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3/22 ナツミカン

「ねーねー!!いーもんもらったー!!!」

「またもらってくる!!!」


 花粉が猛威を振るい始めたとある日の夕方…、やけにつやつやとした顔で旦那が帰ってきたぞ!!


 今日は新年度町内会役員の顔合わせと引継ぎだとかで、朝もはよからぱつんぱつんのスーツを着込んで出て行ったのだが…ムム、社会の窓が全開している、いや全壊してるじゃん!!くそう、ついにはじけたか……!!!


「なんかね、ナツミカンだってー!!去年の会計監査のリュウアン先生がね、庭に生えてたのをもいだから持ってってって!!」

「あのね!!いつも言ってるけど、こうもはりきって全部もらってこないでよ!!こんなレジ袋いっぱいの夏ミカン、どうやって食べ切るつもり?!フードロスを助長すんな!!!」


 もらったところで食べ切れなくてはゴミになる。しかも生もの、さらに庭で収穫したというだけあって傷のついてるものも多くて長期保存ができなさそうな…今すぐ処理しないといけないタイプのやつ!!


「だってみんな皮剥くのがめんどくさいって!!天然のやつだから種が多いよっていったらみんな一個づつしか持ってかなくて!!不人気でなんか気の毒で!!全部持ってっていいのって聞いたらどうぞどうぞって!!」


 そりゃあね、普通の人は販売用にきっちりと手をかけて丁寧に育て上げた夏みかんならいざ知らず、一般家庭の庭で育ったような貧弱な果実なんか一個もらえばそれでいいよねって思うでしょうよ!!ホントは欲しくないけど社交辞令で一個もらって行く的なさあ!!


「そもそもあんたナツミカンは苦いし酸っぱいし甘くないからあんまり好きじゃないって言ってたじゃん!!何で自分がいらないもんもらってくんのさ!!!全然食べないくせに!!」

「だってー!!だってー!!!」


 いい年をしたおっさんの本気の駄々こねに…怒り心頭だ!!!

 くそう…晩ご飯のおかず、全部ナツミカン尽くしにしてくれようか!!!


 ……まあ、それはそれでなかなかうまそうだけども!!!


 私はわりとナツミカン自体は嫌いじゃないっていうかね。

 あの強烈な酸味と自己主張の強い苦みに紛れ込む爽やかな甘みとシャキシャキ感がかなり好きなのだなあ。ややばらけがちな果肉一粒一粒がしっかりと己のビタミンCを誇っているかのようなパワフルな存在感がたまらなく魅力的なのだ。


 大昔に…祖母がよくもらってきていたのを思い出す。

 ナツミカンの時期はもちろん、季節はずれにもひとつずつ持ち帰ってきて……いっつも皮剥かせられてさ!!プリプリした実は全部取られて、貧弱なのや剥き損ねてばらけたのしか食べれなくてさ!!

 自分は砂糖かけてジャリジャリ喰ってるくせに私には『子供が砂糖なんかかけて食べたら体に悪い』って言っていっつもすっぱいのや苦いのをそのまま食べさせられて…まあ、そのおかげで耐性が育まれてナツミカン好きになれたわけだけれども!!


 あの頃の絶妙な窮屈感/ひもじさに比べれば、好きなだけ自由に食べられるからうれしくはある。買おうとするとわりと高いんだよね、ナツミカン。正直手軽で甘ったるいバナナに手が伸びがちなのは否めない。


 ……そうだな、ナツミカンは頑張って育ったんだ、いくらうちに来た経路が腹立たしかろうと、その()に罪はあるまい。


 全く反省の色を見せずリビングでドーナツをむしゃむしゃやっている旦那に背を向け、新鮮果実の入ったレジ袋を手に夕食を作るべくキッチンへと向かう。


 本当はから揚げを作るつもりだったけど、そんな手間のかかるメニューだとナツミカンを捌く暇がないので…よし、チキンカレーに変更しよう。幸い先週もらった新たまねぎもにんじんもあるし、今日はもらい物一掃デーにするか!!

 よし、順一先生の家庭菜園の甘くないサツマイモも入れてしまおう、カレーに入れば多少の味のなさはごまかせるはず…。石田さんにもらった糠漬けはサラダにしちゃおう、だいぶ前にもらったアンチョビも開けてしまおう、確かもらい物の賞味期限の切れたマッシュポテトがあったからそれとあわせてチーズ焼きにでもするか……。


 手早く調理を進めつつ、煮込み時間を利用してナツミカンの皮を剥いていく。分厚い外側を包丁を使って剥いで、房のほうはキッチンバサミを使って食べられる部分をボウルに放り込み…。


 やはり収穫目的で育てているものはないので、種が大きくて実が貧弱だ。味は普通にナツミカンだけど、ちょっと勝ち気なとんがった甘みと根性のある酸っぱさ、わりかし腑抜けた苦みは嫌いじゃない、でも房がバラバラになっちゃうな…。ここは思い切ってもっとほぐしてサイダーに混ぜ込むか、蜂蜜とあえてもうまそうだ、アロエヨーグルトに入れてもいいかも、ゼリーにしてもうまいんだよね、これだけあればジャムにしても…いやでも煮ると三分の一になっちゃうからな…。


 まあイイや、コレだけたくさんあるんだ、贅沢にいろんなメニューに使えること必至、とりあえずすぐ食べられる状態にしておいて、後でゆっくり考えよ!



「……えっ?!ちょ…ない!!!ナツミカンは?!ここに!!たんまり置いてあったじゃん!!」


 煮込んだカレーの仕上げとサラダの盛り付けをし、オーブンからポテトチーズ焼きを取り出して食卓に向かうと!!!テーブルのど真ん中に置いといた夏ミカンが……なくなっとるがな!!!


「聞いてよ、ガムシロップかけたらめっちゃおいしいの!!てゆっかお父さんがフルーチェに合うって言い出してさあ!!確かに合ってさあ!!」

「ドーナツ食べて口の中が甘くなっちゃったからさっぱりさせとこうと思って!!この苦味がいいんだよね!!おかわりちょーだい!!」

「バニラアイスと混ぜたらずいぶんおいしい」


 人の…人の苦労を!!!

 こいつらは…こいつらはッ!!!


「なんでいつも根こそぎ食べちゃうの?!めちゃめちゃ皮剥くの、種取るの大変だったのに!!!」


「食べないクセにって言ってたくせに、食べると怒るってどういうことなの!!めっちゃ食べてあげたのに!!もー、わがままなんだから!!」

「もー!!お母さんそんなにカリカリしなさんなって!!食べたもんはないんだから、今からは有るものをおいしく食べようよ、ね!!ほらほら、おいしいカレー食べようよ♡」

「このチーズ焼きおいしいね」


 人がプンプンしているというのに…一切気にせず、炊きたてごはんを盛る娘!カレーの肉を拾って盛る旦那!焦げたチーズをはがしている息子!


「ちょっと!あんたらね?!人の話を…聞けっ!!溢れるまで盛るなッ!!好きなとこだけ持っていかない!!」


「ウ~ン、うまうま!ごめーん、最後のごはんもらっていいよね〜!!」

「ねーねーとけるチーズなくなっちゃった!」

「生卵入れよう…最後のだけど使っていい?」


 怒っている隙に…食うもんがどんどんなくなっていく!!


「だから……根こそぐなと、言っておろうがアアアア!」


 安定の、いつもの腹八分目展開がですね!!


 あったってお話ですよ!!

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