7/11 ☆竜のひげ
息子は、生まれたとき、ほとんど髪の毛がなかった。
明らかに、毛が、ないのだ。
乳児検診で、「剃ってるんですか?」と聞かれることが、そりゃあ何度もあったのだ。
一歳を過ぎてなお薄い頭は、なかなかの目立ちっぷりだった。
そんな息子も二歳になる頃にはようやく人並みにふさふさし始め、ひと安心…。
と思いきや。
まあ、色が薄くて薄くて……。
薄茶色の髪が、また目立つこと目立つこと。
今度は、「脱色してるんですか」と来たもんだ。
さらに。
まだ保育園すら入っていない年齢なのに、白髪が生えてきた。
明らかに白い…いや、金髪?
ほっそい毛に混じって、一本、太い、金髪とも白髪ともいえない、怪しげな毛が生えてきたのである。
耳の上あたりに、一本。
気がつけば、ご丁寧に、右も左も生えている。
「ねえ!何コレ!!」
「ただの色の違う毛だよ!!」
娘がいつもいじるので、いささか息子の機嫌がよろしくない。
「……。」
言葉が遅い息子は文句も言わずに、さり気なくその場から逃げていた。
おかしな毛は、普段は茶色い髪に紛れているのだけれど、風が吹くとちらりと見えるのだ。少ない茶髪のそよぐ中に、我ここに在りとキラキラ輝く……違和感アリアリの太い毛。
その様子がなんだかおかしくて、ついつい見てしまうという……。
いつしか金髪は、竜のひげと呼ばれて…愛でられるようになった。
たまに腕に生えてくる長い毛を、宝毛とか言う事もあるんでね。縁起がいいかもと思って、勝手に命名してみたのだ。
息子が三歳になった頃、ようやく初めて髪の毛を切りに行くことになった。
長めの髪にバリカンが入り、かっこいいスポーツ刈りのちびっ子に変化した。
「うおお!!可愛いのが一気にかっこよくなった!!」
「かっこいい。」
ちょりちょりの髪の毛の手触りを大喜びで触りまくらせていただく。
……これはたまらん!!
・・・ん?
耳の上に金髪!!
短くなって……めっちゃ目立つようになってる!!
「なにこれ!!ウケる!めっちゃ・・・・」
「めっちゃかっこいいよね!!」
娘がまた騒ぎ出したので、息子が気にする前に封じ込める。
「…かっこいい。」
こういうのは、騒ぐからいかんのだ。目立つ事はとりあえず横に置いといて、ごく普通に暮らしていけばよろしいのだ。
かくして目立ちまくった竜のひげ。
若白髪のサラブレットの息子は、小学生にして白髪のある子供になり、竜のひげは紛れるようになった。
「なんか白髪多くて、目立つ…。」
「いいじゃん、今銀髪はやってるし!」
「流行の最先端だ、やったー!」
よーく見ると、見分けつくかな?…いや、よくわかんないや。
すっかり人に紛れてしまったということかね。
…ああ、ただの人だった。
「ねーねー!お腹すかない?」
「オムレツ作る。」
白髪交じりの料理好きな小学生は、今日もニコニコしながら……平凡に、穏やかに…卵を割るのであった。