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アイスボンブの追いかけ

後日、修一はひとりで、あの『アイスボンブ』がLIVEを行っていた『JAZZ喫茶グリーン』を訪ねてみた。


その日はバンドの演奏予定はないようだ。


ドアを開けても当然、静かにカラランとドアベルの音がするだけだった。


「いらっしゃいませ」


修一はテーブルに座るとおしぼりで汗を拭いてアイスティーを頼んだ。


演奏が無いためか客は自分の他に2名ほどしかいない。


取り敢えず間がもたないので、カバンから『MUSIC LIFE』を取り出して開く。

修一が普段持ち歩いている雑誌は『POPEYE』なのだが、一応JAZZ喫茶ということなので、わざわざ音楽雑誌を選んで持って来たのである。


アイスティーが運ばれてきた。


修一は、まるで喫茶店でアルバイトの女の子に声をかけるかのようにドキドキしながらタイミングを見計い、口ひげをたずさえたマスターらしき男性に声をかけた。


「あ、あの....」

「はい 」


「あの、この前、ここで演奏してたバンドの事を知りたいんですけど? 」

「はい? えっと、どのバンドの事でしょう? 」


「あ、ああ....あの、たぶん『アイスボンブ』って外の掲示板に書いてあったのですが。」

「ああ、『アイスボンブ』ですね。それで何が知りたいのですか? 」


「今度、いつLIVEやりますか? 」

「この場所でって事ですか? 」


「いや、あの....この場所じゃなくても」

「ははは。ファンになってくれたんですね? ありがとう。『いろは』も喜びます」


「いろは? 」

「ああ、メンバーを知らないのですね。ギター弾いていた子がいたでしょ? あれは私の姪っ子なんですよ。いい音だしてたでしょ? 」


そういうとマスターは少し自慢げな顔をしていた。


「ちょっと待っててね。今、あいつらが刷ったチラシを持ってくるから」


マスターがチラシを持ってきてくれると、修一はカレーハンバーグを追加注文した。


こうして修一の『アイスボンブ』追いかけの日々が始まった。


『アイスボンブ』のLIVEは、全てと言っても良いくらい足を運んだ。


どうやら修一は、まだ初期のファンのようで、バンドの噂は口コミで伝わり、ファンは右肩上がりに増えて行くのだった。


修一が一番気に入ったLIVEはパチンコ屋の上にあるLIVEハウスで、そこでの彼らのパフォーマンスは最高だった。


いつしかバンドメンバーは修一の顔を覚えてくれて、ある日は打ち上げにも参加させてくれたこともあった。


1979年になるとSONYから若者には必需品となる画期的な商品が発売される。


ヘッドホンステレオ『Walk Man』だ。


修一は『Walk Man』を購入すると『アイスボンブ』のカセットテープをいつでもどこでも毎日のように聴いていた。


それは修一が笹塚で甲州街道の信号待ちをしている時だった。

いつものように『アイスボンブ』の曲を聴いていると、後ろから誰かに肩を叩かれた。


振り向きヘッドホンを取ると『こんにちは』と可愛らしい声がする。


長いカーリーヘアーにオレンジぶちのサングラス、そして黒地に細かい花柄のシャツにモスグリーンのベスト、底の高いブーツ、もちろんベルボトムも履いている。


彼女はサングラスをはずすと濃いオレンジ色のアイシャドウをしていた。


それは『アイスボンブ』のギターリスト いろは だった。

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