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ヤラカシ家族の386日  作者: たかさば


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5/21 ☆髪の毛屋さん

 私は、ずいぶん長い間…思うように髪の毛いじりができずに、うっぷんのようなものが溜まっていた。

 幼いころはいわゆるお母さんの床屋さんが基本だったから、ずーっと不器用な母親の…ものすごい仕上がりを受け入れなければならなかったのである。


 高校生になって初めて髪を伸ばし…、ようやく髪の毛でオシャレを楽しめると思ったのだが。


 硬くて剛毛でパーマが三日で剥がれるくらいの直毛は、長く伸ばしたところでセットしても五分で真っ直ぐになってしまう。

 頭がでかくて髪が太いので、毛量もハンパなく…ポニーテールにすると髪の重みで生え際が引っ張られて炎症を起こす。

 カーラーで巻いてもすぐにまっすぐになってしまうので、癖をつけるためにハードタイプのスプレーを使うと、プラモデルのように固いウェーブが形成され…嵐の中でもなびかない不気味な髪型を披露する羽目になった。


 ……自分の髪の毛でおしゃれを楽しむことなど、到底できない。

 ヘアスタイルに気を使わなくなったのは、あきらめの境地だったのだ。


 そんな私だったが、結婚をして娘が生まれることになり…、ずいぶんテンションが上がったのである!!


 髪をカールしてリボンをあしらおう、小さな三つ編みを可愛らしくお団子にしよう、さらさらの髪に似合うカチューシャをたくさん手作りしていっぱい写真撮ろう…!


「やだ、この子…髪の毛が、ない!!!」


 生まれてきた娘は、やけに髪の毛の少ない子供だった。

 乳児の頃は頭皮が目立ち、二歳を過ぎてもなお、ショートカットさながらの髪型のままであった。

 寒そうな頭を気の毒に思い、帽子ばかり被せていた時代が長く続いた。


 とはいえ、三歳を過ぎたあたりから徐々に髪が伸び始め…、娘が保育園に入る頃にはずいぶん充実した頭になった。生まれてから一度も切っていない娘の髪の毛は、それはそれはつやつやと輝き、コシのあるぷりっぷりの活きの良い髪質も相まって非常に細工のし甲斐のある頭へと進化したのである!!


 俄然はりきったのは私だ。

 自由にできる髪の毛、ゲットだぜ!


「髪の毛屋さんのお時間ですよ!!」

「はーい!」


 毎朝テレビ番組を見ながら、髪の毛で遊ばせていただいた。


 みつあみ、ポニーテール、日本髪にドレッド、縦ロールに横ロール、お団子ヘアに編み込み!!!

 やってみたかった髪型を、とことんやらせてもらい!!!


 ……応しくない髪型は自重していたのだ、これでも。


「お母さん美容師さん…ではないですよね??」

「ええ、ただの趣味です。」


 毎日おかしな髪型で通園する娘の頭は、保育園の先生たちの間で苦笑を呼んだ。

 ……私は非常に、美的センスがなかったのである。


 おかしな位置にみつあみが伸び、変な位置で髪の毛が跳ね上がることもしばしばあった。

 保育園に行く日は、基本髪をきっちりと縛ることにしていた。カーラーで巻いてもお遊戯ですぐにぐちゃぐちゃになってしまうし、お団子は崩れると困るのだ。

 おしゃれな髪型はもっぱら土日しか仕上げることができず、魅せたい髪型はせいぜい写真に残すかお出かけ先で見知らぬ通行人に見せつけるしかない。


「ねえ見て!!すごい天使の輪!!サラサラ!!かわいい!!」

「めっちゃきれいな縦ロール!!」

「え、見て見て、あれあのアニメキャラの髪型じゃない?!」


 日曜に出かけて、すれ違う人たちからお褒めの言葉をいただくこともボチボチあった。

 その声を聞いてさらにテンションが上がり、大喜びでヘアアクセサリを作り、編み込み、似合う服をデザインし!!!……時間を見つけては研究を重ね、いろいろ製作し、髪を整え…、実に充実した大暴走時代を過ごしていたのだが。


