界に閉じこもっている。


(本当に本当に長かった…全部ラプタに勝つ為に沢山考えた。負けたら終わりだ、僕はもう立てない!だから…)


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


「「「!!!」」」


(こんな怖いのとはおさらばだ)


「行け、カイリュー!!ニョロトノ!!」


「頑張ってねオーガポン、キュウコン」


有利はフェアリータイプと雪タイプの複合のキュウコン、草と水の仮面を付けるオーガポン。

ただし、キュウコンの特性ゆきふらしをニョロトノあめふらしで消し去る。天候の押し合い、これにより次の技に大きな影響を与える。

スグリはニヤリと頬を吊り上げた。

しかしそれは一瞬だった。


(オニサマ…!くそ!ラプタぁ!!)


「よくも…今!今ここで!!鬼さまを出せたよなぁ!?」


「オーガポンとスグリに勝つ為にずっと作戦練ってたもん。見てよ?この子の強さ尋常じゃないから!」


「ニョロトノ てだすけ!カイリュー!!オーガポンにかみなりだ!!」


「その前にキュウコン!ゆきふらし!」


「キュー」


「なんでそっちが早いんだよ!?」


「秘技せんせいのつめだよ」


キュウコンの上に溜まった雲が白く染まり、敢えなく雷はオーガポンには当たらなかった。


「ラッキー!じゃオーガポン、ニョロトノに向けてウッドホーン!」


「ダー!!」


「チッ!避けろニョロト…」


オーガポンの速さは異常だった。それこそキュウコンの速さもそうなのだが、それにしたって指示を出したタイミングと攻撃するタイミングが合わない。


(自分から動いたってこと!?)


オーガポンはやるべき事がわかっていた、だからラプタの指示より先に動いていた。相性を熟知し、相手のトレーナーが反応するよりも早く動き出す。

結果として指示が違うなんて事はない。ただそれにしたってオーガポンはラプタの思考を先読みするほどの域に達していた。ニョロトノも反応遅れて反射的に対応しようとしているが、最早、目の前に迫るお面から逃げ切れるほどの俊敏さは持ってはいなかった。


「今指示出す前に動いてなかった?」


騒つくギャラリーの上をニョロトノは打ち上がる。再起不能だった。攻撃も凄まじく、恐らくタイプが不一致であろうとオーガポンの一撃は効いてしまうとスグリは歯を噛み締めた。


(だったら!)


「オーロンゲ!!」


「カイリュー!(命中が低いのばっかか…たったらオーガポンに!)ワイドブレイカーだ!」


「キュウコン、オーロラベール!オーガポン戻って、デカヌチャン出番だよー!」


「は!!?」


デカヌチャンに移り変わる同時にオーロラベールが張られ、その上からカイリューが凄まじい速さでワイドブレイカーをデカヌチャンに叩き込んだ。しかしまるで効いてはいない。効果もない。ノーダメで何が起こったのかがわからないがとにかく


「やばい!オーロンゲ、リフレクターだ!カイリュー…いや見捨てるしか…!だったらキュウコンにしんそくだ!」


咄嗟の判断でキュウコンを警戒したが、しかしデカヌチャンの射程圏内に入った時点でラプタは確信した。


「デカヌチャン!ねこだまし!」


「ンナー!」


パンッとターゲットを変えてキュウコンに更なる速さで近づこうとしたカイリューの視線の先には先回りしたデカヌチャンがハンマーを投げ出して両手を目の前で弾いた。

当然ひるんだ隙をキュウコンは逃さない。オーロンゲはリフレクターを張ってサポートに転ずるが、キュウコンの攻撃力が如何程かはわからない。耐えられるのか?


(ゆきだ…ふぶき!オーロンゲもまずい!)


「キュウコン、ふぶき」


その声と同時に会場は白く染め上がった。ポケモンを倒す為の技でも観戦してる全ての人間がその威力を垣間見た。

ふぶく風がカイリューとオーロンゲを押し流し、渦を巻いて空へと打ち上げる。乱気流の中に放り投げられたかのようにステージの上が凍てつき、カイリューは倒れた。


オーロンゲも立ってるのがやっとな程。


「嘘だろ…あのスグリが手も足も」


形成は決していた。ラプタのポケモンには傷ひとつないというのに最初の2匹を完封され、オーロンゲも先制技一つで落ちようとしている。


(諦めるか!諦めるか!諦められるか!)


