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優しく揺れる花
決して売ることのない本『シロツメクサの花』を手にしながら、いろいろな事を思い出していると、後ろからおばあちゃんが声をかけて来た。
「ありがとうね。いつも」
「あ、おばあちゃん」
そしておばあちゃんは愛おしそうな目で私が手にする本『シロツメクサの花』を優しく撫でた。
「あの人はね、とっても策士だったのよ。だけどそれは誰よりも優しい策士だった。だって今になってもこうして本屋の中に決して売ることのない本を私に作らせるんだから。本当にいつもびっくりさせられてばっかりよ。ふふふふ」
「おじいちゃんが逝って5年だね」
「うん。私より先に逝くなんて。でもね、万理望ちゃん。私はやっぱり思うのよ。これもあの人の策なんじゃないかって。だって、今、私はまたあの人に会いたくてしょうがないんだもの。でもね、策に乗るのも悔しいじゃない。だから私はいっぱい生きるつもりよ。じらすだけじらしてやるんだから」
店の中で万理望といろはおばあちゃんの笑い声がすると、軒先の植木鉢のシロツメクサの花が揺れていた。
『青葉書店開店します。~シロツメクサの花 完』