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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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8/19 ☆たまごが割りたい

「さてさて、本日のメニューはと…。」


 夕方五時半…、私はいつものようにキッチンに向かい、晩御飯の支度にとりかかる。

 なんだかんだで料理が嫌いではない私はですね、如何に手際よく、如何にボリューム満点で、如何に洗い物を少なく作り上げるか…、そのあたりに力を入れておりましてですね。あれだ、野菜から切って肉は最後に切るとかさ、極力洗い物が少なくて済むように油もんは最後に回すとか、そういう小さなとこね。


 今日のメニューはチーズオムレツにマカロニサラダ、チキンとトマトのマスタード炒めにコーンスープ…。野菜を切りつつお湯を沸かし、マカロニをゆでつつチキンの下ごしらえをし、茹ったマカロニを冷ましつつコーンスープを作って、具材を炒め始めたところでドタバタと騒がしい足音が聞こえてきたぞ!!


「ねえねえただいま!!今ね、すごく面白かった!!雨がさ、降ってんだけど、降ってなかったの!!すごくない?!」


 娘がずいぶん興奮した様子でキッチンにやってきた。


「ハイ、お帰りなさい。君、荷物ぐらい置いたらどうだね。つか、ただいまぐらい言いたまえ!!」

「ただいま!!ねえねえ聞いてよ!!なんかちょうど雨の境目だったみたいでさ!!ちょっと先は雨がすごく降ってるのに、あたしの歩いてるところは雨が降ってなかったんだって!!」


 よほど印象深かったらしい。

 いつになく、落ち着かない感じで…はしゃいでいらっしゃるぞ。


「まあ、そういう事もあるんじゃない、珍しい…いいもん見れてよかったね。」


 派手に降り散らかしていた雨は上がって、今はきれいな太陽が出ている。

 うちのキッチンはちょうど太陽の光が差し込む位置にすりガラスの窓があるので、外の明るさとかよくわかるんだよね。ついさっきまで夜かと思わんばかりのどんよりした暗さは消え、眩しい光がキッチン内を照らし…なんか床が汚れてるなあ、あとで拭き掃除しとこ。


 ……あ、もしかして虹が出てるんじゃない?

 ひょっとしたらもっといいものが見られるかも!!


「ちょ!!見て!!外!!」


 キッチンの奥の窓を開けると、奇麗な虹がかかっているのが見えた。調理の手を止め、リビングの出窓まで行き、空を見上げることにする……。

 いやあ、これはいい虹だ。くっきりはっきり、しかもオレンジ色の太陽光が幻想的な雰囲気を醸し出し…。私は夕焼けも虹も大好きなのさ。ああー、いいもん見れた、明日はいい日になるな、うん。


 ひとしきり写真を撮り、気が済んだところでキッチンに戻って晩ご飯作りの続きにとりかかる。

 ……どうしよう、もう少しおかず増やそうかな。明日の朝食べるご飯を少し残しておきたいんだよね。明日は早く家を出ないといけないから、できれば時間を短縮できるよう努めておきたい。量がちょうどいいとすべて食べ尽くされてしまうし、量が多すぎると変に対抗心が出て過食で対応されてしまうので、余り過ぎない程度に作るのが一番得策だと……。頭を悩ませながら、いい塩梅の量を模索、模索……。


「外、すごい虹が出てる。」

「あれ、お帰り。いつもより遅いのは虹を見てたから?というか、君ね、ただいまぐらい言いましょう。」


 息子がやや興奮した様子で、だがしかし言葉少なに、キッチンへやってきた。

 …どうもこう、うちの子達は気になることがあるとそっちに意識が行っちゃってやるべきことや言うべきことをそっちのけにするガサツさがあるな。いったいだれに似たんだ…、うん、旦那だな!!!


