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mourn


 事故から3日後の正午。


彼は由紀の通夜に出席していた。

急だったにも関わらず、沢山の人々が花を手向け、帰っていく。

色とりどりの花達がホールを埋めて、彼女の最後を彩っていた。



 ぼーっと花ばなを見つめていた彼は、彼女の死を未だ信じられないでいる。いつかひょっこりと帰ってくるような気がして。


 しかし、同時にどこかで分かってしまっている。彼女の笑顔は二度と見れないと。

 ただそれを認めてしまうことが、今の彼にはできない。


 持ち主を失った指輪を握りしめ、2日前の忌まわしい事故を思い出していると、やっぱり浮かんでくるのは、旅行中や、彼女の生前の楽しかった思い出ばかりだった。



 体育館裏で初めてキスしたとき、照れながらも抱き着いてきてくれた由紀。


二人で見た映画で、俺の胸で泣いていた由紀。


初めて一つになった時、一生賢明自分についてきてくれた由紀。


母さんと歩いてたのを見て、勘違いして泣いてた由紀。


あの教会で、頬を朱色に染めて、俺からのプロポーズを受けてくれた、愛しい由紀……。






 俺は棺をあけ、一人やるせない想いで由紀の顔を見ていた。



 ボロボロとこぼれ落ちてくる涙を拭う事もせずに。








 隣人、大学の友人、中学、高校の同級生、また、教師達…

皆、彼女との思い出を思い出しているのか哀しげな顔で俯いていた。




そんな中、由紀の遺影だけは


「拓斗君。」


と今にも聞こえてきそうな顔で、柔らかく微笑んでいた。







 翌日の葬儀も済み、ついに焼かれる由紀。


俺は最後、彼女の手に指輪をしっかりと握らせ、最後の口づけを交わした。











 その夜。



 熱帯夜……。

 冷え切った俺とは裏腹に熱気が押し寄せる。

夜の星たちは今日も輝いて星空を彩っているし、相も変わらず車は道路を走り抜けている。


そして窓から漏れる明かりに寄せられた虫達は音を立てながら体をぶつけている。

 由紀が死んだこと以外、何も変わりはない。




 吸い込まれそうな深い黒の空から抜け出した星達を窓から眺めていた俺はやがて涙も涸れ、ベッドに横たわった。



 由紀のいない世界……。溜め息をつき目を閉じた俺は、精神的に疲れきっていたのか、すぐに眠りに堕ちた。






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