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1-09 顛末




 辺境の星間国家ガアが、呆気なく滅亡した。


 周辺の国家からは、鼻摘み者として忌み嫌われていた。

 どんなに忌み嫌われていようとれっきとした独立した星間国家だ。

 流石に敵対してまで(いさ)めるような国家は皆無だった。

 そして、救済の手を差し伸べる国家も・・皆無。

 因果応報、罰が当たったのだと揶揄(やゆ)される始末だ。

 ただし、そこをお得意様にしていた取引先は慌てた。

 ガアの主星から這々(ほうほう)(てい)で逃げ出した。

 そして、逃げ出して来た担当者は、それまでの恐ろしい経緯を詳細に報告した。

 情報から予想されたのは、致死性の伝染病だった。

 担当者ほかガアに接触していた者たちの検疫は、厳しく行われた。

 しかし、問題になるような病原体は、一つとして検出されなかったのだ。


 実はこのDGウイルス、ゴブリン以外の体内に侵入するとアッと言う間に無害なレトロウイルスに変異して体外に排出されてしまうので検出が難しい。

 感染前は無害なDGウイルスは、ゴブリンの体内で特定の遺伝子にだけ反応し凶暴な殺人ウイルスに変貌するのだ。

 宇宙を渡る者は、少なからず未知のウイルスや病原菌に対策を取っているのが当たり前の話だが、今回は感染源の経路も判明していない。

 間違いなくウイルス感染によるパンデミックが疑われるのである。

 感染源を想定する暇もなく、ゴブリンを狙い撃ちしたように死んでゆくのだ。

 他の星に居て、接触していないゴブリン達迄もが同じ症状で死んでゆく。

 そして、普通では考えられない程のスピードで白骨化してしまうのだった。

 その異様な光景と、他の種族から忌み嫌われていた事も、今回の件を後押しする事になった。

 進んで彼らの治療にあたる者など、皆無だったからである。


 かたやキシャールは、マスターの命令を忠実に実行し、その行動は徹底していると云ってよかった。

 散布された物と同じDGウイルスをその体内に抱えたインセクターが、ガアの関連施設や宇宙船を介して、他の関連のあった星や星間組織に拡散していったのだ。

 まさか、誰も想像しないだろう。

 感染源其の物に高度な隠蔽能力と情報収集能力、そして機動力が存在しゴブリンを狙い撃ちしているとは・・。

 こうしてこの銀河から、ゴブリンは姿を消していったのだった。

 



 ◆




 ドクターアンが再びこの村を訪れたのは、彼女がここを去ってから丁度3ヶ月ほど経った頃だった。

 彼女が云うには、あの悪魔たちは流行病(はやりやまい)でこの世界から逃げ出していったからもう安心して良いと云うのだ。

 信じられん話だが、そのうち暇が出来たら見に行って来たら!と囁かれたのだった。

 彼女が去って(しばら)く経つと、近隣の隠れ里からも同じような話が流れてきた。

 俺たちは、数人の決死隊を募って見にゆく事にした。

 一番近い奴らの拠点まで、馬で片道10日ほどだ。

 到着した俺達が見たのは、綺麗に片付けられた奴らの拠点と白い山だった。

 そこに転がっているのは、元は立派だっただろう服を着た、白骨の山だったのだ。

 何の骨なのかは、すぐに想像出来た。

 あの悪魔達の骨なのは、一目瞭然だったからだ。

 奴らの黒くそびえ立つ城は、跡形もなく消えており、拠点の跡と骨だけがそこには残されているのだった。

 ドクターアンから聞いた通り、ガアはこの世界から去ったのだと・・。



 我らは、一度全てを奪われたが復興は驚く程の速さで進んだ。

 その理由は、ドクターアンがそれぞれの村に奇跡の魔導書を置いて行ったからだった。

 最初は、簡単な医療書のたぐいだと思っていたがそれは大きな間違いだったのだ。

 何で出来ているかのかも分からない粘土板だが、そこに次々に表示される事柄は、我らがかつて奪われたであろう文化と技術の数々だった。

 色々な薬や病気、その治療法に始まり、詳しい素材や食物の数々。

 建材資材の製作法や建築の方法、統治の有り様から政治まで。

 果ては、訳の分からない化学式や動力機械の設計図にランプに変わる明かりのとり方などなど・・。


 ドクターアンは、あの時を最後に姿を表す事は無い。

 しかし、至るところで目にする事が出来る。

 公園や学校をはじめ病院や図書館、役所の入口には必ず黒き獣に乗った少女の銅像が置かれているからだ。


 彼女は、気が向いたらまた風のように現れるんだろうか・・。






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