1-04 準備運動
この体の構造は、既に知識として引き出せる。
要は、慣れだね。
前の皺くちゃの身体でも、使い様で鉄板に穴開けるくらいのことは出来たんだ。
この縮んだ体と、有り余る出力に強度を計算すると、化け物だね。
素の状態で戦闘用のハードスーツを引き裂く位は、簡単に出来そうだ♪
見た目に騙されてると、痛い目じゃ済まないだろうネ~。
そうだ、あたしの見た目は黒碧髪黒目、直毛の髪の長さは腰まで有るね。
見た目は、8歳児相当の幼女だよ。
額には、輝石型センサー入りのカチューシャをはめ、両腕に幅広のバングル、両足にはアンクレットが輝いている。
このカチューシャは、顔を覆って簡易シールドにもなるよ。
今は、普段着の紫紺の単衣に帯をしめて足袋に下駄を履いている状態だ。
『チョッと身体を動かして来るから、何かあったら連絡をよこしな、分かったね』
[アイアイ!マスタ~]
それじゃ~少し外に出ようか。
船の中心部から一気に外にテレポートすると、眼下に薄っすら見えるのは、キシャールの全体像だ。
まだ星の殆どない銀河間空間だけど、全天の半分を占める間近に迫るアンドロメダがキシャールの船体に反射して輝いている。
簡単にキシャールの外観検査もしておこう。
私は、そろそろとキシャールの回りを飛び始めた。
キシャールは、直径5kmの球形の宇宙船だ。
装甲外壁は、鏡面に磨かれ主星ニビルの無限工房に使われている特殊流体金属が厚さ100mで3重に覆っている。
直径3kmの核の部分は、あたしのテリトリーであたし以外入れない仕様だ。
入ったが最後、無条件で原子まで分解される。
ここも、外壁と同じ装甲が施されている。
私的な工房やあたしがキシャールに施した実験の集大成がこの核の部分だ。
核の部分が生き残れば、いくらでも外郭部分は復元できるし、拡張も思いのままだ。
今は、外壁から核までの高さ700mの空間に、一般的な工房設備やドックに造船所、生活に必要な全ての環境が揃っている。
運斬技牙の技術の粋を集めて建造されたエクストラNo2のキシャールは、エクストラNo0の無限工房とNo1のセントラルをベースに、その後開発予定の人型のNo4を除いてNo5までのテストベットとして設計された試作実験艦だ。
予定されたテストが終了した後、使い所が難しいと放置されていたこの娘をあたしがぶんどって家にしたんだけどね。
あたしの仕事柄、後から医療に特化した部分がだいぶ増えたのはご愛嬌さね。
何の因果か、その御蔭であたしはこうして生きている・・。
一回りしてみたけど、特に損傷は無し。
綺麗~なもんだ♪
『外観に異常なし!今日もキシャールは美人よ~♪』
[うれしー♪]
返事と同時にキシャールが輝き出した。
絢爛と言っていい光輝を振りまき、キシャールを中心に光が踊る。
あたしが飛ぶのに合わせてガイドビームやイルミネーション、外部立体映像を駆使して鳥や動物に幻獣と云われている者達が踊り狂う♪
ちなみにあたしは呼吸をしないので、見た目はキシャールの中に居た時と一緒だ。
そろそろ準備体操も終わりにして、テストと行きましょうか・・。
キシャールがあたしをどんな化け物にしたのか・・、あたしがキシャールにしたように。
『キシャール、ターゲットを出して。
最初100から、60秒ごとに倍にして5分』
[ラジャー!]
不規則に動くターゲットがあたしの進行方向に現れた。
あたしの額のセンサーがチカリッと光り、バイザーが目の部分を覆う。
両腕のバングルと両足のアンクレットが光り、それぞれが変形してガンブレードとグリーブを生成する。
あたしは、視線でターゲットを複数ロックして撃ち始める。
ガンブレードからの光波弾は、思考誘導型で100発100中だ。
寄らば切るぞを体現するように、すれ違いざまに近場のターゲット
は、ガンブレードにまとわせた重力場に引き裂かれて消えていった。
グリーブにも重力場をまとわせて、後ろから迫るターゲットを回し蹴りで粉砕。
最後の1分はターゲットからも攻撃が始まるが、武器防具にまとわせた重力場に阻まれカスリもしない。
5分間で、100+200+400+800+1600+3200=6300のターゲットは尽く消滅したのだった。
このくらいじゃ汗もかかないか・・って、そもそもこの体は汗をかくのかね~?