along nestling close to each other
教会を後にし、外に出た俺と由紀は、もう一度目を合わせる。
未だほんのりと色付いている彼女の頬。
それは余りにも色っぽくて、俺はドギマギしてしまう。
照れ隠しに頬をかき、
「行くよ。」
と声をかける
「うん!」
すると、彼女は最高の笑顔を俺にプレゼントしてくれた。
そして二人は静かに歩きだす。
その手はしっかりと繋がれたままで……。
「気持ちいいな。」
噴水を通りすぎた頃、突然俺は彼女に声をかけた。
甘過ぎた無言の空気に堪えられなくなって……。それにしても声大きすぎた……。
恥ずかしい……。
薄い雲から逃れた太陽の光が、木々の隙間をさらりと降り注いでいる。
「そうだね…うふ、拓斗君かわいい」
恐らく彼女は、俺が甘い空気に堪えられなくなった事に気が付いたのだろう。
ほんのり熱を帯びた顔からもわかるように、自分は今、顔が真っ赤になっていると思う。
「……。」
「あっ、ちょっと待ってよー!!」
口をつぐみ、黙って歩き出す俺の後を、笑って急いで追いかける由紀。そんな彼女が、急に後ろから声をかけた。
「ねぇ!あれってスケートリンクじゃない?」
確かに左手に大きな広場があり、窪んだタイルの上に水が張ってある。その入り口に、スケートを滑る少女の絵が書いてある看板があるので、間違いないだろう。
「今は凍ってないけど、冬なら滑れそうだな。」
「冬も……また一緒に来ようね。」
そう言って、ヨーロッパの風物詩を眺めていた俺の肩に頭を押し付けてくる由紀。
その頭を両腕ですっぽりと包み込み、
「来年も再来年も……これから毎年でも来られるさ。」
と囁き、再び彼らは歩き出す。
オスロ大学、国会議事堂、その奥の王宮、平和記念館を過ぎると、やがて海が見えてきた。
「すごいね……、これ。」
海がはっきりと見える位置まできた二人は、海岸の壮絶なフィヨルドに圧倒された。夕焼けが水面に反射し、キラキラと煌めいている。
海岸に腰掛けた二人は寄り添い、どちらからともなくキスを交わした。
オレンジ色に染まる二人。 頭上に変わらず揺らめいていた太陽が沈み……まるで祝福するかのように夜空に満天の星空達が踊りだす。
そんな星達を背に、二人は海を後にした。
ホテルへ戻った俺達。
ご飯を食べたあと、冗談で(ただ、本の少しの期待を篭めて)
「一緒に風呂入ろうか。」と誘ったとたん、真っ赤になって怒りだした由紀になすすべもなく、彼は結局一人、バスルームで体を伸ばしていた。
(このバスルームで一緒に仲良くはいりたかったのになぁ……そうだ。明日は今日見れなかった『旧オペラ座』を見に行こう……それから、『ムンクの叫び』も……)
湯舟につかり、そんな事を考えていたら、少しのぼせてきてしまった。 「喉渇いたな。」
俺は服を着て、由紀に
「後で降りておいで。」
と声を掛け、明日こそは一緒に……などと考えながら、エレベーターのチン、と言う音と共に一階のロビーにおり、自分と由紀の分の紅茶を買った。
すると、由紀を待つためソファで座っていた彼の耳に、啜り泣きのような小さな声が聞こえてきた。
その方向を見ると、どうやら幼い少女が一人、しゃがみ込んで泣いている。
英語が通じるかどうか不安だったが、俺は一応声をかけてみた。
『やあ、僕は拓斗。』
泣くのを止め、不思議そうに見詰めてくる蒼い瞳。
『どうしたんだい?』
俺が問うと、少女は英語で返してくれた。
『ママとはぐれちゃったの』
『なら、お兄さんが一緒に探してあげるよ!』
『ありがとう。』
短い会話の後。
(困った……。)
そうは言ったものの、由紀いつ来るかな……と考えていた、その時
「ごめん、待たせちゃったね。あら?拓斗君、その子は?」
少し赤くほてった浴衣姿の由紀が調度良いタイミングで来てくれた。
それにしても可愛い…じゃなくて、早かったな。
「いやぁ、この子が迷子みたいでさ。お母さん探し付き合ってあげなきゃ。」
「そっか。なら……『ママ、探しにいこっか!お名前教えてくれるかな?』」
知らない言葉で話す二人を不安気に見詰めていた少女だったが、由紀の英語を聞き、
『ありがとう!ジュリーだよ。』
と笑みを浮かべた。
それからしばらくジュリーを間に挟んだ状態で三人は手を繋ぎ、彼女の母親達を探した。
「私達、親子みたいだね。」
そんな最終日のプロポーズを助長するかのような発言に、あたふたと顔を赤くする俺を笑う由紀は、天使なのか悪魔なのか…けれど、
「ずっと拓斗君の傍にいさせてね。」
と言って微笑む由紀を見ればやっぱり天使なんだろうな、なんて思う。
「お……あれか?」
『ジュリー!!』
ビンゴ!探し始めること10分。そんな声が、こちらに向かって走ってくるのが確認出来た。
『ありがとうございます!ほら、ジュリー。貴方もお礼を言いなさい!』
『ありがとう~。えへへ。』
ペチっと叩かれた額を撫でながら、少女が母親に擦り寄る。
『良いんだよ、でも、もうママたちの傍を離れちゃダメだよ?』
『うん!』
『それじゃ、またねジュリー。』
『バイバイ拓斗お兄さん、由紀お姉さん!』
小さな手を懸命に振って俺達を見送ってくれる少女。
その姿も曲がり角によりやがて見えなくなり、やっと俺達は部屋に戻る事が出来た。




