8/4 ★プール当番
地域のコミュニティプールで、監視員をすることになった。
本日は、ドキがムネムネの…初出陣。
ようし、やらかさないように頑張るぞ!
グビリと水を一口飲み、空調服のスイッチを入れて…いざ、扉の向こうへ!!
「おはようございます~、あのう、今年から監視員やってみることになった春川ですけどぅ…」
「おはようございます!!今日ご一緒させていただく佐藤です、よろしくお願いしますね~!!ええと、まずはですね…」
監視員は二人体制。
初心者中の初心者、初登場初出勤の私と一緒に見守りをして下さる人は、この道8年というベテランさんらしい。事前講習会で聞いたことを、一つ一つ丁寧に見せていただきながら…再確認。
「そんなに気負わなくても大丈夫ですよ、危険行為だけ見張っといて、ね。わりと楽なバイトですからね、ふふ!」
そう、この監視員…なんとバイト代が出るのだ。
時給が出るというので、ちょっとしたお小遣い稼ぎになるかなと思って安請け合いしたのだが…、事前説明会の参加に、緊急救命講座の受講、メガホンやラッシュガード、短パンに日焼け止め、虫よけなどなどの購入その他もろもろ、思いのほか時間やおこづかいをつぎ込まねばならない状況がですね。
まあね、人手不足ってお話だったし、経験獲得チャンスだと思えばいいいか、うん…。
「こんにちは〜」
「はい、こんにちは!」
10時ピッタリにオープンしたが、度を超えた暑さが影響しているのか…、さほど利用者は多くない。
朝イチでやってきた小学生男子二人組に、ようやくオムツが取れたというちびっ子とお母さん、年子の姉妹連れのお父さんに、孫娘を連れてきたおばあちゃん。
車で15分も行けば豪華なレジャープールがあるので、みんなそっちに行ってしまうのだろう。
ここには、スライダーも流れるプールも噴水も温水シャワーもウォーターサーバーも…洋式トイレすらないのだ。あるのは小学校のプールよりも小さい、水深20センチのちびっ子用と水深60センチの小学生用が真ん中で仕切られたプールひとつだけ。いくら無料とはいえ、魅力が無ければ人は集まらないに違いない。
…その昔、自分が子供だった頃は、水に浸かれるだけでも嬉しかった。
50円払って毎日のように行っていた市民プールは、やや大きな観覧席こそあったものの…設備はかなりショボくてさ。着替えるところは個室でこそあるもののシャワーなし、トイレは男女共用で、和式トイレなのはもちろんトイレットペーパーすら常備されていなかった。ロッカーは解放式だったし、靴置き場も無いから荷物の取り違えなんかも多発していて…。
まあ、ソレに比べたら、ここはわりかし…、いやしかし、時代は変わったからなあ。この何から何まで便利で衛生的な現代において、やはり見劣りする設備っぷりではあるか。
そうだなあ、外にスナックコーナーがないし、自動販売機もちょっと歩かなければ見当たらない。昔、プール上がりに出口の横でアイスの自販機のバニラもなかを買うのが楽しみだったことを考えれば…うん、こっちの方がかなりショボいわ。
そんな事を思いながら、見晴らしイスの上に座り、監視を…、あれ、なんか人が増えてきたな。
「ギャハハ…こっち、こっち!」
「やっべ!」
ドッパーン!
「ぐぉらあ゛〜!飛び込むんじゃない!」
「ごめんなさ〜い!」
ペタ、ペタペタペタペタ!
「お゛らぁ!プールサイドを走るな!」
「へーい!」
ちょいちょい危険な行動が目立ち始めたぞ!!
返事こそキモチは良いが、ちっとも言う事を聞きゃしねぇ〜!
プールサイドにじょうろで水をまきまき、口うるさく注意をば。
ああもう、誰だゴーグル置きっ放しにしてるのは。
うん?なんかハチがいるな、駆除しておくか。
…なんかわりとかなり忙しいな。
ピ、ピピピピピ…
「休憩時間で〜す、みんなプールから上がってね〜」
「ぅおらぁあああああ!さっさと出んかい!」
…なんだろう、なんで私はこんなにもガラが悪い感じで怒鳴っているのだ。
一緒に監視員をしている佐藤さんは…実に穏やかに朗らかににこやかに優しいまなざしで微笑んでいるというのに。くそう、これが人柄というものなのか、なんてこった…。
「ねーねー、ジュースおごって!」
「のどかわいたー!」
「オレコーラ!」
なに、最近の子どもって…こんなに傍若無人な感じなの?!
