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10/20 ☆魔法のダンベル

「ダンベル買って。」


このところ人気のアニメを見た息子が、珍しくおねだりをしてきた。


余り物を欲しがらない子供なので、ここぞとばかりに願いをかなえてあげようと、ニッコリ笑顔を向ける。


「え、なに、鍛えるの、どんなのが欲しいの。」


出かける準備をしつつ、買うものについてそれとなく探りを入れる。


「ダイヤルで重さの変わるダンベルが欲しい。」

「……はあ?」


一体息子は、何を見たんだ。


「ちょっと君ね、ダンベルってのは、重さは変わらないものであって、そんな物質はこの世に存在していないんだよ…。」

「ダイヤルで重さが変わるって書いてある。」


おうふ。


ダイヤル可変式のダンベルは、確かに存在している。

ダンベルプレートを、ダイヤルで固定して、重さを変えるタイプのものね。


だがしかし、息子の思い描いているのは、おそらくそれではない。


●-●←これ


たぶん丸い部分にダイヤルが付いていて、それをひねると重さが変わる、そういうアイテムを思い描いているに違いないぞ……。


「あのね、重さの変わるダンベルはあるけど、君の思うようなものでは、断じてないのさ…ええと、まあ、とりあえず、見に行こうか。」

「はい。」




ウォーキング帰りに立ち寄ったスポーツショップの筋トレコーナーで、がっくり肩を落とす、息子の姿、姿がー!


「ない・・・。」


ダイヤルひとつで重さの変わる…そんな魔法のようなダンベルがあったら、それこそ世界が変わるよ。


そんな物質聞いた事ない、いやあるのか?

反重力装置は何となく成功したとか聞いたことあるけど、どうなんだろう。科学雑誌に目は通すものの、微妙に科学系の情報に疎いというか、右から左に超特急というか。


「あのね、重さが変わるダンベルは確かにないよ、でもね!これから君が毎日一生懸命ダンベルを持ち上げ続けたなら、このダンベルはね、いずれ軽くなるのですよ。」

「軽くなる?」


いぶかしげにこちらを窺う息子に、一キロのダンベルを両手に持たせる。


「どうだね、重いかね。」

「重い。」


…500gからはじめた方がいいかな。


「今日この瞬間の、その重さを覚えておくんだよ。毎日地道にハンマーカールとダンベルカールやってたらね、その重さはやがて、羽根のように軽く思える時がやってくるのです。」


重さ変更ダイヤルなどなくても、君はいずれ二キロのダンベルを軽く思う日が来るんだよ。

それは魔法というよりも、君の努力のあかしというかね。


「君が努力を続けると約束するのであれば、ごく普通のダンベルを進呈します!まじめに地道に努力できたら、魔法など必要ない!筋肉は鍛えたら鍛えただけ微笑み返してくれるもの!筋肉は努力にきっちり応えてくれるんです!!よろしいか!」

「努力する!」


かくして、息子は一キロのダンベルを二つ買うことになった。


…まじめにコツコツ続けることを得意とする息子は、ぐんぐん鍛えあがっていきましてですね。




「いつまでたっても、軽くはならない。」

「まあ、一キロは二つで二キロだし。」


軽く10キロのダンベルを持てるようになっても、二キロは重いまんまなんだってさ。


なんだ、意外と人のイメージってのはかわんないのかな。

おかしいな、うまく丸め込めたと喜んでたんだけどな。



魔法のダンベルなど、どこにも存在していないのだけど。

息子は地道な努力で、ぼちぼち筋肉を手に入れている。


ぷにぷにのぷよぷよだったのに、やけにこう、力強くなってしまった息子はですね、親までも持ち上げることができるようになっていてですね!!

ずいぶんたくましくなった息子に、持ち上げられるようになってしまった訳なんですけどもね?!


ああ、生まれた時は本当に小さくて、未熟児ギリギリ回避だったのに、子供ってのは本当にあっという間に育つなあ。


まるで魔法だよ。

これこそ魔法だな、うん。


魔法は存在していないわけだけど、魔法みたいな事例ってのは案外点在してるなあ。


「バーベル買ってもいい?」

「ヤダよ!!昔お父さんが買って調子に乗ってふすまぶち抜いたんだから!!ジム、ジム行ってきて。」


見事にぶち抜かれたふすまは、魔法のように元には戻らずですね!!

しっかりお金を払って修理する羽目になってですね!!!

くそう!!あのときの修理代、結局もらってないぞ!!


魔法なんてやっぱり微塵も存在などしていない!!!


息子はプンプンする私を見ながら、さっさとトレーニングの準備をして玄関で待ち構えている。


「途中まで一緒に行こう。」


ムム、これはバーベルについて懇願するつもりだな!!

言葉少なに、思いの丈を切々と伝える息子独特のやり口…侮れないんだよ。


だがしかし!!!

私は…まだ息子に論破など、されるつもりは…ない!



・・・10日後に、ベンチプレス一式が届くことになろうとは。


この時の私は、まだ…知らなかったわけですけれどね……。

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― 新着の感想 ―
[一言] うふふ〜♪(*´艸`*)  愛情と言う魔法ですね〜♪ (´∀`*)
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