4/6 靴、発掘される
……おや、こんな所に、まっさらな靴が。
玄関の大掃除をしていたら、靴箱の奥からタグ付きのスニーカーが出てきた。
真っ白の、紐タイプ…、サイズは26.5。
これは旦那が買ったやつだな。
たぶんミニテニス用に買ったやつに違いないぞ。
あの人はホント安いのがあったと言っては気軽に買ってきてさあ。
いつか使うからとしまい込んで、穴が開いた靴をずっと使い続けるようなタイプでさあ。
でもって、出先でいきなり壊れて、急遽安いクツを買って、それをずっと履き続けるような感じでさあ。
出番のないまま靴箱の中で眠り続けている靴が、めちゃめちゃある。
もったいないことするなあ、とっとと履いてあげればいいのに。
家族四人が共有する靴箱の中には、靴がみっちりと詰まっている。
私のフォーマルシューズが一つにジョギングシューズが一つ、娘のフォーマルローファーが一つにスニーカーが一つ、息子の長靴が一つ。そして旦那の靴が…山ほど!!!なんであの人はこうも一人で空間を占有したがるんだ!!ただでさえデカい体で空間をいっぱい占有しているというのに!!!
うちは普段はいている靴を玄関に出しっぱなしにする、ガサツなタイプの家庭だ。
私の軽量ジョギングスニーカー、息子の学校用のスニーカー、娘のオシャンなスニーカー、旦那の作業靴に運動用の変な靴に会議に出る時のでかい靴に汚いブーツによれたクロックスに紐のほどけた靴、さらに旦那が仕事で使ったバケツにもらい物のドリンクのケース、町内会の集まりで使うというブルーシートに交通安全の旗一式、公園の草刈用のバリカンによくわからないコードなどが玄関いっぱいに並んでいる。
履かない靴は片付けろと言っているのに、これは履いているだの明日履くだのいちいちしまう時間が惜しいだの人の高い靴を踏むなだの言い訳と文句ばかり言って、全く人の話を聞かない人が約一名おりましてですね。使わない備品はすぐに返して来いと言っているのに、今度渡す、いずれ渡す、そのうち返す、もう返さなくていいじゃんとか丸め込もうとする不届きものがおりましてですね。
堪忍袋の緒が切れたので、玄関の大掃除をしてやることにいたしましてですね!!!
いつ履くのかわからんような靴に、貴重な我が家の靴箱を占領され続けてはかなわんのですよ。新品の靴がたくさんあるなら、ヘタレた靴には退場願いたいわけですよ。使うのか使わないのか、はっきりさせておきたいわけですよ。というか、靴を踏んで家に上がる悪習慣を何としてでも断っておきたいわけですよ。すぐにものをため込む癖をのさばらせておくのはマズいわけですよ。排除していかないと、目に物を見せていかないと、調子に乗られてエライことになってしまうわけですよ!!!
