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10/13 ★食パン、大いに怒る

なんという事だ!!!

まったくもってけしからん!!!



この、超熟食パンたるわしを、ここまで蔑ろにするとは…何事かっ!!!!



昨日、早朝の事だ!!!


この家のご婦人が!!

わしを二枚袋から取り出し!!!

トースターに投入し!!!


わしはっ!!!

わしはぁああアアあ!!!


ふっくらサクサクのもちもちのふにゅんふにゅんになる気満々で!!!


トースターの中で!!

こんがり焼けておったのじゃあアアアアアアア!!!


チン!と小気味よい音で、ばっちり美味い状態に焼け上がったわし!!!


芳ばしい香りを、トースター内はおろかキッチン全体に漂わせて!

絶妙に美味い小麦のスクウェアベースを堂々皿の上にさらけ出す気満々で待ち構えておったのだ!!


・・・。


・・・。


わしから放出された香りが揮発してゆく。

わしの香りが、消えてゆく。


わしの香りは完全に消えた。


わし!

わしの!!!

わしの香りぃイイイイイイイイイ!!!


・・・。


・・・。


わしから急速に熱が奪われてゆく。


相棒のトースターが、冷えてきたのだ!!!

わしの熱が消えてゆく。


わしの熱は完全に消えた。


わし!

わしの!!!

わしの熱ぅうウウウウウウウウウう!!!


・・・。


・・・。


わしから急速にサクサク感が消えてゆく。


湿気がわしを襲い始めたのだ!!!

わしのサクサク感が消えてゆく。


わしのサクサク感は完全に消えた。


わし!

わしの!!!

わしのサクサク感んんんんんっ!!!


・・・。


・・・。


わしからふわふわ感が消えてゆく。


乾燥がわしを襲い始めたのだ!

わしのふわふわ感が消えてゆく。


わしのふわふわ感は完全に消えた。


わし!

わしの!!!

わしのふわふわふわふわふわぁアアあ!!!


・・・。


・・・。


許さん…。


許さんぞぉおおおおおおおおおおお!!!!!




「ぎゃあああああああああ!!!しまった!!昨日パン焼いたのすっかり忘れてた!!!」

「ああそっか、板橋さんにおにぎりもらったからそっち食べちゃったんだったっけ。」

「何これ!!めっちゃかたくなってる!!ウケる!!!」

「かたい。」


間抜け面家族めええええええ!!!


わしの怒りを受け止めるがいい!!!


この硬さはわしの怒り!

お前たちの脆い歯など木っ端みじんよ!!!


一番美味い状態で24時間ほったらかしにされたわしの恨み、この恨みぃイイイイ!!!



「ヤバイ!何これ、レンチンしても柔らかくなんない!むしろ固くなって!!!」

「ええー!もういいじゃん、ラスクだと思って食べよう!!」

「硬すぎだって!!ほら、バター塗ってもカッチンコッチンじゃん!!」

「折れない…。」


ざまあ見さらせ!!!


わしを蔑ろにした罪は重いのだ!!!

お前らのような不届きものは、一生かたいパンを喰らい続ければよいのだ!!!



「あ、そうだ、これコーンスープで煮込んだらシチューっぽくなることない!」

「チーズ入れよう。」


ふん!!小細工などわしには効かぬわ!!!


どわっはっは…!!!



「牛乳とコーン缶、チーズにバター、小麦粉ちょっとにブイヨン…全部あるな、よし作ろう。」

「手伝う。」

「じゃ―パン焼いとくわ!!」

「あたし目玉焼きも食べたい!ソーセージも!!!」


わしの仲間たちが芳ばしい香りを放出し始めよったわ!!


くそう・・・、あ奴らは一番美味い状態で食されるというのに!!!

わしっ!

わしはっ!!!



「小麦粉炒まったからうん、ちょっとづつ牛乳入れるよ…はい、オッケイ。」

「砕いたブイヨン入れていい?」

「ねーね―パン全部焼けたから食べてていい?もぐもぐ!!!」

「てゆっかもう食べてる!!!ウマーさくさく!!」


ああ、仲間がうまそうに食されておる…。


ふくふくのサクサクの、とろんとろんのバターと共に…!!!

うっ、うらやましくなんかっ!無いんだからねっ?!



「じゃあね、パン入れて煮込むよ…で、最後にチーズ乗っけたら、ふたしてテーブルにもってってね。」

「はい。」

「コーンスープマーダー?!」

「パンなくなったー!ホットケーキ食べたーい!!」


わしは包丁で切り刻まれ!!

ぐつぐつ煮えたぎる汁の中に!!


くっそー!!!

わしは負けん!!!

負けんぞ!!!


まけ、負けて、なる、もの…かぁ…。



「はい出来たよ!!あと目玉焼きの人!!ホットケーキ面倒だからでかいの一枚にするよ!!」

「ソーセージ焼いていい?」

「あち!あち!!とろ!とろ!!ハフ、ハフ…ウマー!!なにこれ!ちょーうまい!!!」

「ハフハフ!!ちょっとお父さん全部食べないでよ!!!ずるい!!!」


わしは、とろんとろんのふにゅんふにゅんの、あちあちの・・・。


ああ、ずいぶん、幸せそうに、わしを喰らう、この家族・・・。



「うまい!!うますぎる!!」

「ねえおかわりー!!」

「もうないよっていうか!!!なんで全部食うんだ!!!私の分は?!」

「ソーセージできたよ。」



わしは、かなりうまいらしい。

わしは、相当うまいらしい。



「ごめーん!全部食べちゃった!!!」



ああ、わし、美味しく食べて貰えて、よかったわ…。



「おいしすぎたもん!でさあ、ホットケーキマダー!」



わし、美味しいって言ってもらえてよかったわ…。



「ハムエッグ作ろう。」



また、この家族に、食べてもらいたいなあと思いながら…。



「私、私の分…!!!」



わし、おやじの腹の中に…。


わし、むすめの、はらのなかに・・・。


わし・・・。


・・・。

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― 新着の感想 ―
[一言] 美味ければよかろーなのだぁ〜♪w  わたくすも、トースターで焼いたパンを放置してスープやシチューに投入したコトがありますたぬw
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