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2/4 ☆財布は金色にかぎる

 職場の仲良しで集まって飲み会をやるというので、恐れ多くも参加させていただいた。


 コミュニケーション能力に不具合を抱える私は、この手の集まりに参加することはまずないのだけれども…酒の誘惑に負けてしまったのである。

 限定販売のかめ酒が飲めると聞いてはねぇ……。


「はーい、じゃあ、皆さんお会計しますよー、割り勘で、おひとり様5000円ね!割り切れない分296円、誰か男気見せてー!」


「あ、俺細かいの出したい、代わりに誰か5000円払っといて!」

「バカじゃねえの財布ごとよこしやがれ!!」

「ねーねーだれか五千円札ないー?あたし万札しかなーい!」

「五百円玉で払ってもいい?」

「ちょっとあと払ってないのだれ―?!あと二万足りなーい!」


 参加者の半分はほろ酔いを通り越してべろんべろんになっているので、なかなかのカオス状態である。


 なお、私は人前では我を忘れるまで飲まぬと誓っており、ほぼ素面だ。格安居酒屋の薄いチューハイなんかじゃべろんべろんになるまで酔えないというのも、ある。思いのほかかめ酒が小さくてね、完全不完全燃焼なわけなんですけれどもね。……くそぅ、家に帰ったら飲み直しだ!


「あ、じゃあ、私の分はこちらで。」


 私は財布から、千円札を五枚取り出し……


「うわ、意外!!何その成金趣味!!」

「何その財布!!めっちゃウケる!!!」


 人の財布を見て、めちゃめちゃ盛り上がる人が目の前に!!!


「むむ、失礼ですよ……!!!」


 注目を浴びるのはごめんだ。

 そそくさと財布をカバンにしまい込む……。


「なに、宝くじ当選祈願でもしてるの?!」

「金色の長財布って、金運呼ぶんでしょう、金持ってんならおごってよ!!」

「見せて、みーせーてー!」


 私のド派手な財布を見ようと、立ち上がって帰り支度をしている皆さんまで近づいてきたぞ!!


「高そう!いくらで買ったの!」

「なに、幸福の店とかで買ったの?」

「ねえねえ、その財布にしてからお金持ちになった?」


 くそう、なんてこった、人というものはこうまでも他人の財布の色が気になるというのか。


「あーもー、大したことないよ!三年ものの古びた財布だってば!」


 いろいろがんばってる自分へのご褒美に19800円で買ったことがバレたら、またひと騒ぎありそうだ。これは黙っておかねばなるまい。


 私は財布にはお金をかけたいタイプなのだ。


 子供時代は、小銭入れしか持っていなかった。

 アルバイトをするようになってからは、折り畳みのマジックテープの財布を使っていた。


 ―――財布はね、安い物じゃなくていいものを長く使うといいよ!


 ぼろぼろの財布を使っていたら、就職先の社長から苦笑いをされてしまったのだな。なかなか新しい財布を用意しない私を見て、社長が長財布をプレゼントして下さったのだな。


 ―――財布は派手な方がいいんだ、目立つし、お金が入ってるんだぞって誇れるでしょ!!


 金色に輝く財布は、万札を入れておくのにふさわしい逸品だった。

 粗末に扱ってはならぬ、そういう風格の漂う財布だった。


 ―――金色がくすんだら新しいのを買うんだよ!自分でお財布買えるくらい、稼げるようになったんだからね!


 大切に大切に使わせていただいて、自分で新しいものを買う事になった時…私は金色の財布を選んだのだな。私の中で、財布は金色のものでなければならぬというマイルールのようなものができているのだな。


 お金を使う際は心して使うのだと、戒めるためにこの金色は必要なのだな。


「めっちゃ金遣い荒そう!」

「あんな派手なの使う人初めて見たわ……。」

「なに、どっかでキャバクラでも経営してんのwww」


 人のイメージは人のもの。

 私のイメージは私のもの。


「ははは、あたしゃ地味で貧乏性のただのババアだよ。じゃあまた明日、お疲れ様でした!」


 二次会のカラオケ店へ移動を始めた騒がしい団体に別れを告げ、ぽてぽて歩いて自宅へとむかう。


 途中、コンビニに寄ってお茶を一本購入……、小さな小銭入れを取り出してお支払い………うん?ちょっとまて、レジ前に肉まん出てる、新作だな!よーしついでだ全種類かっちゃお!


 パンパンにふくれている小銭入れから折り畳まれた千円札と500円玉を取り出してサクサクっとお支払い完了!宅飲み用のおつまみとお土産ゲットだぜ!


 ……なんと言うか、財布の紐はさ、わりとかたい方だと思っては、いるんですよ。だけど、その反動なのか、実にこう、小銭入れのチャックはゆるゆるといいますか……。


 そう、私は、ふたつのさいふを使い分けているのである!


 金色の財布に相応しくない、しわしわの千円札とか硬貨を小汚ない小銭入れに詰め込んでは、実に気軽に手放していく私がここに!


 ……見苦しいお金は、早く手離したいじゃない?

 ……小銭、たくさん貯まると重くなるから、早く手離したいじゃない?


 ……小銭入れの中が寂しくなると、追加したくなるじゃない?

 いくら財布の紐がかたくても、小銭入れがあっぱらぱーだったら全体的には大赤字という、この悲劇よ……。


 普段使いの小銭入れは、実に見境なくザブザブと散財しており!

 結果として、高い買い物はせずに、安いもんばかり買うようになってしまっており!

 安物買いの銭失いとはよく言ったもので、どんどん減っていく、お札の皆さん!


 あかん…負のスパイラルから抜け出せない……!




「あ!お帰り!おみやげいただきー!」

「新作のアヒージョまんじゃん!食べよう、食べよう!」

「お帰りなさい。」


 ビミョーに鬱々として帰宅した私を待ち構えていたのは、おみやげ待ちの旦那と娘と息子!


 あっという間にレジ袋を奪い去り、てってけリビングに行ってしまった。

 …なんだもう忙しないなあ。


 私はのんびりキッチンに向かって、お気に入りの酒を用意し……。


「うーん、肉まんが一番だな!カレーもいつも通りにウマー!」

「うわなにこれめっちゃウマイ!また買って来てもらお!」

「おいしい。」


 皆さん大喜びのようで、買ってきた私もうれしい…ってちょっとまて!


「ちょ!全部食べないでよ!」


 梅酒ロックを手にリビングに向かうと…すっからかんのレジ袋、食い散らかした肉まんの袋!


「ごちそうさまー!ピザまんが一番うまかったよべふー!」

「アヒージョまんは及第点かな、また食べてあげても良いよ!」

「チーズまん食べたい。」


「なんでそんなに偉そう?!私の分、私の分は?!私買って来たのに!」


 またしても私は、食いっぱぐれたというお話です……。


こちらはnoteにも投稿しています(*´−`)

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