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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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7/30 たぷたぷ

 いよいよ…夏到来である!


 本格的な夏!

 クソ暑い夏!

 あらゆるものが茹だる夏!


 なんという日差しのつよつよ感!!

 なんという高気温の無敵っぷり!!

 なんという不快感MAX!!


 色々と思うところはあるが…、私は夏が嫌いではない。

 むしろ四季の中では、一番好きだ。


 かき氷はウマいし!

 そうめんも美味いし!

 キンキンに冷えたビールは格別だし!

 スイカはシャクシャクだし!

 プールは気持ちイイし!

 冷房の効いた空間に入った時の嬉しさはハンパないし!

 花火はキレイだし!

 盆踊りは愉快だし!

 出店は魅力的だし!


 魅力的なイベント/食べ物が多いので、真夏の過酷な環境そっちのけで楽しむことは珍しくない。

 過酷な環境に身を晒され続ける事で、短くとも休める瞬間にありつけた際にありがたみを感じるパターンなんかもある。木陰で腰を下ろしただけ、冷たい水を飲んだだけで、生きている喜びをひしひしと感じ…涙を浮かべるようなこともボチボチあるのだ。


 己の幸せというものをしみじみと噛みしめる事ができる季節…、それが夏!


 ヒャッホウ!

 今年も夏を…とことん楽しむぞ!!


 …とは、いえ。


 やはり、夏は…体力の消耗が凄まじい季節である。


 そこそこ体力はある方だと自負してはいるが…、真夏にどぎつい日差しを浴びながらうだうだと文句を垂れ続け、意味もなくエネルギーの放出を許すような余裕はない。

 少しでも無駄な時間を過ごしてしまわぬよう、効率を考えて順を模索し、環境を整え、余計なことを口にせず、ただただ目の前の作業に集中するような地道な努力は必要だ。


 どうせ不愉快な時間を過ごさねばならないのであれば、のろのろやるよりさっさか終わらせたい。

 のたのたしていたら、あっと言う間に体力が枯渇して干からびてしまうので…、炎天下でぼさっとしているくらいならば、気持ちを切り替えて次に行った方がいい。余計なことを考えず、目の前の仕事だけに集中していれば作業効率はアップし、それなりに帰宅時間も早まるのだ。


「え~っと、次は…今日あと何件だっけ?」

「あと三件だよ!!昨日よりは少ない!!」


 エアコンの修理業を生業としている旦那。

 この時期は一年を通して最も忙しくなるため、私も頻繁に駆り出されるようになる。

 いつもは人手のいる案件なんかの時に荷物運びなんかを中心に手伝う程度なのだけれども、繁忙期はそれなりに技術の求められる作業をやることが多くなるので、より迅速な気持ちの切り替えとアッサリした話題の消化および徹底した無駄の省き、さらにキレのある集中力の発揮が求められる。


「このあと愛北市行って次は短久手、最後は尾張夕日!!も~、甘いもん食わないとやってらんない!!モグ、モグ…あ、チョコなくなったからコンビニ寄っていい?!」

「私もスムージー買お…なんかのぼせてる気がする」


 いちいち疲れただの熱いだのしんどいだのやっぱ冬が一番いいだのなんでこんな仕事やってんだろだのもっと痩せときゃよかっただの食べるもんが無いだのジュースが無くなっただのぼやきながら作業をしておりますとですね?

 肝心なビスがどこかに行ったりふたを閉める順番を間違えたり、適当な所にしまっちゃったり、うっかり花壇の花を踏みつぶしたりする可能性がですね?!


 気持ちの切り替えというのは、非常に…大事!!

 なので、いつもにも増して散財がですね。

 ちょこちょこ食いの機会が増えて、真夏のカロリー消費が激しいこの時期に身を肥やすという謎現象がですね。


「みてみて、コレ新発売だって! 真夏でも溶けにくいひとくちチョコ! あとさあ、お買い得品コーナーにこんなの売ってた、これバレンタインの売れ残りかな? 割りチョコ!! かじるの大変そうだから、ちょっと柔らかくなってから食べよっと!!」

「チョコばっか食べてるけどさあ、鼻血とか出ないの…?」


 つまみ食いをフルに活用し、テンションを上げて仕事に邁進し。


「リモコンの電池切れで出張費はもらえないよね〜、ああ、移動損…」

「まあ…ゼリーの詰め合わせもらったんだから良しとしとこう、これ絶対高いやつだし!! 次行こ、次つぎ!」


 ギラギラと揺らめく長い道路を眺めながら、おやつ片手に西へ東へ。

 少々のアクシデントや予想外の展開は仕方ないとサクッと受け入れ、パパッと対応して、到着を心待ちにしているお客さんの元に向かい。


「よーし!次で最後だ!!熱いけど溶接がんばろ!!」

「日が沈んできたからね、暑さは穏やかになってきたよ!帰りに美味いもんでも食って帰ろ!!」


 日がどっぷり沈んだころに、ようやく本日の作業が…すべて終了し!


「ふひー!やっと終わった、あーとりあえずちょーおなか空いた、なんか食べるもん残ってない?!」

「えー、全部食べたんじゃなかったっけ…あ、袋の中に何か残ってる…って!!ちょ…なに、これ!」


 二件目が終わったあとでコンビニに寄って買ったお徳用割りチョコが…でろんでろんにとけとるがな!!!

 何この重量感、なまぬるい温度!!


「チョコレートとして絶対にありえない状態になってるんだけど!!めっちゃ揺れてる、タプタプ!!めっちゃ面白い!!フフ、アハハ……!!!」


 ダッシュボードの上で人知れず煮えくり返っていたチョコレートが、こうもくたびれた作業車の中に笑いをもたらそうとは。


「これさあ、チョコバナナにしたら絶対に美味いやつじゃない? スーパーあったらバナナ買ってこ!!」

「いいねえ!!食いながら帰ろう!!」


 とろんとろんのチョコをバナナにつけつけ、旦那につられてモグモグモグモグやりながら…帰宅した私はですね。



「…食べないの?」



「うん…もうちょっと、あとで……」


「うわー!!腹いっぱいなのにスゴイ美味い!!いいの?お母さん早く食べないとなくなっちゃうかも!!!ごはんおかわり―!!!」

「ちょ!!お父さんそれあたしの分!!!」



 息子が作っておいてくれた、めちゃめちゃ美味そうなスペアリブをですね。


 一口しか、食べられずにですね。



「せめて…煮卵だけは、残しといて…?」



 悔しい思いをしたっていう、お話なんですけどね……。




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