「髪の毛、切りたい。」

「ええ!!なんで!!!」


 やりたい放題パラダイスは実に唐突に訪れた。

 娘の仲良しがショートカットにしたので、おそろいにしたいとおっしゃったのである…。


 少し前に、手作りのひらひらフリル付きの服を完全拒否した娘は…自分の意見を口にして、それが通る幸せを知ったのだった。…親のエゴを押し付けて、それがまかり通る時代は…過ぎてしまったのである。


 かくして、腰まであった髪を耳の下でそろえて切った娘の…晴れ晴れしい笑顔!!ねえ、ちょっと、長い髪、そんなに嫌だったん…?


 ずいぶんショートカットを気に入っていた娘であったが、中学に入って再び髪を伸ばし始めた。


 久々に伸ばして分かる、艶やかな髪質。


「ねえねえ!面白い髪型やらせてよ!!!」

「いいよ!!!」


 ……八年間の髪の毛いじりの禁欲が、私をあらぬ方向へと暴走させてしまったらしい。


 おっちょこちょいの国民的家族の主人公の髪型、ミニお団子だらけの愉快な頭、ハードスプレー使って♡型を作ったり、細かいカールやりすぎて教授が爆発した後みたいになっちゃったり…。


 ……大喜びでおかしな髪型をやったのがいけなかったのだ。


「もう…絶対やらん!!!」

「そんな殺生な!!!」


 かくして、腰まで伸びた髪の毛を前に、私は涙を流す事しかできなくなってですね。


 遊べない艶やかな髪が目の前で揺れるたびに、こっそり手を伸ばしてみつあみを編み、そのたびに怒られるという不毛な年月がしばし続いたある日、娘が美容院に行くと言って家を出たのだなあ。


「ヘアドネーションしてキター!」


 久々に見るおかっぱ頭の娘―!!!


 娘はその艶やかな髪を、寄付したのだ……。

 全長75センチの艶やかでぷりっぷりの髪は、ロング丈のかつらに生まれ変わるんだそうで。


「またのばそーっと!!」


 三年間伸ばしたら、またヘアドネーションするらしい。髪の伸びる速さに定評のある娘ならおそらく…その野望は達成することができるはずだ。


「ね、今度また、伸びたら……丁髷ちょんまげ結わせて…ね?」

「あはは!!!ぜったいやだ!!!」


 髪の毛屋さんは、もう、オープンすることができないのかなあ…。

 ああ、あの夢のような時間を、どうにかして再び手に入れたい…。


 ……いっそ自分の髪を伸ばすか?


 いや、それは悪手だ。

 年老いてもなお針金のように突き刺さる、この太い白髪はどうだ!!

 そもそも腕を上げ続けることがきつくなってきたんだ、老いた身で自らの髪を結いあげる体力が…ない!!!


 もう、あの頃の、充実した日々は……二度と、私のもとには、もたらされないのだ…。


 幼児の、児童の、女子の、艶やかな髪の毛……。

 自由にあそばせてくれる、心の広い、誰か……。


 ……孫が生まれれば、再オープンも可能なんだけど。

 ……あかん、孫の生まれる気配は、今のところ微塵もない。


 もうさ、頭のマネキン買おうかしらん…。


 思い立ったが吉日ってね、さっそくネットで検索などしてみると。

 ……なになに、ヘアスタイルマネキンひとつ3000円ふむふむ。


 そうだな、マネキンなら怒らないしおかしな髪型に仕上がっても問題ないよね。よーし、手、出してみるか!


 とりあえずポチる前に、いろいろ最新の髪型をチェックしとこ!


 私は、今日もお気に入りのヘアアレンジ動画チャンネルを巡回し!!!

 髪型研究に勤しむので、あった!!

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