「ガオガエン!!」


ラプタは苦い顔をした。彼女の手持ちはほのおに弱かった。キュウコンは言わずもがな、デカヌチャンも同じく弱点の上にガオガエンのいかくを貰って打点が足りない。その上、好きなもので構築した結果として後の手持ちはここで捕まえてきたメタグロクとランパルト、そして殿にマスカーニャが控えているのみ。好きなポケモンを好きなように好き好きに活かしたい。そういうコンセプトで相性の不利に苦しみ(楽しみ)ながらうまくここまで戦ってきたラプタだがガオガエンを前にして交代する選択肢が出てきて、指を噛む。


(けれどオーロラベールがある現状、私のキュウコンは倒せない。デカヌチャンをどう動かそう…。いや?変えるという読みで色々されるならいっそ。無理矢理やってみようかな。)


「オーロンゲ、ひかりのかべ!」


「デカヌチャン、つるぎのまい」


「わかってる!その表情は見逃さない!顔に出やすいとこ直した方がいいよラプタ!」


けれどラプタの判断は揺るがない。


「キュウコン、マジカルシャイン!」


オーロンゲとガオガエンに強い光が降り注ぐ、ふぶきではない分、威力は大分落ちるがオーロンゲを倒し切るのも充分ガオガエンに対してもそこそこの火力を叩き出す。

特攻の特化型かを疑いそうにもなるが、そもそもの経験値が違う。


(ふっざけんな、なんて威力だ。リフレクターを張ってるのに!こんな奴早く潰したいのに、かわらわりを叩き込まなきゃフレアドライブで落としきれない…。キュウコンを早くなんとかしなきゃいけないのにデカヌチャンはつるぎのまいとか。くそ!思考が間に合わない!負けたくない!負けたくない!!)


「…!ポリゴンz頼む!」


(それでも!)


「ガオガエン!キュウコンにかわらわり!」


(早く倒さなきゃホントに詰む。この後の為にフェアリーだけは落としきる!)


それでもラプタはまるでひるまない。ゆきげしきの中で佇むキュウコンのように、何もかもを意に変えさない。

もう何もかもの雑音は彼女には届かない。


(…あの時と同じだ…)


何もかもが悪い方向に運び、まるで歯が立たなかった。あの時と同じようにそこに立っているデカヌチャンは虎視眈々と牙を研ぐ。


(相性では勝ってるのに盤面が最悪で戦い辛い。あとどれくらいでオーロラベールは終わったんだ?あとどれくらいでラプタは…倒れるんだ?)


「デカヌチャン、ガオガエンを叩いてバリアを割って。キュウコン、ゆきげしきで守って。」


「雪、いつの間に止んで…」


「早く指示を出してスグリ!!」


(言われなくてもわかってるよ!ねーちゃん!)