「やだよ!自腹で自販機で買え!」
「ちぇー!けち!!」
「大人なんだからさあ、子供にやさしくしてよ!」
「パパに言いつけるよ?」
「 な ん だ と ! しゃらくさいこと言うお前らには…ホースの水攻撃だ!くらえ、くらいやがれ!」
「ぎゃー!」
「キャハハ、つめた~い!」
クッソー、てんでダメージを受けてねえ…。
かくなるうえは!!!
「きみらね、あんまりやりたい放題してると…海坊主の子にいたずらされるよ!マナーを守らない横暴な子にはね、揮発姐さんのお仕置きが…」
「なにそれwww」
「海なんかどこにもないじゃん!」
「はいはい、気を付けますぅ~!!」
ピ、ピピピピピ…
「はーい、休憩時間終わり!入っていいよー!!」
「わー!!」
「いっちばーん!!」
どっぱーん!!!
「飛び込むなっつっとろぉぐぅぁああああああああああああああ!!!!」
小生意気な子供に素直な子供、引っ込み思案な子供に元気の良すぎる子供、緊張してるちびっ子に風呂に浸かるかのごとく身を浸す子供、真っ黒に日焼けしている子供に背中が赤くなってる子供…、総勢138人が来場とか、けっこう人気あるじゃん!!
人数が多ければ多いほど厄介なやつの数も増えるって事で…くそう、マッタリと優雅に監視員するヒマが…無い!!
誰だショボい施設に人は来ないとか言ったやつ!!!…私だよっ!!!
「はい、おつ、おつ!!しゅーりょーだよ!!プールから上がってね!!」
「はーい!」
「えー!!もう?!」
午後四時、コミュニティプールは無事終了の時間を迎えた。
「たったか着替えて、とっとこお帰りなさい!!急がなくていいけど、のんびりしないでね!!」
「なにそれ!!」
「はーい!」
「忘れ物、無いかなー?気を付けて帰るんだよー!!」
「ありがとーございました!!」
「これゆうちゃんのゴーグルだよ!!」
「このあと公園で遊んでいく人―!!」
「お世話になりました、ご苦労様です!」
「暑い中有り難うございました」
「俺また明日来る!!」
「いいなあー」
ろ過装置を自動に切り替え、出しっぱなしになっている水を止め、プールサイドを見回って、サンシェードをしまって、日誌をつけて、更衣室をチェックして…本日の業務、完了!
「お疲れさまでした!!」
「お疲れさまでした、また御一緒することがあったら、よろしくお願いしますね、ウフフ」
プールの入り口の鉄柵に施錠をし、佐藤さんにお礼を言って別れ、木陰にとめておいた自転車に乗り込もうとした…その時。
「めっちゃおもしろかった!」
「また明日も来ていい?」
「もっと遊びたい」
大中小…日焼けした子供たちが駆け寄ってきたぞ!!!
「いいよ!!明日も当番だし!!」
この子たちは…本日地味に私のお手伝いをですね。
初監視員初出動の私をサポートしてくれた、縁の下の力持ち的な存在でしてね。
「わーい!!やったあ!!」
「あの子、また来るかな?」
「…おなか空いた」
海坊主のとこの末っ子に、一生懸命帽子で耳を隠していたチビッ子、年齢不詳の揮発姐さん。
この子たちはね、まあ…、ここら辺に住んでない皆さんでね。
初めての任務に不安があるって言ったら、手伝ってくれるっていうもんだからさあ。プールの中に入ってもらって、それとなくサポートをね。
いやあ、この子たち、めっちゃいい仕事してたわ!!
「よし、じゃあ、うちにおいで!!今日さあ、でっかいおじさんも騒がしいお姉ちゃんも黙ってるお兄ちゃんも帰りが遅いの、みんなで流しそうめんやろ!!デザートにみかんゼリーも出すよ、今日のお駄賃だからね、お土産に持って帰ってもいいけど!」
「「「やったー!!!」」」
無料開放中の、ショボいコミュニティプールがなかなかいいぞという噂は…町内のみならず、狭間の方にまで届いたらしくてですね。
今年の利用者数が、異様に伸びているというお話がですね。
あったり、無かったり…。