傷に沁みる雪夜
秋が深まるように いろはと修一の仲は『友人』として深まった。
それは修一が無理やりそう結論付けていたのかもしれない。
青葉書店での素に近い「いろは」。
『JAZZ喫茶グリーン』でのJazzギターを奏でるちょっぴり崇高な「いろは」。
そしてLIVEの派手派手でCoolな「いろは」。
修一の生活は『いろは色』に染まっていた。
そして冬の12月。
いろは はクリスマス、年末LIVEに備えてバイト日数を減らした。
当然、修一も彼女が安心して店を休めるように協力する。
12月10日、 いろは は『修一君、25日のX‘masLIVE最高のステージにするから絶対に来てね』とチケットを渡すと、その日を境に店に来なくなってしまった。
今まで無断で休むことはなかった。
修一は電話をしようか悩む。
親には 『風邪をこじらせてしまったらしい』と嘘をつき、彼女の印象を損ねることのないようにした。
そしてそのまま25日を迎えることとなった。
『アイスボンブ』がトリをとるLIVEパーティだ。
修一は何となく いろは に会うのが怖かった。
LIVE会場の外で『アイスボンブ』の曲が始まるのを聞くと、こっそりと忍び込むように入っていく。
ドアを開けると耳だけでなく身体に感じる音の風圧。
前を占める熱烈なファンたち。
身体をうねらせたくなるような間奏部分のギターパート!
修一は気が付いた。
この音は いろは のギターじゃない。
客が少ない壁際から隙間をぬってステージがよく見える場所まで進む。
金髪のスタイルの良い女の子が いろは の場所でギターをかき鳴らしている。
いったい何があったのか。
修一は顔見知りのファンを見つけると声をかけた。
「なに? ああ、いろはちゃん? 一身上の都合で辞めたんだってさ。それで新しいギターリストMARIが加入したらしいよ。」
(嘘だ! )
修一は納得できなかった。
そんなはずはない!
いろは は修一に『最高のステージにするから絶対に来てね』と笑顔で言ったのだから。
全ての演奏が終わるのを待って修一は楽屋に入る。
「一輝さん、いろはちゃんは何故いないんですか? 」
「ああ、君は ..青井くん..だっけ。あいつ、音楽性が合わないって辞めたんだよ。」
「嘘つくのやめてもらえませんか? いろは はそんな子じゃない。俺に『最高のステージにする』って約束したんです」
「知らねぇよ。気が変ったんじゃねーの? 」
「いま、いろは はどうしてるんですか? 」
「知らねーって言ってるだろ。あんな下手ブス知らねーよ! 」
「いろは は下手なんかじゃない。あんたらの誰よりも上手い! ブスなんかじゃない! ふざけんな!! 」
そういった瞬間、修一は2,3発殴られた。
喧嘩をしたことない修一は手も足も出なかったが、言いたい事は言ってやったと思った。
雪が降るような寒さの中、殴られて腫れた唇がジンジンする。
だけど、そんな事より今、いろは がどうしているのかが気になっていた。