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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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2/13 ☆ゆかいなおかあさん

 うちのおかあさんは、かなり面白い。

 突然踊り出したり、いきなり歌いだしたり、かと思えばぐうぐう寝ていたり。


 見ていて飽きない、おもしろい人だ。


 たまに怒っているけれど、すぐに忘れて笑っていることが多い。

 たまに動かなくなるけど、すぐに動き出して笑っていることが多い。


 いつまでも見ていたい、おもしろい人だ。


「アアっ!!何これ!!テーブルの上が水浸し!!!」


 おかあさんの声に、キッチンでマッタリしていた猫たちが俊敏な動きを見せる。

 あーあ、いきなり大きい声出すから、みんなびっくりして目が丸くなってるじゃない。


「もー!!水の入ったコップはシンクに入れろって言ってんのに!!」


 タオルでテーブルを拭くおかあさんの足元に、若い猫たちがすり寄っている。

 おかあさんの機嫌を窺わない、好奇心あふれる欲望に忠実な猫たちは、無謀という言葉を知らない。


「あんたらだな!!机の上に乗ったらだめって言ってんのに!!」


 おかあさんの声などどこ吹く風で、しっぽを巻き付け、膝に手をかけ…ああ、猫がつまみあげられた。


「もー、あっちいってな!!」


 いささか不満そうな顔をしている若い猫二匹は、リビングへと移動させられた。


 二匹はふかふかのリビングのラグの上で、お前のせいだと言わんばかりに戦いを始めている。

 その様子を、若い奴らは元気がいいなあと、目を細めて見る、年寄り猫が…二匹。

 騒がしい様子を気にしたのか、リビングとキッチンの間にある階段を降りてくる猫が一匹、二匹…。


 ああ、そうか、そろそろ。


「はい!ごはーん!ごはーん!!」


 おかあさんのごはんの合図に、猫たちが一斉にキッチンに向かい始めた。


 階段を勢いよく降りて向かう猫、猫。

 風呂場の奥の採光窓の上から飛び降りて向かう猫。

 ケンカをやめて一目散に向かう猫、猫。

 リビングの段ボールの隙間から顔を出して向かう猫。

 冷蔵庫の上から飛び降りて向かう、猫。


「ああ!!もう!!それ姐さんのじゃん!!あんたらは子猫用を食え!!じじいは年寄り用を食え!!なんでみんなひとのもん食うんだ!!目の前の皿のエサを食わんかい!!!」


 腹の減った猫たちは、みんなおかあさんの声などお構いなしに、目の前の…隣の猫の食うものを食べようと必死になっている。


 ずらりと並ぶ皿の数は7つ。

 時折おかあさんが位置を変えつつ、全ての猫達にご飯を食べさせている。


「年寄組は食欲落ちたなあ、君らもうちょっと食べたらどうだね。」


 食の細くなった年寄り猫二匹は、皿の上に食事を少し残したまま…ペロペロ、食後の顔のお手入れをしている。


「ああー!!あんたは自分の食ったくせに爺さんの食べ残しを!!あんたも人の残したの食べてるからブクブクとー!!!」


 おかあさんが年寄り猫を観察している隙に、若い猫二匹が食べ残しを食べてしまった。

 ……無駄がなくていいと、思わないでも、ないんだけどねえ。


「はあ、ごはんもあげたし、お皿も洗った、やっと一息付ける、一休みしよ…。」


 おかあさんがパンとペットボトルを持ってやってきて、リビングのソファーにもたれかかる。


 おそらく、おかあさんはパンを食べ終わった後、このまま惰眠に突入するはず。

そう予想を立てた猫たちが、リビングに集まってきた。


 おかあさんの膝の上は、おなかの上は、人気スポットなのだ。


 ずいぶんやわらかくて、かなりもちもちしていて、そうとうもみもみしがいのある、素晴らしい場所。おかあさんの左側と右側も人気で、優しいなでなでが魅力的なのだ。


 おかあさんがパンを食べ終わって、ペットボトルの飲み物を飲み込んだら、すぐにあの場所を確保したい、しなければならない。極上の場所を独り占めするために…猫たちは待ち構えているのだ。


「君たちそんなに見つめても…この焼き立てアップルパイはやれんのであきらめてね、もぐもぐ。」


 おかあさんの食べてるものなんか誰も欲しがっちゃいないのだ。

 おかあさんが食べ終わって眠りこけるその瞬間を待ち望んでいるのだ。


 ピンポーン!


