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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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7/5 ☆靄

 初夏。

 旦那と娘と息子、一家総出で日帰りバスツアーに参加した。


 行先はとある高原である。

 冬はスキー場として賑わうこの場所、夏は花畑やミニプール、出張動物園などを開催しており、人気を呼んでいる模様。


 高原中腹までは、定員20人ほどのゴンドラに乗って移動するようだ。

 娘がトイレに行ってる隙にバスツアーの参加者たちはほぼほぼ上に行ってしまったので、やけに空いている。うちの家族を合わせても、10人に足りない。


「わあ!!すごい!!」

「おお!!すげえ!!なにこれ!!」


 若いカップルが声をあげたので、そちらに視線を向けると。

 山肌の、あちらこちらに…靄がかかっている。

 雲があちらこちらに落ちているようにも見える。


 娘と旦那は大喜びで、はしゃぎながら風景を楽しんでいる。


「もうついた?」


 息子は高いところが怖いようで、私のおなか辺りに顔をうずめている。


「もうちょっとだね、頑張れる?」

「がんばれる・・・」


 一生懸命恐怖に堪えている姿が、気の毒だ…。

 今後は高い場所に出かけるのを控えるよう心がけねばなるまい。


 中腹の駅でゴンドラを降りると、目の前には幻想的な風景が広がっていた。


 広い草原の上をうすい靄がふわりと漂い、時折舞い上がっている。

 出張動物園の大きな馬が、靄で見え隠れしている。

 大きなバルーンの滑り台が、靄の中ぶるぶると震えている。

 靄の薄くなったところから、色とりどりの花が顔を出している。


 ……なんだここは。

 もしかして天国なんじゃないのか。


「あ!!あっちで手作りソーセージ売ってる!!食べたい!!」

「ふわふわかき氷だって!!お父さんはイチゴにしよ!!」


 娘と旦那は風景よりもまず胃袋を満たしたい様子だ。

 …相変わらずだよ!!!


「あれ、やってみたい」


 息子がふわふわ揺れるバルーンの滑り台をやりたいというので、食欲魔人どもを置いてそちらに向かう。


 もくもくと靄がかかっているけれど、遊んでる子はいるようだ。

 近づいていくと、なんだかやけに…、じめじめしてきた。


 滑り台につく頃には、全身がしっとりと水分を含み過ぎている。

 靄の正体が水蒸気の塊であると、身をもって経験する。


 息子は滑り台を大喜びで楽しんでいる。

 湿気が多いので、ビニールの表面がつるつるになってスピードが増しているらしい。

 まあ、喜んでもらえて何よりだ。


 ひとしきり遊んだ後、馬さんにニンジンをあげてたら娘と旦那がやってきた。


 その姿は…全身びしょぬれ!!

 何やってんだ!!!


「雲で遊んでたらこんなんなっちゃった!!」

「ねーねー、売店でTシャツ売ってるから記念に買っていい??」


「はあ?!着替え持ってきてないのかい!!」


「持ってきたけどリュックの中までびちゃびちゃでさあ!!」

「あたしピンクのやつがいい!」


 返事も聞かずに売店に行ってしまった。

 なんというゴーイングマイウェイな親子なんだ!!!


「もう、じきに靄も晴れると思いますけどね。風も吹き始めたし、日当たりの良いところにいたらすぐ乾きますよ」


 呆れていたら、馬の飼育係?のスタッフさんがニコニコして教えてくれた。

 そうなんだ、一応替えは持ってるから着替えてもよかったんだけど。


 気のすむまでウサギと戯れ、花畑で写真撮影をする頃には、ばっちり晴上がって気持ちのいい風が吹くようになった。


 山の中腹から見る広大な風景が素晴らしい。

 見晴らし台に行って、世界の広さを楽しむ…。


 けど息子は机に座って建物の壁の漫画キャラクターを観察してるな…うん、まあ、仕方ない。


「あ!!いたいた!!もうじき集合時間だよ!!」


 やけに朗らかな声が聞こえたので、そちらに目を向けると…げえ!!


 めっちゃ派手なTシャツを着た旦那!!

 蛍光黄色に背中一面広がる高原名のロゴ!!

 しかもカタカナ!!

 娘は…ピンクの、まあ、かわいい感じのキャラものか…。


「ちょっと!!ものすごいの買ってるけど、どうしてこれを選んだ!!!」

「だって3Lこれしかなかったもん」


「だから痩せておけとあれほどっ!!!」


 帰りのゴンドラは、靄が晴れたこともあり行きとは全く違う風景を見せてくれた。

 色とりどりの花が咲き乱れ、絨毯のように広がっている。

 写真を撮りたいと思ったけれど…、息子が私のおなかを離さないので、目に焼き付けるにとどめておく。


 バスツアー中、旦那のド派手なTシャツは大変に役立った。


 昼食、ワイナリー見学、リンゴつめ放題、キノコ狩り。

 どこにいても目立つので、ツアー客全員が目印にした。



 ツアー帰りに参加者の方々から飴を渡され、お礼を言われた事を思い出す。




 あの時のTシャツが今頃、タンスの奥から出てきたもんだからさ!!!



 旦那はずいぶん膨れ上がってしまって、今では5Lでなければ着ることができない。

 娘もずいぶん膨れ上がってしまって、3Lではゆったりと着こなすことが難しい。

 息子はLサイズを着ているから着れないことはないけど、見せたら渋い顔をしていた。


 私がこの年で…かわいいピンクのTシャツを着る?


 うおお!!

 勘弁してええええ!!!


 …。


 よし、見なかったことにしよう。


 私はそう決め、発掘したTシャツを再びタンスの奥にしまい込み。


 お気に入りのキャラクターTシャツを引っ張り出すのだった。

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