「ガオガエン、キュウコンにフレアドライブ!!ポリゴンz、はかいこうせんで何としてもキュウコンを倒せ。」


指示は通った後は動き出す。最初に動いたのはキュウコンだった。雪を再び降らせ、次のオーロラベールを張ろうとしている。この機を逃したら勝機を失う。

ポリゴンzのはかいこうせんが注がれる、いのちのたまによって更に破壊を約束した。轟音とともに掃射された穿つ光線がキュウコンを飲み込み、その無傷な体表を押し込む。


「やったか!?」


観客がそう思うほどの威力は先ほどのキュウコンのふぶきと同程度のもので爆発とともに土ぼこりが舞い上がった。

しかし、キュウコンはまだ倒れてはいなかった。前足を屈して、それでも尚も敵から目を離さず眼光は鋭いまま。


戦い抜くという強い意志がその土ぼこりを9本の尾で払い除け、


「キュオォォ…」


と、美しい声音で威嚇する。だが猛攻は終わらないガオガエンが炎を纏ってそんなキュウコンに突撃しようとしていた。

けれどキュウコンは避けようともせずにただ受け止めようと構えた。

そんな時、割って入るようにしてガオガエンの横合いからデカヌチャンが割り込んでくる。仲間を信じていたとでも言うように強い横槍が会場の受付まで吹き飛ばす。


ガオガエンは倒れた。


「いい加減倒れてよ!ありったけ全部ぶつけてんのに!」


まるで戦い抜きたいというその意志だけでキュウコンは最大の敵としてスグリの前に立ちはだかる。

その声を聞き届けたのか、ガオガエンがキュウコンの真横に現れた。


「ガオ…ガエン」「キュウコン避けて!デカヌチャン!」


「ヌイーー!!」


しかし不意をつかれた。キュウコンはDDラリアットの直撃を受けてその場に倒れ込み、ガオガエンもキュウコンにもたれ掛かるようにしてその場に崩れ落ちた。


その姿を見て最後のポケモンをスグリは繰り出した。


「頼む。カミツノオロチ…負けたくないんだ…!」


熱い展開とはならない。ようやくラプタのポケモンの1匹を倒し、デカヌチャンは仲間をやられた事で傷一つない身体でその場に立っていた。


大局は明らかだった。

会場にいる誰もがスグリの圧倒的な負けを直視できなかった。ここにいる誰もがスグリに負け、悔しい思いをした。

けれど強さだけは認めていたのだ。


なのにこの体たらく。ポケモンの意地のぶつかり合いで白熱したが、2人の上にある電子掲示板に記されたポケモンの数を見て会場の熱が引いていくのを感じた。


それでも決してゼイユは目を離さない。弟の負けっぷりをそして友達のラプタの楽しそうな顔から目を背けない。


(そっか…スグリ。アンタの気持ち少しわかったよ。多分アンタは向き合って欲しいんだ。ポケモン勝負を通して自分という存在をラプタに教えたいんだ。でもね、ラプタに勝ったところでアンタは何を得るの?)


本当は交わることの無いすれ違い。ポケモン勝負を純粋に楽しむラプタと、ポケモン勝負を通して自分を証明したいスグリ。二つの思いはまるで運命がそうさせるようにどうしても交わらない。分かり合えない星の元にいるように、2人の想いが別方向に進んでいく。


きっとスグリが勝てばこそスグリの目標は達成するのかもしれない。しかしスグリはそんな自分に襲い掛かる顛末を知らずに勝とうとしていた。


大事なのは結果ではなく、仮定だ。強いことに意味はなくて、強くしたいという思いにこそ意味がある。

それまでどんな事をして、どんな思いでポケモンと向き合ったのかをスグリはまるで気づいてはいない。


仮定を忘れて結果だけを求め、ポケモンが手段となってしまっている。もしラプタに何もわからないままに勝ってしまったなら彼はきっとポケモンを捨ててしまっただろう。


(だからラプタ、アンタが居てくれてホントによかった…。アイツはまだ取り返せる!)


「くっ!過去の俺はいらない!だから変わった…変わるんだ!!早く倒れろ!!倒れろよ!!」


ポリゴンzはデカヌチャンのかわらわりで再起不能となった。目の前にいるのはオーガポン。カミツノオロチの頭上にはかくとうタイプのテラスタルが輝いていた。


デカヌチャンはまるでやる気を失ったようにハンマーを投げ捨てるとラプタの横に座り込み、観客と同じようにしてその姿を見届ける。

オーガポンは仮面を軽く外して振り返るとアイコンタクトでラプタに一人で戦わせて欲しいと訴えた。


そう、訴えていた。


「…何の真似だよ。舐めてんのかよ!ラプタぁ!!」


観客の足は既に少なく、それでも見届ける何人かがその勝負の行方を好奇心で辛うじて見ている。

四天王達は思い思いの想いを胸にそんな勝負を見ている。


デカヌチャンは完全に足を引いた。

そしてラプタもまた、そんなデカヌチャンの頭を撫でつけて一歩退がってスグリの目を見ていた。


「あれからオーガポンは沢山辛い目にあった。知ってる?ポケモンはね、相性が悪ければ負けるの。ジムリーダー達はそれをよく教えてくれた。そしてオーガポンは負けて負けて強くなったんだよ。オーガポンはね、もうただの1人じゃない。沢山の想いを背負って立ってる。私の思いもね。」


「わかるワケないだろ!!僕はずっと一人だ!何もかも捨ててお前に勝つ為だけにここに立ってるんだよ!なのにお前は勝負を止めるのか!」


「違うよ、一人じゃないよ。この勝負はオーガポンに託した。」


(ラプタ…)


