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2/1 ☆高いガソリン

 毎朝通りかかるガソリンスタンドが、ある。


 幹線道路沿いに建つ、真冬の早朝の暗い道を煌々と照らすガソリンスタンドは、老いた者の目を眩ませる強敵である。

 この場所を通過する際は、なるべく眩しい光を直視せぬよう視線を道路側にずらしつつ、明るさに目を慣らし、歩みを進めなければならない。


 力強い光をよけつつ、ぼてぼてと歩みを進めるうちに目が慣れて、電光板にうつる本日のガソリン価格をチェックするのが常だったりするのだが。


 このところ、ガソリンの価格が…やけに目まぐるしく変わっているのが、気になる。

 年末に給油した時は172円だったのに、今日は147円?!

 何この値段の下がりっぷり、こんなにも価格って上下するもんなのかね……。


 どうも私はタイミングが悪いようで、いつもやけに値段の高い時に給油をしてしまう。


 値段が下がるまで待てばいいのだろうけど、私にはメーターが半分になったら満タンにするというマイルールがある。

 若かりし頃、「旦那の無謀な運転の末にガス欠そして救助を待つ」という苦くて腹立たしい経験を二度ほどして以来、燃料は半分以下にしてはならぬと固く誓ったのだ。


「なんか今日ガソリンやけに安かったよ、どお、給油行っとく!!!」


 ウォーキングから帰宅しキッチンに向かうと、仕事休みの娘がぐびぐびと牛乳を飲んでいたので…情報提供をして差し上げる。


「まじで!!行く!!ちょうどあとふたメモリになったとこなんだよね!!」

「じゃあ、ついでに朝ごはん食べに行こ!弟起こしてこようかね。」


 今日は朝一で旦那が仕事に行ってしまったので、爆食による食費大放出はないはずだ。

 ガソリン入れたあと牛丼屋で朝定食を食べようか、それとも焼き立てパンの店でバイキングにしようか、ハンバーガーもいいな、うーん。


 おいしそうな朝食を思い浮かべ、腹を鳴らしながらガソリンスタンドへと向かった。



「……うわ!!こんだけ入れて…私の年末の給油と同じ値段?!やっす!!!」


 娘は今日8メモリ分の給油をした。その値段が、5メモリ分の給油をした私のレシートの値段と変わらない事実に、恐れ戦く!

 車種が違うから多少の内容量の違いはあれども、明らかに…自分が損をした気がするぞ……。


「同じ値段でこうも入る量が違ってこようとはねえ!お母さん、どんまい!!そのうちいいことあるって!!」

「今から美味しいもの食べるから。」


 姉と弟はそろって私を慰めてくださる。

 なんだ、良い人たちだな。


「グぬぬ…そうだね、ひょっとしたら……特別いいガソリンが入ってたかもしれないもんね……。」

「いいのが入ってるに違いない!」


 例えばこう、比重の重たいガソリンとかさあ、精製の精度にキレのあるガソリンとかさあ。

 そうだな、もしかしたら出来の良いガソリンだったから高かった可能性も?!


「そういえば年末以来一回も給油に行ってない!!……わりとマジで良いガソリン入ってるかも!!」

「そうかもね!良かったね!!で、どこに食べに行くの!!」

「牛丼が食べたい。」


 腹いっぱい朝ご飯を食べ、そのまま大きな公園までドライブに行き。

 高速道路に乗ってサービスエリアを巡ってですね。

 トランクにお土産をいっぱい乗せて帰宅したわけだけれども。


「もうメモリが2つも減っちゃった!せっかく満タンにしたのにー!!」

「やっぱ安いガソリンは減るのが早いんだって!」

「安かった……。」


 やけに娘の機嫌がよろしくないのがですね。

 なんだ、さっきまで限定のはちみつソフトがうまいだのなんだの言ってたくせに…気の変わりやすい人だな。


「丸1日ドライブしてたら減るに決まってるじゃん!何言ってんの!モグ、もぐ!!!」


 おみやげの肉まんをガツガツ食べている旦那もすこぶる機嫌がよろしくない。

 自分だけ仕事で遊びに行けなかったのが不愉快らしいぞ、なんという大人げない事か。


「私の入れたガソリンなんてね、年末に入れて以来全然減ってないんだよ!すごくない?!お姉ちゃんのガソリンはすぐ減ったけど!!」


 ここぞとばかりに、自分の入れた高いガソリンの自慢をしようとですね。


「それ車に乗ってないだけじゃん!お姉ちゃんの車で出かけることが増えたから減らないだけでしょ、なにいってんの!」


 ……むむむ!


 言われてみれば…そうだなあ、最近は娘の車でドライブに行くことが増えてるかも…。娘のお迎えもしなくなったから、あんまり長距離も走らなくなったし、買い物も娘の休みの日に行くことがほとんどで…。いやいや!!私は良いガソリンを入れたのだ、しばらく満タンのままのはず!


「違うもん!!いいガソリンだもん!!めっちゃ高かったんだからめっちゃ長持ちするんだもん!!」


「はいはい、あ、この焼売食べていい?」

「それあたしのロールケーキなのに!!!お父さんこっちの卵パン食べなよ!!」

「僕の肉巻きおにぎり食べないで?」


「ねえねえこの伊勢うどん食べたいから作ってよ!生卵2つでね!!!」

「ちょっとお父さんそのトリュフチョコあたしのやつ!!お母さんのイチゴの方食べなよ!なんで2個も食べるの?!」

「僕のアイスクレープ食べたの誰…。」


「なんでお母さんのたこ焼きが1個も残ってないの?!ソースしか残ってないじゃん!!」


「昼めし食ってないからエネルギー不足なの、補給補給!」

「チーズケーキあけちゃっていいよね?うわ、割れてる、食べちゃった方がいいね!!」

「この焼き鳥もらったよ。」


「ねーねーお茶持ってきてー!」

「あたしお酒飲んじゃお!!」

「僕牛乳。」


 私の力説は、サービスエリアで買ったうまいもんたち争奪戦の声でかき消されてですね。


 とりあえず、高いガソリンは、まだふたメモリ分しか減っていないという事です……。


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