幸い、旦那はシューズコレクターではないので…貴重な靴など一足も持ってはいない。
どこそこの閉店セールで買ってきた3800円の靴や980円の安い靴ばかりなので、ザブザブ捨てても問題はなかろう。
ねじ込まれている靴群を引っこ抜いて玄関の隅に放り出し、使えそうなものだけをシューズボックスに戻していく。底に穴が開いてるのや紐が切れているの、変形してるのなんかはゴミでいいな。
靴修復セットを買ってくるから置いといて、紐を替えればまだ履ける、お気に入りだから捨てたくない、この靴もう売ってないから同じのを見つけるまで取っておかないといけない……、捨てていいか聞いた時に旦那がごねたことを思い出しながら、容赦なくゴミ袋に突っ込んでいく。
45リットルのゴミ袋があっと言う間にいっぱいになり、二つ目のゴミ袋ももう間もなくいっぱいだ。
いったいどんだけ溜め込んでいたというのか、私が重い腰を上げなければどうなってしまっていたのか。ううむ…、数が多すぎて全部入らないんですけど。
「……ただいま?」
どの靴を残すか悩んでいたら、学期末テストが終わった息子が帰ってきたぞ。
「あ、お帰り。テストどうだった!!」
「…、普通だった…」
微妙に目が泳いでいるところを見ると、やや不満の残る出来だったに違いない。
まあ、今回の事を踏まえて、今後はもう少し頑張ってみたまえ。
「まあ、とりあえずお疲れ!!…あ、そうだ、この靴どお、履けるなら君使えば?」
先週雨が降った時、靴の底に穴が開いてるとか言っていたような気がする。
まだ履けるからいいとか言ってたけど、ここに新品の靴があるんだから…使えばいいじゃんね。
新品のクツのタグを切って、紐を緩め、足元に置いてみる。
少々くたびれた靴を脱いで、新しい靴に足を入れる息子…。
「ちょうどいい!」
思えば息子も…ずいぶん大きくなったものだ。
16センチの靴がぶかぶかだったのに、今はあの超重量級の旦那と同じサイズの靴をはいているのだ。
……そのうち体も同じように膨れるのだろうか。
いや、それだけはなんとしても阻止せねばなるまい。
「ユウとカイトと遊んできてもいい?」
「はい、イイですよ!!あ、このマシマロをおやつに持って行く?あとお母さんによろしくね」
「はい」
息子は発掘された新しい靴をはいて、私の食べかけのおやつを持って、遊びに行ったのだが。
ゴミ袋を三つガレージに移動して、スッキリした玄関の掃き掃除をしていると…あれ?なんか、足音が。
「……靴、壊れたよ?」
「…はあ?!」
玄関の階段下で、足の裏を持って立っている息子が!!!
「ちょ…なに、靴底って、こんなにきれいに取れるの?!」
聞けば、友達と合流して公園に向かっている最中から足元がパタパタしてきて、あっという間に靴の底がはがれて、すごすごと家に戻ってきたらしい……。
「もう一回行ってくる!!」
靴を履き替え、元気に駆けだしていった息子を見送り。
両手にレジ袋を提げて帰ってきた旦那に説教をし。
せっかくしばったゴミ袋の口を開けられてひと悶着あって。
二袋分のゴミを出せて、ほっと一安心し。
「この靴、ダメになってる!!聞いてよ、試合中にさあ、靴の底が取れちゃって!!!」
「わあーん!!普通に歩いてるだけで紐が切れたー!!!」
「見てよこれ!!なんかそこがボロボロと崩れてくるの!!!」
旦那が、大事に大事にとっておいた靴は、ずいぶん前に、とっくの昔に、使用期限が切れていてですね。
痛い目にあった旦那は、思い切りよく靴を処分しましてですね。
「履く靴が無くなっちゃった!!新しいクツ買いに行こ!!」
「あたしも新しいのほしいな!!いっしょに行く!!」
「買ってもいい?」
「まあ…買いに行くか……」
「あ~選び疲れてお腹空いた!!時間かかっちゃったから今日は外食しよ!!」
「あたしサイデリアがいい!!」
「いいねえ」
「まあ…久しぶりだし、イイか……」
「お父さんは~、ディアブロステーキにハンバーグ、ドリアと辛味チキン、生ハムにペンネ、ミートソースとボンゴレ、あ、トッピングチーズをトリプルで、デザートはあとでいっか!!お母さん今日のお会計よろちく!!靴買ったらお金なくなっちゃった!」
「あたしほうれん草のソテーをダブルで!!たらこパスタとアンチョビピザとムール貝とコーンバターとエビサラダにフォカッチャ!!」
「カルボナーラをダブル、チキンソテー、コーンスープ下さい」
「ちょ!!!アンタらどんだけ食う?!お金、お金が――――――!!!」
ずいぶん派手に財布の中がスッキリしてしまった人がですね。
どこかの町にいるという、お話ですよ……。




