2-02 ファンタジー?
スラム地区の公共事業は、計画した通り破壊工作が実施されている。
だが何故だ?どうしてこんなに人的被害が少ないのだ。
碌な安全対策もしていない、役所の浮浪者対策の公共奉仕など税金の無駄だ。
我々のような正規のゼネコンが受注し、労働者を手当してはじめて公共事業が成り立つのだ。
あんなスラムの連中に、仕事をさせるなど無駄なのだ。
税金を、ドブに捨てているような物では無いか。
しかし、何故だ?
もう数百人は、死人なり怪我が出ているはずだ。
リタイヤするなりして、人が集まらなくなるはずなのだがおかしい。
人が集まらなければ、我々に発注されるはず。
本当にどうなっているんだ?
仕方がない、次は民間人にも被害が出るかもしれんが仕掛けの数を増やすとしよう。
恨むなら、しぶとく生き汚いスラムの連中を恨むがいい。
◆
[ナァ~ウナ~ン(マスター、大手ゼネコンがスラムの一掃を企てている様です。公共事業の妨害を皮切りに入札競売を梃子にしてスラム地区の地上げを計画している様です)]
『フ~ン、それで?』
[ナァウナウ~ン(この診療所も地上げ対象になっています。潰しますか?)]
『ケケケケケッ♪当然!売られた喧嘩は利息を付けて買おうじゃないか♪
誰に喧嘩を売ったか後で後悔しても遅いけどね~』
黒衣の幼女が診察しながら話している様子を見て、診察されていた同年代の金髪の幼女が不思議そうに聞いた。
「アン先生、さっきから大っきい猫さんと喋ってるけど、なんて言ってるか分かるの?」
『ああっ、分かるさね。
このキシャールとは、なが~い付き合いだ。
ホントは、声に出さなくたって話が出来るんだよ』
「すご~い!」
『さあ、これで終いだ。
随分と良くなって来たよ、もうみんなと一緒に走り回れる』
「うん♪ありがと~」
側に居るのは、この娘の母親だろう。
ペコペコと水飲み鳥の様にお辞儀を繰り返している。
貧相な身なりをしているが、元は良いところのご令嬢だったのではないだろうか?
薄汚れている割に礼儀がしっかりしている。
「何と御礼を云って良いか、本当にありがとうございます」
『な~に、貸し一つぐらいに思ってればいいよ。
取り立てなんかしないから安心しな』
「そんな、娘の命を助けて頂いたのに・・。
他では治療費をむしり取られ、不治の病と匙を投げられ、こんなところまで落ちてきましたが腐ってもザイン商人の端くれ。
何かしら御礼をしなけれが気が済みません!」
『それじゃ、診療所を手伝っておくれでないかい?
あたしとキシャールだけだとチョッと手が足りないんだよ』
視線を後方に向けると、治療を待つ患者の列でスラムの一角から行列が出来ていた。
立てない程の重病人も、行列のゴザに寝かされている。
治療が済んで身体の動く者達は、率先して列の整理や症状の聞き取りなどを手伝っていた。
アンがここに診療所を構えてからもう半年になる。
その間には、色々と騒動が遭った。
スラムを縄張りとする地回りが、ミカジメ料を寄越せと殴り込んできたり、並んでる患者の邪魔をしたり、色々と嫌がらせをしてきたり、ホントに怖いもの知らずである。
金は無いヨ♪と言ったら、あたしを娼館に案内するって云うじゃないか。
ニコニコしながら付いて行って、女達の健康診断をして治療してやったよ。
いつかはヤラないといけないとは思っていたんだよね~、うん!丁度良かった。
随分と患ってる女達が居たけどね、今じゃ全員健康体だ。
具合が悪くなったら遠慮せずに診療所においでと地図を渡しといたよ。
次の日には、変わらずに診療所で患者を見ていたら、けしからん事に奴ら診療所の壁を叩き壊して大穴を開けてくれたじゃないか。
チョッとばかりカチンと来たんでね、地廻りの拠点を口笛吹きながら潰して回ってヤッたよ!
