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帝都へ

 アルマニア帝国の北部に位置する、帝都オットーブルク。大陸随一の大都市である帝都のほぼ中央に位置する第二離宮――奇しくも親王だった頃のハンスが育ったその場所で、レルテス率いるチザーレ訪帝国使節団は帝国側の担当者との会談に臨もうとしていた。


「しかし相も変わらず帝都は賑やかですな」

「おや、宰相閣下は帝都へ来たことがおありで?」

「えぇ、まぁ。帝国に留学していた頃に一度、学友に誘われましてね。その時は驚きましたよ。メディオルムですら都会に感じていたというのに、帝都(ここ)は比較にならない。一体どれほどの金を、人を、モノを注げば、このような街が出来るのか」


 オストヴィターリ帝国国境警備隊員による大公暗殺未遂事件の影響により、使節団の代表となったレルテスは会談場所の離宮へと続く帝都の大通りを馬車で進みながら、数年来の風景を眺めていた。


 彼の父――大病を得たためさっさと家督を譲り、今は自領で宰相として忙しいだけでなくメディオルムに常駐しなければならない彼に代わって領地と商会を運営している先代のバロンドゥ子爵は教育熱心な人物であり、見聞を広めてこいというその一言でレルテスを知人すらいない帝国へと留学させた。


 属国の子爵ということで貴族至上主義蔓延る帝国においてレルテスが苦労しなかったかと言えば嘘にはなるものの、幸運にも理解ある学友を得た彼は学校から資金と余暇を与えられ、学友らとともに帝国中を回った。――今思えば、アレは恐らく属国の貴族に対して帝国の威厳を示すことが主目的であったのだろうが、彼にとって悪い経験では決してなかった。


 そして、その過程で帝都を訪れた時、若きレルテスは正しく頭を殴られたかのような衝撃を受けた。道も建物も、すべてが彼の知る公国のソレとは文字通り桁違いに大きく、行きかう人の数は比にならないほどだった。


 それまでの帝国歴訪で既に彼の価値観――最も大きな建物は公都の宮殿であるといったような見える世界の狭さからくる――はいとも簡単に覆されていたが、『これが大国だ』と言わんばかりの壮麗で巨大な建築群から構成される帝都を見て、彼は改めて帝国の威厳を知り、後に彼が貴族評議会の議員となった後に親帝国的な改革派として振舞う原体験にもなったのである。


 そんな彼が、場合によっては帝国とやり合うことになる用件で再び帝都を訪れることになったのは、ある意味皮肉では言えるかもしれない。


「……しかし、この活気がありながら政治的には内戦の危機が迫っているとは、国家というものは外から見れば分からぬものですな」

「全く。皇族の情報は国民に対して機密として扱われることは想像に難くありませんし、市井の人間が何も知らないであろうことを鑑みれば不思議なことではありませんが……」


 レルテスと同じ馬車に同乗しているリーグ伯やボルジア伯は、帝都の活気を他所に険しい表情を浮かべていた。帝国で起きる可能性のあるそれとは規模が全く違うとはいえ――彼らは既に内戦の悲惨さを知っている。その渦中に、この壮麗な帝都が巻き込まれる可能性を考えると、レルテスの顔も同様に若干の暗さを帯びた。


 しかし、今は帝国の心配をしている場合ではない。差し迫った問題――帝国駐留軍に関する問題について、彼らは公国にとって最良の譲歩を引き出すためにここに来たのだ。


 最悪なのは大公に仇なす可能性が高いヴィルヘルム皇子の息が掛かった部隊を駐留させてしまうこと。最良は――公国に対して好意的なレゲンスバーグ公爵領軍の駐留を引き出すこと。当初話題となっていた駐留費の話も重要であるが、より差し迫った脅威を回避することと比した時、駐留費の負担は優先度を下げるという内容で帝国領内に入る前に行った事前打ち合わせでは一致していた。


「……見えてきましたね。我々が()()場所です」


 馬車の正面に、会談場所である第二離宮が現れた。

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