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合流

「……長すぎないか?」

「耐えてください。もうすぐしたら地上に出られますから」

「……分かった」


 俺たち3人は護衛のバロンドゥ商会私兵を伴ったまま地下道を進んでいた。しかし、かれこれ30分ほどは進んでいるはずだが一向に脱出できる気がしない。


 こんなに長かったっけ?と思いながら進んでいると、ようやく出口が見えてきた。


「よし、ここを出れば外です」

「やっとか……まさかとは思うが、出口に保守派の兵士がいて捕まるなんてことにはならないよな?」

「流石にありえません。出口の周辺部は、兄様たちが固めているはずですし」

「まぁそれもそうか」


 俺は安堵する。


「でも、念のため警戒だけは怠らないでくださいまし」

「あぁ、分かってるさ」


 そのまま慎重に歩を進める。すると――


「お待ちしておりました、殿下」


 そこには数十人の兵士たちが並んでいた。そして、その先頭に立つ人物は――


「……久方ぶりだな、子爵」

「こちらこそご無沙汰しております。殿下」


 テレノの言葉通り、レルテスだった。彼は俺を見ると礼をするが――クレアの姿を見た瞬間凍り付いた。


「これはこれはクレア公女殿下、ご無沙汰しております」

「お久しぶりです、バロンドゥ子爵。……このような形でやってくることとなってしまい申し訳ありません」

「いえ、こうして再びお会いできたことを嬉しく思います」

「……ありがとうございます」


 クレアはテレノに支えてもらいながら、ペコリと礼をする。


「それで、計画の進捗はどうだ?」

「概ね順調、と言ったところです。一先ず、我々の司令部へとご案内します」

「頼んだ」


 レルテスらに警護され、俺たちは街の外れに設けられた臨時司令部へと向かった。


――――――――――


「おお!大公殿下がお戻りになられたぞ!」


 俺たちを出迎えたのは歓喜の声だった。作戦本部として設けられた建物の中には貴族が集まっており、彼らは皆一様に笑顔を浮かべていた。中には泣いている者までいる始末だ。……ちょっと引くレベルで歓迎されている。クレアは無理をしたのが祟ったのかいわゆるバタンキューとなってしまったので別室にいてもらっている。


「随分な歓待だな」

「殿下が死んだら帝国がキレることを考えてください」

「……それはそう」


 リスクを取ったのは俺自身なので、その諫言は容れざるを得ないだろう。


 しかし――実際問題、多分帝国は介入する気はない。隣国の戦争がどうとか言ってるし、実際に南部軍管区が戦地に抽出されているというのは事実なのだが――チザーレの南方には帝国の統治領であるオストヴィターリ帝国弁務官区が存在する。そこから兵力を供出するなりなんなりすればいくらでも介入することは出来るだろう。にも拘わらず、帝国が送ったのは俺に随伴させたたかだか2個中隊のみである。


 ……ないと思うけど、皇帝陛下が俺を試している説が浮上してきた。まぁ考えてても仕方ない。今はちゃっちゃと保守派を制圧するのが先だ。


「よくぞご無事で……!」

「本当によかった……!」

「これで我々も安心できます……!」


 口々に帰還を祝う声を上げる貴族たち。


「ありがとう諸君。だが、まだ終わったわけではない。むしろこれからが本番だ」

「分かっていますとも」

「我ら一同、殿下と共に最後まで戦う所存です」


 貴族たちは決意に満ちた表情で言う。彼らの目には微塵も不安の色はなかった。ま、そりゃそうだよな。だって保守派が切れるカードがもうないもん。しかし、国家の象徴である宮殿が彼らに占拠された状況を覆さないといけない。


「子爵、彼我の戦力差は分かるか?」

「ええ。と言っても双方非正規軍の私兵か民兵しかいないですが。それこそまともな軍隊と言えるのは宰相護衛隊くらいのものでしょう」

「ふむ……」


 マジでジリ貧になりそうな気がしてきた。前線からの報告にも目を通したが、ガルベスの言によれば前線の反乱軍は無茶な突撃命令でボロボロ、そこに脱走兵が続出して統制のとの字もないらしい。多分首都を一瞬で奪って帝国と交渉、んでその後に挟撃される危険を(はら)んだ公国軍を降伏させて政権奪取!という考えだったのだろうが……


「甘すぎないか?」

「殿下?」


 思わず口に出た言葉を聞いたレルテスが首をかしげる。


「いやなに。連中はよくもまぁこんなお粗末な案で蜂起に踏み切ったものだと思ってな」

「……」


 俺の言葉を聞いて、レルテスは押し黙った。


「話が出来過ぎておりますね。殿下が農民たちに対して常識外ともいえるような布告を出したりしたのは多分想定外でしょうが……」


 テレノが俺の言葉を引き継ぐように言う。


「そういうことだ」


 なーんか嫌な予感がするんだよなぁ。


「……殿下、今一度確認しておきたいのですが」

「なんだ?」

「殿下は今回の内戦をどう終わらせるおつもりで?」

「……そんなこと聞いてどうする?」

「いえ、一応の方針は必要かと思いまして」

「……そうだな。生きてたらの話だけど、首謀者の宰相閣下以下主導した人間は政治犯収容所に行ってもらう。ただ単に従っただけの貴族は……後で考えよう」


 俺の計画を話すと、レルテスは拍子抜けたといった様子で言った。


「それはまた随分と寛大な措置ですね」

「ここで変に厳しく処罰すれば、彼らが非公然とした反体制派に変わる可能性があるからな」

「なるほど」


 俺としてはこれ以上の面倒事は御免被るのだ。それに、彼らも結局は公国の貴族なわけで、ぶっちゃけた話彼らが反旗を翻した理由も3割くらい分かる。そら事実上の宗主国からいきなり皇族送られてきたら乗っ取り警戒するわ。


 ついでに言えば苛烈な取り締まりをやり過ぎて彼らがゲリラ活動に走っても困る。今回みたいに公然と反乱起こされるのは当然厄介なのだが、同じくらい、いやそれ以上に延々と火種を燻ぶられ続けるのは厄介なのだ。


「しかし、それでも不満を持つ者はいるのでは?特に――我々の中から」

「報酬で黙らせる」


 俺は即答した。


「保守派を追い落とすだけでも大収穫だろう。私兵を奪って辺境に行かせるだけで御の字なんて話ではない、違うか子爵?」

「確かにそうかもしれませんが……」

「ならそれでいこう。必要以上の感情に任せた罰というものは、往々にして跳ね返ってくるもんだ」


 俺がそう言うと、レルテスは未だ納得せずといった様子だったが一先ず引き下がった。……こりゃ終戦後の処理が大変そうだ。

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