片っ端からね、ケケケケケッ♪
そしたら、あたしの口笛の音を聞くと青くなって逃げ出すように成ったんだ。
それでも懲りない連中ってのは居るもんでね~、入れ代わり立ち代わりあの手この手で治療に並んでる患者から毟ろうってんだから笑っちまったよ♪
丁寧に半殺しにしてから時間を掛けて並ばせて、一番最後に治療してやったよ。
もちろん無料のはずは無いがね、当たり前だろう。
分かってるよな~?って云いながら寄付を迫ると有り金全部置いていったよ♪
流石に一巡したら骨身にしみたらしくって、この辺であたしに楯突くチンピラは居なくなったんだけどね、今度はこの街を仕切ってるマフィアのお出ましだよ♪
全く呆れたね~。
ぷちっと潰してやろうか!とも思ったんだけどさぁ~切りが無いしどうしようかね~?
あたしの前には、ノッソリと突っ立っている迫力のある爺さんが一人。
こいつが、そのマフィアのボスらしいよ・・。
「無視するのは、やめてくれんかね。
それで、お嬢ちゃんがスラムの大先生で良いのかい?」
『・・フンッ、大先生かどうかは知らないけどね、ドクターアンはあたしだよ。
健康体に要は無いよ!お帰りはアッチだ。
大体、入り口にデカイ図体で突っ立ってんじゃないよ。
治療の邪魔だろうが!』
「儂がこの歳で健康だと直ぐに分かるのかい・・。
見かけによらず、大したお嬢ちゃんだ」
『さっきからお嬢ちゃんお嬢ちゃんうるさいね!
こう見えてもあたしゃ、あんたよりも年上だよ、敬いな♪ケッ』
「・・」
『用がないなら、サッサとお帰り!こちとら後が詰まってて忙しいんだ』
「ああっ、失礼した・・」
爺さんは、大人しく・・表に出ていったね。
でもありゃ~素直に帰る玉じゃないよ。
いつものように患者を熟し、列が短くなってくると一番最後にあの爺さんが並んでるじゃないか。
『なんだい、ここじゃ頭の病気は診てやれないよ、他へ行きな・・』
「そうつれない事をいいなさんな。
今日一日、お前さんの仕事ぶりを見せてもらったが、大きな教会以上の患者を全て一人で治しておる。
それも、ほとんど一度の診察と治療でだ・・。
こんな事は、どんな大司教でも無理な話だ」
『・・おい爺さん、あたしゃここに来てまだ半年だから詳しいことは知らないが、何だいその教会だとか大司教ってのは?』
「・・スラムに腕のいい治癒士が来たって噂になってたから見に来たんだが、こんな世間知らずだとは思わなかった。
お嬢ちゃんは、随分と辺境の出らしいな。
教会ってのは、神聖魔法を使う者達が治療や加護を与える場所だ。
その中でも大司教ともなれば、高度な治癒魔法で死人も生き返らせるって代物だ」
『・・通りでここには、病院が無いと思ったよ。
アンドロメダでは、お祈りで病気を治すのかい。
随分とお目出度い文化だね~』
「お嬢ちゃんだって、魔法を使ってるじゃないか。
手が光ったり、見る間に傷が塞がったり、どう診ても魔法だ。
下町の治癒士が使える技量の魔法じゃね~よ」
『ありゃ~、チャンとした医術と科学技術の融合だよ。
効くかどうかも知れないお呪いと一緒にされちゃ~困るね』
「詳しいことは、儂じゃ分からねーが、そのうち教会が乗り込んでくるぜ!」
『・・それであんたは、どうしたいんだい?』
「♪ありがて~、やっと話を聞いてくれる気になったみてえだな。
儂の名は、ジャン。
この辺を仕切るジャンバル一家のボスをやってるもんだ。
折り入ってアン先生に相談が有る!」
『面白そうな話なら乗ってやってもいいよ。
キシャール、お茶!』
[ナ~ウン(はい、マスター)]
「・・しかし、良く懐いてるな、こんな猛獣が手足のように・・。
こいつぁ~クアールって猛獣だよな?」
『あんた、博識だね~。
でもこいつは、あたしの使い魔さね。
あんたの言ってる猛獣とは別のもんだよ』
「使い魔?あんた魔道士だったのか・・」
『あたしは、Dr.アン。
魔道士でも教会の治癒士でもないよ』
ゴブリンが出てきた辺りから変だと思ってた・・。




