5/11 ☆宝石があらわれた!
息子がはじめて、髪の毛を切りに行く事になった。
いつもはおうちでちょきちょきやさんをやってたんだけど…、保育園に通うことになったので、初めての理容室にチャレンジすることにしたのだ。
「はーい、こっちに座ってくださいねぇー」
理容いすの上に子供用の底上げパーツを置かれ、そこに息子が座ることになった。
白いケープが、ふわっとかけられる。……ずいぶん緊張しているようだ。鏡に映る自分を見つめて固まっている。
はさみの音が、ちょっと怖いらしい。耳元をちょきちょきするたび、息子の顔が、不安そうなものになる。
「こわくない?がまんできる?休憩しようか…」
「がんばれる・・・。」
不安そうではあるが、男気のある返事をした息子に、三歳児の根性を見た。
恐る恐る散髪を見守っていたが、泣く事もなく、無事かっこよく仕上げてもらえた。
ケープが取り払われ、イスから下ろしてもらった息子の表情は晴れやかで……、あれ?なにやら、得も言われぬ表情をしているような。
……?
息子が左手に、何か……、持っている?
少々気になりつつも、散髪料金を支払って、ペロペロキャンディをもらって理容店をでた。
「えらかったねぇ!泣かなかったし、おとなしくできた!すごい!」
めちゃめちゃほめると、息子は誇らしげな顔で私に報告をしてきた。
「ほうせきがでてきたから」
「宝石?なにそれ」
そういえば、息子は左手に、何か持っていたな。
「こわいなって、てをひらいたり、とじたりしてたら、てのなかに、ほうせきがでてきた。」
「……でてきた?」
「てのひらのなかに、ほうせきがあったから、ずっとそれをさわってたら、こわくなかった。」
なんだそれ。
……なんかボタンでも取れたのかな?
「今も持ってるの?」
「うん」
息子が、ゆっくり、左手を広げると。
「……っ?!うっ!!」
息子が誇らしげに見せたのは、カメムシだった。
小さな、小さな、5ミリほどの丸いカメムシが、散髪中のケープの下の息子の手の平に入り込んだらしい。
息子の不安をかき消すために、ずーーーっとにぎにぎ、にぎにぎ、されていたらしい。
にぎにぎ、にぎにぎされたカメムシは、全力で己の力を解き放ったらしい。
「ほうせきじゃ、ないの?」
宝石では……ない!
虫だ!
しかも飛び切りくさいやつ!
ぐ、ぐぉおおお……、むちゃくちゃクサイ、クサすぎる!!
しかしここで私が悲鳴をあげたら、あげたらああああ!!
息子はムシ嫌いに、散髪嫌いに、なってしまう可能性!!
ぐっと悲鳴を飲み込んで、極力空気を吸わぬようにして、精いっぱい穏やかな返事をして差し上げる。
「……これは、宝石のふりをした虫なので、庭に逃がしてあげようね。」
「わかった。」
息子の左手に握られていたカメムシは、庭に放たれた。
帰宅そうそう、息子の左手を石鹸でもっしゃもっしゃ、もっしゃもっしゃ、もっしゃもっしゃ洗ったけれど。
カメムシのフルパワーフレグランスは、なかなか落ちてくれず……、半泣きになった、というお話。