「あれ、なんだろ。」


 おかあさんがソファーの上から移動した。

 おかあさんの座っていた場所の熱を楽しもうとした若い猫が、ソファーに飛び乗る。


 おかあさんの食べかけのアップルパイが、シャリシャリとした音をたてる袋に包まれているのを発見した若い猫は、ついつい遊びたい衝動に駆られてしまったらしい。


 しゃっ!!っしゃっ!!・・・とさっ!!


 爪に袋をひっかけて遊んでいた若い猫が、食べかけのアップルパイをふかふかのラグの上に落とした。

 若い猫は、まるで悪びれる様子もなく、ふわりとソファーから降りて、他の猫たちとともに、ラグの上に並んだ。


 どた、どた、どた!!!


 おかあさんがリビングに戻ってきた。


「アッ!!何これ!!誰だ人のパンかじったやつ!!」


 猫は皆黙秘権を行使している。

 下手に逃げ出すと犯人扱いされる、猫たちは案外頭が良いので…誰も動こうとしない。


「こいつか、それともこいつか、はたまたこいつか…くそう、猫が多すぎて犯人が分からん!!」


 腕を組んで猫たちを見るおかあさんの目は…ずいぶんやさしい。

 ワクワクしているような、楽しんでいるような。


 こういう目をするとき、おかあさんはだいたい…。


「こうなったら怪しそうな空気のやつ全員伸ばし過ぎの刑だ!!」


 一番若いはちわれ猫がおかあさんに捕獲された。


「ええいけしからんねこめ!伸びれ!!伸びるがいい!!はい、びよーん!」


 ふかふかのリビングのラグの上で、体を長く延ばされる、猫が一匹。

 若い猫は、いやーんと発声しているが、嫌がっているようには見えない。


 はちわれ猫は解放され、しっぽの長すぎる若い黒猫がおかあさんに捕獲された。


「ええいこいつめ!お前だな?!顔の黒い目のきらきらしたねこめ!」


 ふかふかのリビングのラグの上で、体を長く延ばされる、猫が一匹。

 若い猫は、ふにゃーんと発声しているが、犯人はお前だ、甘んじて受けるがいい。


 しっぽの長い猫は解放され、黄色い目の黒猫が捕獲された。


「けしからん、けしからんぞう、こうしてくれよう!長い長ーい!ほんとに長い!」


 ふかふかのリビングのラグの上で、体を長く延ばされる、猫が一匹。

 年寄りの猫は、にゃーんと華麗な声をあげて、目を細めながらのどを鳴らしている。


 黄色い目の猫は解放され、丸っこいキジトラ猫が捕獲された。


「丸すぎるねこめ!たまには長く伸びるがいい!!」


 ふかふかのリビングのラグの上で、体を長く伸ばされる、猫が一匹。

 太い猫は、何も言わずにふとましい腹を丸出しにして伸ばされている。


 キジトラ猫は解放され、おかあさんの目が辺りを見回す。


「みかん色のあいつは階段の上か、多分違うな、気の強いあいつは群れないから今頃二階の猫こたつの中にいるはず!」


 おかあさんの目が、年寄り猫を見つめている。


「姐さんは絶対にやらないはずだけど…一応伸ばしておくか!」


 ・・・なんだ、私の事も伸ばす気みたい。

 私はおかあさんの目を見つめ、にゃあと一声あげる。


「姐さんは老いてなお手触り満点だな…つるんつるんのすべすべの…伸ばし伸ばし、ふふ、ふふふ!!!」


 うれしそうなおかあさんの様子を見て、私は自慢ののどを、これでもかと…鳴らした。


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