2-01 予感
今日は、何時にも増して賑やかだ。
傷だらけの男達が所狭しとうずくまっていた。
工事現場で崩落事故があったのだ。
診察台の上には特に酷い、体中傷だらけの男が唸り声を上げていた。
禄に麻酔も掛けていないのだろう、暴れない様に手足を診察台に固定され、右足を膝下で縫っている様だ。
切断されていただろう足が見事にくっついてゆく。
縫合の手が見えない程のスピードで、血管も神経もつなぎ合わせてモノの5分ほどで処置が終わった。
『キシャール、こっちは終わった~。
後は、飲薬出しといて~!
おいちゃんもチャンとしたもん食って、大人しく寝てな。
どうせその足じゃ7日は絶対安静だよ。
化膿止めと痛み止めを出しとくからね、懐が寂しいからって売りはらうんじゃないよ!』
「先生、ありがと~やした!これで又仕事に出られやす。
この怪我じゃ~片足で野垂れ死ぬしかネ~と諦めてやした。
この御恩は一生忘れねえ!」
『フンッ、野垂れ死ぬぐらいならその体寄越しな。
あたしがバラして世のため人のために有効活用してやるよ!』
「ぶるるっ、怖いこと云いっこ無しだぜ。
先生が云うと本気に聞こえて仕方がネ~や・・」
『あたしゃ至って真面目だよ。
移植を待ってるドナーは、星の数ほど居るんだ。
要らないっていうなら、貰うに決まってるじゃないか♪』
「勘弁してくれ~、先生!」
『無駄口叩いてないで、早く帰って寝てな。
その辺、ほっつき歩いてると又事故に遭うよ!』
「分かりやした~、ありやと~やした!」
男は、今まで片足がちょん切れていたのが嘘のように、自分で立って帰っていった。
その事実に、本人も回りの男達も気が付いていない。
どうせ、此奴等は7日もジッとしては居られないだろう。
そんなに小屋でゴロゴロしていたら、餓死してしまう。
ここは、そんな最下層のスラムなのだ。
[ナァ~ウ(マスター、良いんですか?
治療代貰わなくて・・)]
『良いんだよ。
こちとら趣味で医者やってんだ、色んな症例をタダで見られるんだから、こっちが払いたいぐらいだよ♪
大体、あたしもあんたも衣食住は、必要無いじゃないかい』
[ナァ~ウナァウン(そうなんですけどね~、絶対にトラブルが向こうからやってきそうですよ)]
『退屈凌ぎに良さそうじゃないか。
バッチコイ!だね~。
それにしても最近事故が多いね・・』
[ナァ~ウナウン(ああっそれなんですけどね~、人為的な事故っていうかテロですよ!あれ)]
『面白くなってきたじゃないか♪』
[ナァウ~ン(又首を突っ込むんですね、ハァ~)]