ゼイユはいつまでも変わらなかったラプタを見てクスリと笑ってしまった。


(思えば彼女は林間学校であった時もそうだった。私と本気で戦ってくれて、1人じゃないよ?と何度も言ってた。弟に対しても同じだ。同じなのにアイツはさ、ずっと1人だったからわからなかったんだ。多分まだ気付けない。でもラプタがいるからアイツはポケモンを捨てられない。)


テラスタルはしなかった。本当に純粋なる一体ニの戦い。

トレーナーが付いてるなら有利なのはカミツノオロチの方だ。それこそテラスタルをしてるなら尚のことだろう。


オーガポンは一本の水を帯びた棍棒を手にそんなカミツノオロチの前に進み出す。


「きまぐレーザーとテラバーストを乱射して片付けろ!近づかせるな!」


無数のレーザー線がオーガポンに襲いくるが、オーガポンは最初に届こうとしたレーザーを棍棒で受けるとそのまま全力で走り出す。彼はホントに大変な目にあった。


ジムリーダー達の不意の相性を打ち抜いてくる一撃に何度となく辛酸を舐めさせられ、ラプタに謝られた。

自分が弱いだけだと悔しくて逃げ出したこともあった。


でもラプタは決して1人にはしなかった。闘わなくてもいいとすら言ってくれた。だけどオーガポンはそれでもその棍棒だけは手放さなかった。


ラプタの為に勝ちたいんだ。あの時の弱い自分から変わりたいって毎夜の如く思った。臆病な震える足を何度も何度も動け動けと願った。

強くなりたい、その思いに応えるようにラプタと仲間たちが修行に向き合ってくれて、次第に勝てるようになった。


その度に強く思う。自分は1人じゃなかったってそう思うのだ。


きっと相対するカミツノオロチは気付いてる。オーガポンの臆病な性格に気づいている。けれど勇敢を押し倒す。


「ウァァァァアァァァ!!!!」


裏返ったような奇声でテラバーストをその身に浴びながら棍棒は振り下ろされる。頭を見事に撃ち抜いたのだが、まるで効いてはいな様子でそのまま下から無数のレーザー線がオーガポンに差し向けられた。


草で編まれたニードルガードが全てを吸収するが


「ジャイロボール」


金属の塊がその合間に挟まれてオーガポンを再び突き放そうとする。しかし僅かにガードを傾け、不器用に受け流すと右足に被弾しながらも食らいつく。負けない。


(負けない)


負けない


(負けてたまるか!)


「打ち落とせ!きまぐレーザー!!」


「ウグァァァァァァ!!」


オーガポンの最後の奇策。棍棒をデタラメに振り下ろすんじゃなく、使い方を考える事も大切だと教えてくれたのはネモが繰り出したミミズズとの一戦。

どんな攻撃も巧みな体捌きと頑丈さで耐えられて打つ手を失って、負けた。どんなに振り下ろしてもまるで効いていなかった。

炎を纏ってるのになんでと考えた時、ネモはあっさりと答えを出す。《当たってもうまく衝撃を逃すとダメージは軽減できちゃう。じゃあどうしたらいいと思う?オーガポン》


答えは簡潔に。オーガポンはカミツノオロチの頭の一つを強く踏みつけて上空高くに飛び上がった。


「逃げ場を無くすな…んて」


水色に光る棍棒を天井に叩きつけた。


「会場は特殊な金属で作られてる、天井は壊さないぜぃ?…おいまじかよ」


しかし崩落の意図を狙ったものではない。そのまま衝撃が自分に返ってくる反動で一時期的に自身を加速させる。

そして決して離さなかった棍棒を投げ飛ばすようにオーガポンは空中で姿勢を取った。狙いは絞った。

ネモに対する課題をオーガポンはこう応える。更なる衝撃に昇華させればいい。


雷鳴一閃。カミツノオロチの頭上から打ち出された一本の棍棒がその敵を鮮烈に撃ち倒す。これにて決着だった。


「カッコいいよ、オーガポン」


ラプタの視線の先にカミツノオロチの上で満身創痍のオーガポンが仮面を外して空を見上げる。


(オニ…サマもそっち側…なのか)


