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12/7 ☆日本の昔話のアニメのアレ

 子供の頃、食べたいなあと漠然と思っていたものがあった。


 昔話のアニメにたびたび登場していた、おいしそうな食べ物。

 囲炉裏の真ん中でぐつぐつと煮えている、よくわからない食べ物。

 おばあちゃんが「たんとお食べ」といってお椀に注いでくれる、ホカホカとゆげのたっている食べ物。


 すいとん?

 雑煮?

 雑炊?

 みそ汁?

 芋煮?


 アニメの中では、大鍋でぐつぐつ煮えている食べ物が何なのか説明してもらえなかったので、それが何であるのかははっきりとしなかったのだが。

 とにかく……美味しそうで、食事の場面がテレビに映るたびにごくりとつばを飲み込んだものだ。


 私の育った家は、あまり鍋物が出てこなかった。


 家族で一つの鍋をつつき合う事など、全くした覚えがない。

 鍋に入っている汁ものを食卓の上に出して、お椀に注いで渡されたことなど、一度もない。

「たんとお食べ」など、一度も言われたことがない。


 優しそうなおばあちゃんに憧れていたのかもしれない。

 誰かに注いでもらうご飯というものに憧れていたのかもしれない。

 美味しいものを、おなかいっぱい食べるという事に憧れていたのかもしれない。


 独立して一人暮らしをはじめ、色々と好き勝手に料理を作って満足するようになっても、あの昔話に出てくるおいしそうな食べ物には出会えなかった。


 家庭を持ち、子供たちがボチボチ大きくなった頃のことだ。


 近所の人から雑穀米なるものをいただいた。

 なんでもご飯に混ぜて炊くといいとのことだったが、家族の評価はすこぶる低く、消費するのが難しくなってしまい頭を抱えた。炊き込みご飯に使ってみたりもしたのだが、白米が大好きな家族にはイマイチ人気がなかったのである。


 どうしたものかと考えて、自分一人で消費する事を計画した。


 おかゆにしてみたら、まあまあおいしかった。

 雑炊にしてみたら、結構おいしかった。

 キノコや余った野菜をたくさん入れて雑炊にしてみたら、かなりおいしかった。


 毎日、ひとつかみの雑穀米と野菜の切れ端、干しシイタケなどと一緒に土鍋で雑炊を作るようになった。


 木のお玉ですくって食べると……実に、うまい。

 鰹節たっぷりの、しょうゆ味の素朴な雑炊。

 玉子を落として食べると、さらにうまい。


「おいしそうだねえ。」


 白いご飯を食べている息子が覗き込んだので、土鍋からお玉ですくって、お椀に入れて、手渡した。


「たんとおあがり。」


 自分で言った言葉に、ぎょっとした。

 あれ、今、私……昔話のおばあちゃんみたいじゃ、なかった……?


 ……ああ、もしかして。

 私が昔食べたかった昔話の食べ物って、これなんじゃ?


 あのホカホカしていたものは、貧しい昔話の世界の食べ物だった。


 大鍋で煮込まれていたのはたぶん、白米なんかじゃなくて雑穀だったんじゃ?

 多分、野菜の切れ端とかキノコがたっぷり入っていたんじゃ?


 鰹節入りの、しょうゆ味の、素朴で温かい、ひと鍋で作れる食べ物。

 具材がごちゃごちゃと混ざり合う、お玉ですくってよそう食べ物。


 両手を出す子供に、たっぷりと食べ物が入った湯気の立ち昇るお椀を差し出す、私。


 なんというか、めちゃめちゃ腑に落ちた。


 すとんと、なんだこれだったのかと、納得できたのだ。

 うまそうな食べ物は、本当に美味かったのだと、しみじみ思ったのだ。



 雑穀米がなくなってしまった後も、自分で買いに行くぐらい、ドハマりしたのだなあ。

 旦那が土鍋をシンクで落っことして真っ二つにするまで、ホント毎日のように食べていたんだよ。


 久しぶりに食べたいなあ……。


 夕飯の買い物に来ていた私は、レジの横に一人用の土鍋を見つけてしまったのだな。

 随分お安いので、買ってしまおうか、迷っていたりして……。


 野菜の切れ端はある、干しシイタケもある、ネギもあるし卵もあるし、鰹節もちょっといい奴を裏の高田さんにもらったばかりだ。


 ただ、雑穀がないんだよな……。


 白いご飯でもいいけど、せっかくだから雑穀を食べたいな。

 最近こってりしたもんばっか食べててやけに増量した事だし、いい機会だ、粗食に勤めるのもよかろう。


 私は安売りの土鍋をかごの中に入れ。

 お米売り場に向かって少々お高い雑穀をかごに入れ。

 ほくほくした気持ちでレジに向かい。


 その晩は…懐かしい昔話のアニメを見つつ、美味しい食べ物をいただいたのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] しみじみと懐かしいお話しでホロリと来ました ( ;∀;)
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