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8/22 ☆納豆巻

 ……納豆巻きが、食べたい。


 私は、納豆巻きを、心行くまで食べたいのである!


 クソ暑い真夏の昼下がり、ふわりと湧いた食欲を満たすため…、私はキッチンに立つことを決めた。米を研ぎ、炊飯器にセットをし、準備を整え……いざ、クリエイトナットーロール!


 …ぱた、ぱた、ぱた、ぱた。


 納豆が煮えてしまわぬよう、飯に酢を撒きうちわで扇いで熱を散らす。湯気がもうもうとたちあがり、視界を遮ろうと揺らめく。左手でうちわを、右手でしゃもじを…、一心不乱に動かして、ただただ作業に没頭する。柔らかな米粒を潰さぬよう、優しく、手早く……。


 米が仕上がったら、次はメインの納豆だ。


 丁寧に納豆を刻み、きっちり100回練り上げて、秘伝のタレを絡め、ネギを散らす。


 さあ、いよいよ……メインイベントだ。果たして、米と納豆を見事にまとめ上げることができるか、否か。


 ……納豆巻きは、かなり、手ごわい。納豆を酢飯に閉じ込めるのに、一苦労なのだ。


 納豆の恐ろしくも誇り高き粘り気。

 こいつは屈強な糸を引いて、小皿の上から酢飯の上に移動することを全力で拒む。


 ……なぜだ。

 なぜ、そこまで糸を引く!!

 おとなしくつるりと酢飯の上に移動はできないのか!!


 ……なぜだ。

 なぜそこまで糸を引く!!


 手助けをする箸にもこびりついてくる。

 なんという執着を見せるのか!


 納豆よ!!お前は酢飯との相性が一番良いのだ!


 小皿など…箸など…!!!

 ただの、ただの道具なのだぞぉおおおお!!!

 一緒に食われてくれぬ存在に執着するとは何事かアッ!!!


 ……ただ、ただ、無心に、海苔の上に広がる酢飯の上へと、納豆を落とす。


 ……恐ろしい事だ、納豆は一番の相方である酢飯に乗ることを拒み、箸と小皿にしがみついている。


 何という事だ。

 報われぬ、愛がそこにあるとでもいうのか。


 ……仕方がない。

 聞き分けのない納豆は、酢飯に、ふさわしくない。

 箸と小皿にしがみつく納豆を、私は見捨てた。


 巻きすの上には、一体化を待ち焦がれる、酢飯と納豆と、海苔。


 ああいいとも。

 ああいいともさ!!


 私が、私が、私がお前たちを巻いてやろう!!!



 ぎゅ、ぎゅ。



 ……そっと、巻きすを、剥がして、みる。



 お、おお……おおおおおおおおお!!!!!



 なんという美しき三位一体の芸術!!!

 輝かんばかりの、海苔の艶やかさはどうだ!!


 『私の中には至高がぎっちり詰まっているのよ』と胸を張る、海苔!!!海苔、ノリ、のりぃいイイイイイいい!!!!


 海苔は偉大である!!


 海苔の大活躍によって、酢飯と納豆の比類なき相性の良さが100%を超えて実現化しているのだ!!!


 ふぉ、ふおおおおおお!


 私の興奮は止まることを知らず!!


 納豆と酢飯を海苔でまとめて!まとめて!巻いて!巻いて!!!




「ふう…やったぜ…。」


 10本の納豆細巻きを、完成させた。


 あとは……、これを。


 口に運び。

 咀嚼し。


 香りを楽しみ。

 歯触りを楽しみ。


 のどごしを楽しみ。



 ……胃袋に落ちる瞬間を、思う。


 うひひ!!


 これはウ―――マ―――イ―――ぞ―――!!!


 テーブルに納豆巻きを置いて、しょうゆを取りに行こうと。


 ……ここで気を抜いてはいかん!!!


 まただ!!!

 またあいつらが!!!!



「ねーねーなに作ったの―?」



 やっぱり案の定で、キタ――(゜∀゜;)――!!


 食欲の権化たる、食い気に満ちた家族の登場である!くそぅ、作ってる間は微塵も姿を表さなかったくせに、なんでこうも出来上がった途端に顔を出すのか!


……このままでは危険だ。奴らは食卓に侵入したら最後、己の欲望のままに貪りはじめ一粒の米すら残さずに胃袋の中に収めてしまう。


 ……食われる前に、食う!!!


 私は納豆巻きをカットするのをあきらめて、そのままかぶりついた!!


「「「納豆巻きだ!!」」」


 黙って座って納豆巻きをもぐもぐ食べる私の横で、立ったまま手を伸ばす人々が三人。


「私も食べる!!」

「もらっていい?」

「マヨネーズ取ってきてー!」


 ……席を立ったらこの一本で終了だ!!


 黙って頷きながら座って納豆巻きをもぐもぐ食べる私の横で、立ったまま納豆巻きを食べる人々が三人。


 ……何故だ。

 何故座って食べない?!


 ……突っ込みを入れたらこの一本で終了だ!!


 黙って座って納豆巻きをもぐもぐ食べる私の横で、立ったまま納豆巻きを食べる人々が三人。


 ……何故だ。

 何故そんなに食べるのが早い?!


 諦めたらこの一本で終了だ!


 私が、二本目に、手を伸ばした時。

 皿の、上から……、納豆巻きが、すべてなくなった。


 ……心行くまで食べたいと願った、至高の逸品。


 二本目に食べた納豆巻きは、涙の味が…するかあああああ!


 くそぅ!


 めっちゃ美味い、美味すぎる!


 ああこんなに納豆巻きは美味いというのに、何故いつも毎回毎度のことながら心行くまで食べられないんだ。


 ……次に作る時は、20本作ろう。


 私は固く心に誓って……、報われぬ愛を貫いた納豆の欠片が残る皿を洗うため、キッチンへと向かったのであった。


2月は毎日更新します~(*´−`)

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― 新着の感想 ―
[一言] いや〜(もぐもぐ)冷かそうと思って読んだんだけど、初弾(話のネタ)からほっこりさせられたね(笑)。 (もぐもぐ)そして自ら巻いたタネを…いやネタをいつもの家族の食欲に負けぬように1つでも多く…
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