チャンピオン通しの戦いはこうして終幕する。

スグリの中にある確かな憧れが先へ進んだ姿を見せたが、スグリの目には地面だけが映っていた。


(悔しくて悔しくて死にそうだ…胸があの時よりずっと…なんでこんなに苦しいんだよ…)


そんな姿をじっと見届けるラプタ。2人に駆け寄る者は少ない。一方は近づける雰囲気ではなく、一方は近づくのが怖くなった。

賞賛する拍手は一つ二つくらいで、そこにいる誰もがスグリの様子にただ心配な面持ちを向けるしかなかった。


手痛い負け。最後はトレーナーすら介する事なく単騎のポケモンに負けた。これ以上ないだろう。


そこに裏打ちされたストーリーがあるからこそオーガポンの勝利はスグリとゼイユとラプタにしか伝わらない。


「うぅ…ハァ…ハァ…」


「どっちも頑張った!感動した!」「アカマツくん空気読んで!」


打ちひしがれるスグリに声をかけようとするものはいない。

ただ1人を除いて


「お二人ともお疲れさーん…残念だったねい。元チャンピオン」


「ちょ!」


「キョーダイ、今からラプタがブルベリーグの新チャンピオンだ。チャンピオンになったやつには学園からお祝い品が貰えんの。預かってっから渡しとくぜぃ。」


「…スグリ。お前に勝てなかった俺が言うのもなんだけどよ、前みたく楽しくやろーや。勝ちに拘れんのはすげーいいことだ。誰だって勝ちてーは勝ちてー。でもよ、拘りすぎて自分の首絞めんのはちげーだろ。さっきの勝負見てるとよ、良い戦いだってのにこっちが苦しかったぜ。だからよ、またみんなで…」


「…けない」「はい?」


「負けない……!今度こそ…俺が……次こそ絶対…勝って」


「いいよ。待ってる。」


「ラプタ…俺……………おれ………うぅぅぅぅ」


勝負の世界において感情は切り離せない。どんなに偽ったところで負ければ悔しいのは当たり前で勝つと嬉しいのは当然だ。ポケモン勝負においてポケモン達はその感情に従って戦った。


絶対に最後まで戦い抜く。このままで終われるか。成長した姿を見せたい。勝って喜ぶ姿が見たい。


色んな思いがそこに寄り集まって競り合って摩擦して火を起こして、メラメラメラメラと周囲に伝播する。


スグリには少しでも伝わっただろうか。

その手中にあるモンスターボールの中にあるなにかを彼は掴む事ができるのだろうか。


きっとこの勝負に意味はなかった。


友達との仲直りの仕方はどちらの意思が押し勝って真に果たされる。それをわかりやすくしたのが勝負だとしたなら、それはきっと嘘だ。


勝負においてあるのは結果だけだ。


仲直りの意思のぶつかり合いは一つ一つ紐解いて理解しあってこそ成し遂げられる気が遠くなるようなもので


スグリにとって大切なものはきっとポケモン勝負ではなく、もっと前提にある。結果ではなくて仮定にあるのだと思う。


誰に勝ちたいではなく、誰と勝ちたいか。

勝利を分かち合いたいか。

勝つというものが結果だとしたらその価値をどの程度の大きにするかはその人次第。苦難があるこそ達成した喜びがあるようにその中に込められた思いが膨らむ度にトロフィーは煌めき出す。


じゃなきゃポケモン勝負の先にあるトロフィーはあまりに味気ない。


ラプタは知っている。

ネモに勝った時の感動を鮮明に覚えている。自分にここまでついてきてくれたポケモン達が一生の宝物だと言うことをこれでもかと思い知った。そして友達という意味を宝探しをするうちによく知った。


宝を手放そうとする女の子を見てどうにかしたいと思った。

男の子の少し曲がった背中を支えたくなった。

寂しさを隠そうとする女の子の隣に居たくなった。


1人の君に1人じゃないってことを教えたくなったように。

いつだって友達というのはそういうものだ。


問題を解決したくて、少しでも痛みを分かち合いたいと自ら苦難に飛び込んでいく。友達とはそういうもので。


宝探しの宝は次第に大きく膨らんで煌めいている。



4時間だった気もする

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