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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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5/19 ☆憂い

「ああ、いやだいやだ、明日の役員会の司会が嫌で嫌で仕方がない…」


 旦那が二、三日前からずっと、くよくよしている。


「引き受けなけりゃよかったのに」

「誰もいないからって言われたんだってば!!」


「誰もいなけりゃ役員会やらなきゃいいじゃん…」

「そんなわけにいくかい!!」


 引き受けたならば、腹をくくるってのが…男ってもんじゃないのか。


「ぶちぶち言うくらいなら引き受けなきゃいいのに!」

「あああ!!ミスったらどうしよう!!心配で心配で…」


 その割にはバクバク飯を食らっている。


「ミスってあいつに任せたらダメになるってみんなに知らしめてくればいいじゃん!」

「そんなわけにいくかい!!!」


 大皿の上の青椒肉絲が勢いよく減っていく。

 ピーマンだけよけているのはさすがだ。


「ああ、食欲がわかない、もうごちそうさまするわ。寝る…」


 ご飯三杯食ってんだから、食欲がないもくそも。


 私は肉のない青椒肉絲をモリモリ食べながら、憂いに満ちた旦那を見送った。




 翌朝。


 ダブルのスーツに身を包み、太ってはいるがげっそりした表情で…旦那が支度をしている。


「ねえねえ!!俺がなんかやらかしたらさあ、おかしな奇声あげてくんない?!」

「はあ?」


「そしたらそっちに目がいってごまかせるじゃん!!」

「あほなこと言ってないで、早く出る準備したら!」


 自己中心的な人は、トーストをバクバク食べながら…トンデモ理論をかましてくる。


「はああ…うまくいくかな…堅物が多いからさぁ、変なこと言って説教食らったらどうしよう」

「参加者全員の前で堂々と説教食らってきなよ…」


「そんなわけにいくかい!!!!」


 コーヒーを取りに行って戻ったら…食べかけのトーストが食われてる!!

 私の朝ごはん!


「はあ、食欲ないけど行ってくるわ…」

「私も後で…トースト食べたら見に行くから」




 今日の役員会は、町内会の新規役員を決めるための集会だ。


 誰もが役員など引き受けたくないと思っている中で司会をこなし、推薦し、決定を下さねばならないという大役を…旦那は任されている。そりゃ誰もがやりたくないわ、こんなん。



 会場に行くと、町内会の皆さんがわんさか着席していた。

 あ、三軒隣の小島さんがいる。


「こんにちは」

「旦那さん司会なんでしょう、お疲れさまだねえ。ホント助かります、めちゃめちゃ働いてらっしゃる…」


 町内で、旦那のでかさとイイ人っぷりは…かなり有名だ。

 なんていうかこう、人懐っこくて人見知りしなくて、恥知らずというか…、私と正反対なんだけどさ。


 いつも以上にでっかい体をちょこまか動かして、ああ、あれはめっちゃ緊張しているな。

 今にも書類全部をもってひっくり返りそうな感じだ。


 ……とはいえ。


「それでは、令和二年度の役員会を始めます。よろしくお願いします」


 マイクをもって話し始めてしまえば。


 スムーズに進行をし。

 手の上がらない着席側を見渡して推薦をし。

 推薦者の良いところを余すことなく伝え。

 サポートすることを約束し。


 前年、決まるまで三時間かかった役員会を…30分で終わらせてしまったではありませんか。


 そりゃそうだ。


 町内いたるところに知り合いがいて、いたるところで声がかかる。

 頼まれごとは二つ返事で引き受けて、いつもにこにこしてる。


 そんな人に推薦されてお願いされたら…いいよと言わざるを得ないではあるまいか。

 しかも困ったらサポートを約束してくれているのだから、心配がないし。

 なんとなくデカい体が安心感をもたらしてくれるし。



「いやー無事終わったわ!!良かったよかった!!」

「お疲れ」


 旦那と並んで、近所の喫茶店へ行く。

 ここはランチバイキングのあるお店で…。


「いやあ!!心配事がなくなると飯がうまいわ!!!」


 あんなに憂い顔だった旦那は、つやつやしながら食べ放題のサラダをもっしゃもっしゃと食べている。


「心配したところで結局うまくいくもんなんだって!!」


 昨日あれだけくよくよしていたというのに、この自信に満ちた様子はどうだ!!!


「お願いしてみるもんだわ!みんないいよって言ってくれたし!」


 ……ああ。

 これは…。


「やっぱ人脈作りってのは重要なんだって!」


 心配性のくせに自信過剰で自分大好き人間の、長い長い自己語りが始まるぞ…。


「そもそも俺ってのはさあ…!!」


 私はげっそりして、このあとのやり取りを憂う。


 ……ああ、食欲がなくなってきた。


 目の前の旦那の前には、山もりのパスタと唐揚げ、コーヒーゼリーにシュウマイ、ええとそれからそれから…。

 私の目の前にはコーンスープとサラダしかないというのに。


 私はバイキング終了時間まで続くであろう自慢話を聞かなければならない状況に、そっと深いため息をついたのだった。

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