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私、お礼がしたいの。

いろは は修一の思惑通り.... いや、無事に青葉書店のアルバイトに採用されることになった。


普通に考えればカーリーヘアーのグラムロックファッションの女の子を採用するなんて青葉書店では考えられないことだ。


しかし、それも修一が友達として、自宅へお茶に招いたおかげだろう。

策が功を奏したのだ。


初めこそ、戦々恐々としていた父と母だったが、いろは の見た目とは違う礼儀正しさと、お茶とお饅頭を食べる時に遺憾なく発揮された素の可愛らしさに、すっかり(ほだ)されたのだ。


それは修一にしても同じだった。

何せ彼女と会話はその日が初めてだったからだ。

彼女はLIVE後の打ち上げにも出席することがなかった為、それまで話しかける機会すらなかった。


しかし彼女に、『なぜ打ち上げに参加しないの? 』と尋ねると『私、まだ未成年だから』と返ってきた。

19歳の子が『お酒は20歳から』を守るとは、彼女の生真面目さが(うかが)い知れよう。



いろは に書店の仕事を教えるのは修一の係となった。


接客、レジ、商品の陳列、客注、そして特別な事を書き残す『事成(ことなり)ノート』を作って与えた。


修一の思惑は、彼女と少しでも交流を持ちたくて交換日記のようにしたかっただけなのだ。

なかなかの策士だ。


アルバイトの日には、 いろは も少しメイクとファッションを控えめにするように心がけていた。

それでも周りの店の店主は物珍しそうな顔をしていたが、すぐに彼女の可愛らしさに気が付き、『やよい生花店』は余った切り花、『桜和菓子店』はお饅頭やお団子、『鈴木商店』にいたっては用もないのに店に来ておしゃべりをしていた。


そんな様子を見て修一は安心した。


ただ、いろは とお近づきになるに連れて、無性に気になり始めた事があった。

いや、本当は前々から気になっていたのだ。


いろは の彼氏は『アイスボンブ』のボーカル一輝(かずき)なのだ。


どんなに仲良くなろうが いろは は一輝の彼女なのだという思いが、修一の溜息の原因となっていた。


友人の徹は溜息ばかりの修一を見て『所詮、住む世界が違うのだから、深入りしない方がいい』と余計なアドバイスをする始末。



一方、いろは はこの恵まれた仕事場を提供してくれた修一に感謝していた。


ある日、彼女は修一にある提案をする。


「ねぇ、青井君。私ね、すごく感謝しているんだよ。だからお礼をしたいんだけど何も思いつかなくて。それでね、青井君バンド好きでしょ? ギターやってみる気ない? 私、教えてあげるよ」


「え? 本当に? 俺にできるかな? 」


「できるよ。今度、一緒に吉祥寺の『JAZZ喫茶グリーン』に行こう。私の先生もいるしさ。ね? 」


修一は 絶対、必ず、当然 に承諾した。

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