「ただいま……、卵割ってもいい?」


 息子はランドセルを置いてきて、手を洗いはじめた。

 愛用のエプロンをつけて…準備万端といったところだ。


 彼は今、卵を割ることにハマっておりましてですね。

 卵料理が作りたくて作りたくて…仕方がないのですよ。


「いいよ~、じゃあ、そこの卵全部割って混ぜといて。」

「はい。」


 スープも作ったしチキンとトマトも作った、マカロニサラダも作って、あとはオムレツを作るだけ。チーズ入りだからさあ、食べる直前に作ろうと思ってたんだよね。

 ……よし、今日は息子に全部作らせて差し上げよう。最近ずいぶん料理の腕が上がっててさあ、半熟加減とかなかなかの出来で…。


「あ、殻が。混ざった…。」

「いいよいいよ、カルシウムカルシウム!」


 たまに失敗もするけど、まあ、マアマア、まあ。

 毒物や劇物になるわけでもあるまい、小さなことは気にせず…広い心をもってですね。


 まもなく出来上がるであろうオムレツを予測し、食卓におかずを並べ始め。


「ただいまー!なんかすごい雨だったね!!!」


 旦那が帰ってきて、手も洗わずに食卓の鶏肉をつまんで口に入れる。


「ちょっと!!!手を洗え!!服を脱げ!!できれば風呂に入って来い!!!」


 相変わらずの行儀の悪さにあきれつつ、檄を飛ばす。


「ええー、もうご飯できてるじゃん、あとであとで。」


 作業着を脱ぎ捨て手を洗って椅子に座った旦那は、かっぱかっぱとマイどんぶりにご飯を盛っている。はいはい、どうせね、このあと腹いっぱいになって眠くなってソファで寝ることになって、真夜中に起きて風呂に入ることになるんだよ。わかってますよ、ええ、よーくわかっておりますとも!!!


「ご飯できた?わーい、いただきまーす!!!」


 娘までもがマイどんぶりにご飯を盛り始めたよ…。食欲旺健康丸出しで良い事だよ、全く!!!


「オムレツできた。」


 エプロンを脱いで食卓に着くと、息子が作ったチーズオムレツを持って、いそいそとこちらにやってきた。

 見た目にも気を使う息子は、なんと自分のお小遣いで乾燥パセリを購入していたりする。……すげえな、きっちり見せるオムレツに仕上げてきているぞ。この完成度、努力する姿勢…、うん、私に似たんだな、さすがだ……。


「うまうま!!飯が進むー!」

「オムレツにケチャップかけていい?!」

「うまくできた。」


 取り分け皿にチーズオムレツをひとすくい取ると…チーズがびよんと伸びた。

 半熟具合がすばらしいな!!これは絶対に、美味いや~つだ!!!


「うん…、やわらかくてすごくおいしいよ!!」

「うふん、そう?」


 息子の作ったチーズオムレツは、瞬く間にとろりと口の中でほどけて、まったりとしたチーズが芳醇な香りをまき散らしながらのどの奥へと…


 がりっ!!!


 ない歯触りと蕩ける舌触りを堪能している私の口の中で、ずいぶん無粋な音が!!!


 ……うぐぐ、これは…さっきの卵の殻だな?!

 相変わらず運がいいなあ、私ってね。…そう思っておけば、何てこと無いのさ、ははは。


 カルシウムを摂取したおかげなのか…、私はいつもよりも幾分、おだやかに食事をすることができましてね。


 …いつの間にかなくなっていた鶏肉にも、自分がズッキーニばかり食べている事実にも、ご飯をよそおうとしたら小鉢一杯分しか残ってなかった事実にも、デザートのゼリーが一口も食べられなかった事実にも、怒りの声を上げることはなくてですね。…若干、しょっぱいものが混み上がてくるわけですけれども。


 ……腹八分目って言うでしょう、これでいいのですよ。

 ……ご飯は炊き立てが一番おいしいもんね、明日食べる分は、明日の朝に炊いた方がいいのですよ。


 そう思えば…、万事丸く収まるんですよ、ええ。


 そんなふうに、己のささくれだった気持ちをなだめながらですね。


 私は洗い物をするために、キッチンに向かったというお話ですよ……。

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