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6/9 ☆おかし缶

 最近、パソコンで作業をする私の横には、いつもお菓子の缶がおいてある。


 ミックスナッツの入っていたこの缶には、私のおやつがぎっしりと詰まっている。小腹が空いたとき、手が止まった時、気持ちの切り替えをしたい時……私は缶に手をのばし、おやつを食べているのだ。


 缶の中には、柿の種にピーナッツ、エビせんべいにミニクッキー、ポテトスナックにコーンフレーク……実に雑多に混ざったおやつが入っている。


 ……私にはおかしなくせがあるのだな。

 いろんな種類のお菓子を、一つの缶に入れて、ランダムにザバザバと食べるのが大好きなのだ。


 例えば、柿の種の入った小袋を開けたら、それを食べ切るまで食べ続けなければいけない、それが私は気に入らない。

 例えば、甘いモノを食べていて急にしょっぱいものも食べたくなった時新しい袋を開ける、それが私は気に入らない。


 ミックスナッツの入っていた缶は、ずいぶん大きなものだ。

 最近コンビニで売っている、100円の袋菓子なら四つ分がすべて入る容量である。


 中身が少なくなってきたら随時追加を入れていくので、常に缶には八分目までお菓子が入っている。たまにしけったお菓子が入っているのも、ご愛敬だ。


 いろんなお菓子が混じっていることに、とても魅力を感じてしまうのだな。

 味が混ざって嫌だと感じる人もいると思うが、私はどうしてもやめられないのだな。

 幼いころに、近所のおばあちゃんからもらった、ティッシュに包まれたお菓子のようなイメージなのだな。

 子供の頃に親戚の家に行った時にお皿の上にザバっと出してもらったお菓子のようなイメージなのだな。


 自分がこれが欲しい、これを食べ切ると決めてかかる袋菓子ではない、ランダム感がたまらないのだ。

 思いがけずつまんだ、自分の予想していなかった味を食する、サプライズ感がたまらないのだ。


 今も……ポリポリ。あ、これ、しけってる。

 海老満月とソラマメを左手でつかんで、もぐもぐやっている。次は甘いのがいいな、よしマシュマロにするか。


 ついつい、食べちゃうんだよね。


 ああ、もう缶の中のお菓子が半分切った。

 追加分買ってこないとね。

 そうだ、最近チョコ買ってなかったから入れちゃお。


 休憩がてら、近所のコンビニに行って、五袋ばかりお菓子を買った。


 コーンチョコと、ラムネと、カレースナックに、小粒あられ、アーモンド。

 全部は入らないので、厳選して缶の中に入れる。コーンチョコとラムネ、小粒あられを入れたら缶の中身はぴったり十分目になった。


 ……明日は、朝一でコーンチョコからスタートか。

 そんなことを思いながら、ふたを閉めてパソコンの電源を落とした。




 次の日。

 缶のふたを開けた私は。


 缶の中身が、すっからかんになっているのを発見した。


 ……はは、缶だけに、すっからかんってね。

 ふふ、めちゃくちゃ……面白いやんけ。


「何かチョコが溶けてたから食べといてあげた!!!」

「なんでごちゃ混ぜにしてるの、いいけど!!!」


 ご丁寧に、家族が食べつくしてくれたらしい。


 しけってたのがあったから、食べといてくれたらしい。

 ふたが開いてるから、悪くなっちゃうといけないと思ったらしい。

 食べかけのものが集めて入れてあると思ったらしい。


 なんという、愛情深き、我が家族。


 なんという、なんという……無礼者!!!


「勝手に食うな!!あんたらカロリーオーバーって言われてるじゃん!!間食禁止って言われてるでしょ?!」

「だって家の中にそれしかおやつないんだもん、ちょっとぐらいいいじゃん!!」

「食べた後歩きに行ったから大丈夫!!!」


 ちょっとだと……?!

 歩いたらチャラになるだと……?!


 人の、一週間分のおやつを、一日で食らいつくすハイエナどもめええええええ!!!


 目にもの見せてやるわ!




 私はおやつ缶を手放すことにした。


 金属ごみの日に、すっからかんになった缶を、袋に入れて捨てたのだ。



 おやつ缶のない日々が始まった。



 始まったの、だが。


 ……恐ろしいことに。

 おやつなしだと、実に作業効率が、落ちることが判明した。


 左手でお菓子をつまみ、右手で文字を打つ、その流れがなくなって実にメリハリがなく、作業が進まない。

 左手でお菓子をつまみ、咀嚼する間、画面を見つめる三秒間がなくなって実に息抜きがなく、作業が進まない。


 いなくなって気が付く、偉大なるおやつ缶の功績。

 いなくなって気が付いた、すっかり身についてしまったおやつ缶ありきの生活。


 ああ、おやつ缶、万歳。

 あなたがいないと、私は何もできないようです。


 私は新しいおやつ缶を買うためにスーパーへと出向いた。




 おやつ缶候補がたくさん並ぶ売り場で、頭を悩ませる、私。


 大きいの、小さいの、クラッカー入りにジャイアントコーン入り……。

 魅力的な缶が多すぎて、一つだけを選ぶことが難しい。


 あんまり美味しそうなものを買ってしまうと、また食われてしまう事必至だ。ここはあまりおいしくなさそうなものを買っておくべきだ。




 作戦は成功し、あまりおいしくないミックスナッツは家族に見向きもされない。

 いつまでたっても、減っていかない、ミックスナッツ。



 ……。

 なんだ、この、無性に、残念な感じ。


 ……。

 なんで、私は自分の食べたいものを食べずにいるんだろう。




 ようやく缶の中身が半分になった時、追加のおやつを投入した。


 追加したおやつは、翌日無くなっていた。


「おいしいの入ってたから食べといてあげた!!!」

「早く豆食べちゃってよ!!!」


 ……。

 なんだ、この、無性に、やるせない感じ。


 ……。

 なんで、私は自分の食べたいものを食べられないのか。


「ねーねーチョコ入りマシュマロ入れてよ!」

「からいかお願い!」


 ……。

 なんだ、この、無性に、腹立たしい感じ。


 ……。

 なんで、私は人の食べたいものを補充しなければならないのか。


「ねえ、なんで鍵つけたの、大人げないなあ!」

「独り占めって、こどもじゃないんだから!」


「あんたらがいうな!」




 私は、おやつ缶を手離し、ナンバーロック付きのプラスチックケースを買った。



 これで安心しておやつが楽しめる、そう信じる私は、二週間後にロックを突破される事を、まだ知らない。



 怒り心頭で新しいおやつ缶を買う事になる私は、健康診断でおやつを食べるのを控えるよう言われてしまうことを、まだ、知らない。

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