RECALL THINK Of THE PAST
抱きしめていて……
私はいいの。
私が居なくたって、
あなたは大丈夫だから……
信じてるね……
拓斗………
※
夢……か。また、思い出しちまった。
小窓から照り付ける太陽の光に目を細める、綺麗な一人の男性。
「あなた、由紀が遊びに連れてってって……。
あと、ほら。ジュリーさんから手紙届いてるわよ。」
あ、誕生日パーティーのお誘いだな。もう27歳だったか?
妻の声に腰を上げ、今年5歳になる自分の娘を片手で抱き上げる。
「パパと遊園地行くか?」
そう問うと、俺の胸に顔を不機嫌に埋めていた彼女は
「うん!」と可愛らしく頷き、ニッコリと微笑んだ。
あれはニ十年前。……暑い、夏だった。
※
俺、前田拓斗は大学の2回生。成績優秀で、親父は有名企業の社長。将来に夢というものが無かった俺は、俺限定のそのレールを有り難く走り抜けさせて頂く事にしている。
「あ~、旅行ねぇ……。」
今3階の空き教室でうん、うんと嬉しそうに頷き微笑んでいる目の前の女性は俺の彼女、早乙女由紀。
因みに俺が初めて惚れた女性である。
一つ年上で、大人しくかなりの美人。思いやりがあり、少しドジだが、何事にも全力を尽くす、そんな女だ。
2年前。顔と金に無数に擦り寄って来る女達がうざったく、『女』というモノを毛嫌いしていた俺の目に、彼女だけは違って映った。
何と言うか……。蝶みたいだなと思った。
一目惚れって奴かな。
如何にも友達に無理矢理連れて来られたって感じで俯いてたけど、俺から連絡先を聞き、何度か会う内に、想いが通じ合い、今のような関係に至った。
「ノルウェーなんてどう?」 そんな彼女に、俺が昨日の夜一人ニヤニヤしながら考えたプランを説明する。
もうすぐ入る夏休み。
その最後の1週間に、ノルウェーの首都、オスロへ訪れよう、と。
あらあら…黒く大きな瞳で頬を緩ませている彼女は、空想の世界に出かけてしまったよう。 なんだか、無茶苦茶幸せそうだ……。
「ゆーき。」
彼女の肩を叩くと、現実へと帰ってきた彼女は顔を赤らめ、
「ごめん、妄想してた」と言って、舌を出して笑った。
そして前日になり……
俺達は街へと出掛け、キャイキャイとはしゃぎながら、仲良く買い物を終えた。
左手に絡まる彼女の右手を愛おしく感じた俺は、
「明日、楽しもうな。」
と言って微笑みかけた。