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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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5/11 ☆宝石があらわれた!

 息子がはじめて、髪の毛を切りに行く事になった。


 いつもはおうちでちょきちょきやさんをやってたんだけど…、保育園に通うことになったので、初めての理容室にチャレンジすることにしたのだ。


「はーい、こっちに座ってくださいねぇー」


 理容いすの上に子供用の底上げパーツを置かれ、そこに息子が座ることになった。


 白いケープが、ふわっとかけられる。……ずいぶん緊張しているようだ。鏡に映る自分を見つめて固まっている。


 はさみの音が、ちょっと怖いらしい。耳元をちょきちょきするたび、息子の顔が、不安そうなものになる。


「こわくない?がまんできる?休憩しようか…」

「がんばれる・・・。」


 不安そうではあるが、男気のある返事をした息子に、三歳児の根性を見た。


 恐る恐る散髪を見守っていたが、泣く事もなく、無事かっこよく仕上げてもらえた。


 ケープが取り払われ、イスから下ろしてもらった息子の表情は晴れやかで……、あれ?なにやら、得も言われぬ表情をしているような。


 ……?


 息子が左手に、何か……、持っている?


 少々気になりつつも、散髪料金を支払って、ペロペロキャンディをもらって理容店をでた。


「えらかったねぇ!泣かなかったし、おとなしくできた!すごい!」


 めちゃめちゃほめると、息子は誇らしげな顔で私に報告をしてきた。


「ほうせきがでてきたから」

「宝石?なにそれ」


 そういえば、息子は左手に、何か持っていたな。


「こわいなって、てをひらいたり、とじたりしてたら、てのなかに、ほうせきがでてきた。」


「……でてきた?」


「てのひらのなかに、ほうせきがあったから、ずっとそれをさわってたら、こわくなかった。」


 なんだそれ。

 ……なんかボタンでも取れたのかな?


「今も持ってるの?」

「うん」


 息子が、ゆっくり、左手を広げると。


「……っ?!うっ!!」


 息子が誇らしげに見せたのは、カメムシだった。


 小さな、小さな、5ミリほどの丸いカメムシが、散髪中のケープの下の息子の手の平に入り込んだらしい。


 息子の不安をかき消すために、ずーーーっとにぎにぎ、にぎにぎ、されていたらしい。


 にぎにぎ、にぎにぎされたカメムシは、全力で己の力を解き放ったらしい。


「ほうせきじゃ、ないの?」


 宝石では……ない!


 虫だ!

 しかも飛び切りくさいやつ!


 ぐ、ぐぉおおお……、むちゃくちゃクサイ、クサすぎる!!


 しかしここで私が悲鳴をあげたら、あげたらああああ!!

 息子はムシ嫌いに、散髪嫌いに、なってしまう可能性!!


 ぐっと悲鳴を飲み込んで、極力空気を吸わぬようにして、精いっぱい穏やかな返事をして差し上げる。


「……これは、宝石のふりをした虫なので、庭に逃がしてあげようね。」

「わかった。」


 息子の左手に握られていたカメムシは、庭に放たれた。


 帰宅そうそう、息子の左手を石鹸でもっしゃもっしゃ、もっしゃもっしゃ、もっしゃもっしゃ洗ったけれど。


 カメムシのフルパワーフレグランスは、なかなか落ちてくれず……、半泣きになった、というお話。


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― 新着の感想 ―
[良い点] あらあらあらあら (;^ω^) いやはや、かーちゃん、よく我慢しました! エライ!! (´∀`) [一言] コレもある種の「等価交換」なんでせうか?(笑)
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