表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

198/198

11/2 ☆ハーブティーとわたし

 週に一度行くショッピングモールの片隅に、輸入食品を扱う店がオープンした。


 西洋の図書館をイメージしたという店内には、所狭しとセンス良く魅力的な商品が並び…うん、目移りがすごい。


 うわあ、見た事ないグミだ、何このジャム美味しそう、ちょっと待ってめっちゃドライフルーツ売ってる、買っておかねば…すげえ見た目のパスタがあるぞ、ミートソースでこってり食べたら絶対うまいやーつだ、あれに見えるはホクホクジャガイモに合うこと間違いなしのこってりドレッシング、もちろん買いだな…てゆっか何このワインの山、うおお~見た事ないデザートワインだ、これは娘と一緒に乾杯せねばなるまい!!!


 地味に輸入食品が大好きな私、一歩踏み出すたびにテンションも五センチくらい上がってですね!!

 くぉおお!!ヤバイ、このままだと天井を突き破ってしまう!!!

 いっぱいになったかごを抱えて、お会計を済めせ、両手に袋を下げて車へゴー―――!!!


 おかしいな、今日の晩ごはんの買い物の資金がなくなったぞ、まあいっか!今日は冷凍庫の掃除メニューと野菜室すっからかんスペシャルにしよ!



 大荷物を抱えて自宅に戻り、戦利品をテーブルの上にずらりと並べたら、なんかやけに心が冷えてきたような…イヤ気のせいだな!私は良い買い物をした、浪費して落ち込んでなど…いない!!!


 サクサクと我が家にお迎えした皆さんを相応しい場所に移動させてゆく。ワインは冷蔵庫、パスタは棚、ドレッシングは今日使っちゃうからテーブルの上でいいや、ドライフルーツはとりあえず味見しとくか…。

 多少お菓子の棚の蓋の閉まりが悪いものの、なんとか収納を完了した私は、ポットにお湯を沸かし、買ってきたばかりのハーブティーをいただくことにした。少々の気の迷いは、リラックス効果満点のお茶でながそまい。


 ……私がハーブティーと初めて出会ったのは二十歳の頃だ。

 ずいぶんおシャンなお見合い相手に、オーガニックなカフェがあるからと連れて行かれて、ルースティーをごちそうになったのがきっかけでしてね。


 透明なティーポッドにゴミみたいなクズがわんさか入ってて、正直うへえ… (´Д`;lll)ってなったんだよね。でも残せないし、覚悟決めて飲んだらまあ、美味いというか、味はそうでもなかったけどすんばらしく爽やかな風が口の中を吹き荒れてですね。

 あの時の衝撃、驚き、感動ときたらもう。すっからかんにお見合い相手の顔を忘れてしまったというのに、ばっちりしっかりくっきりハーブティーのインパクトが刻み込まれたのだなあ…。


 以降私はハーブティーを贔屓にするようになり、今までいろいろと嗜んできた。

 …とはいえ、どこにでも売っているような日本製のティーバッグがほとんどで、めちゃめちゃ詳しいわけではない。無難な量販品をあらかた飲みつくしたので、このところ輸入物に手を出し始めたところだったりする。


 お湯が沸くまでのしばしの間、心躍るようなデザインの外箱にじっくりと目を通す。ふふ、なんだかちょっぴりプロっぽい……。

 フウム、さわやかなハーブをオリジナルでブレンドしたものがいろいろとティーバッグになって入っているのか。ペパーミントにリンデ、やろー???なんか聞いたことのないハーブばっかだな、どんな味なんだろ……。


 ゴー、ごごご…コンっ!!


 おお、お湯が沸いた。

 買ったばかりのハーブティーの箱を開け、中の袋を取り出して…ティーバッグを一つつまみ上げ、大ぶりのカップにそっと入れる。


 こぽこぽとお湯を注ぐと……、ふわりと湯気に混じって、ハーブのいい香りが…鼻に……。


 …うん?


 カモミールっぽい?少しミントっぽい…、なんだろう、遠くにムスク系の香りがいるような、気のせいか由緒正しいお寺さんの空気が……。


 まあ、口に入れた途端に違和感のぶっ飛ぶハーブティーもあるからな、ティーバッグを一振り二振りして、とりあえず一口……。


 ……。


 ………うん?



「ゔぉぼえがぁあああ!!なんこれ、おもくそまじい、ちょ!はい、ハイ?はぃイイイイ?!」



 一口飲んだ時に口内に広がる一瞬のクールなミントの香りをあっちゅー間に塗りつぶす絞り汁感!!!

 のど元を通った後胃袋からせり上がってくる、何とも不快な人類の歴史を感じさせる生活臭の染み込み過ぎた感!!!

 安易に体内に取り入れてしまったことで己の細胞が侵食されてしまう悲劇を受け入れなければならないという…絶望感!!!


 もしや一口目だけ絶大なインパクトを与えるヘッピリムシタイプのハーブティーの可能性もあると思い、二口めを飲んでみたのだが!!!



「…ちょ!!うべあぁが?!ぶべっびょぉおおお!!!ま、まずっ!!!ちょーマズい、なんなんこれ!?売っていいのこれ!!!」



 味わおうと舌の表面を開放すればするほどに不愉快なにおいが認識され、頭の中には次々と同レベルの破壊力を並べようとおかしな画像が浮かんでくる…ベランダで干からびていたぞうきんを水にぬらして絞った感じ、おままごとで水たまりの木くずを救ってお茶ですよと言いながらコップに注いだ感じ、解体する床の抜けた家屋の一階で掃除をしてたら雨が降ってきて二階の土壁が混じった雫が垂れてふいに口に入っちゃった感じ……。


 ……あかん、これあかん奴や!!!


 普段ほとんど食べものを捨てる事の無い私だが、今回に限っては…これは食いものでは、断じて、ない!!!

 だから捨てていい、捨てるべき、捨てなきゃいかん、捨てる!!!


 まだ温かいカップの中身をティーバックごとシンクにあけ、グラスに水を注いでグビリ…。むう、足もとの猫どももやけにしかめっ面をしている気がする。ドンだけものすごい威力なんだ、このハーブティーは……。


 陽気なデザインのハーブティーの箱を睨み付け、ストンと椅子に座る。

 もしかして残り49パック、全部こんな感じじゃあ、あるまいな……。


 ………。


 …そう言えば、旦那が今週地域の交流イベントがあるとか言ってたな。

 寒くなって来たからあったかいお茶を好む人が増えて、ティーバック代がかさんで冷たいドリンクの種類が減ったってぷんすかしていた。

 確か、ドリップコーヒーなんかも用意してあるとか言っていた。多分、お湯とコップは置いてあるはず……。

 ご自由にお持ちくださいと書かれたお菓子の小袋が詰め込まれたかごは、いつもすっからかんになっていた。好奇心旺盛な人が多く集まるから、たぶん話題にはなるよね……。


 ……よし、ハーブティーは他人に丸投げしよう。


 私は自分一人でマズ汁を消費するという選択をしないことを決め。


 週末のイベントに参加する準備を始めたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